4 教育・研究組織等
(2) 各学系の研究
 
@ 学校教育学系
ア 研究の特色
 本学系は,学習臨床に関わる研究領域(教員17名),生徒指導総合に関わる研究領域(教員6名),学校心理に関わる研究領域(4名),教職に関わる研究領域(13名)から構成され,学校教育に関わる基礎・臨床的な研究活動を活発に推進している。
イ 優れた点及び今後の検討課題等
 本学系の研究の実績は上越教育大学研究プロジェクト研究にもある。採択された研究数をみると,平成19年度で17件(附属学校園を除く)中8件で47%,平成20年度で18件(附属学校園を除く)中9件で50%であった。全体で5学系あるが,本学系で50%を占めていることは特筆される。その研究テーマは次ぎのとおりである。
・新学習指導要領に対応した公立中学校における学力向上の取組に対する臨床的支援プロジェクト
・比例的表象を生かした小学校の割合の授業についての学習過程臨床的研究
・中学校における学級経営をテーマとする教員研究システムの構築に関する実践的研究
・人間関係形成能力を高めるソーシャル・スキル・プロジェクト―学校現場におけるアクション・リサーチ―
・「式をよむ」ことを重視した小学校算数の授業についての学習過程臨床的研究
・児童に科学的な見方・考え方の基礎を培う生活科学習の創造―低学年児童にふさわしい自然認識と理科学習への連続―
・社会認識を深める教材開発研究―大学・附属小中・地域との臨床的協働研究による地域教育実践学の構築をめざして―
・教員養成における反省的思考力の育成に関する研究
・子どもの思考が創造的に展開する局面の見極めと教師の指導―大手町小学校との共同研究―
 

 
A 臨床・健康教育学系
ア 研究の特色
 本学系は,主として臨床に関わる研究領域を担当する教員によって構成されている。具体的には,臨床心理学,障害者臨床を含む特別支援教育学,さらに医学領域を含む健康教育学等である。これらの領域を担当する教員の多くは,臨床実践の場として,心理教育相談室,特別支援教育実践研究センター,及び保健管理センターでの業務を兼任しており,学内及び地域に多大な貢献をしてきている。
 臨床心理学を担当する教員グループでは,心理教育相談室における心理臨床業務を担う傍ら,臨床心理学に関する研究実践を積極的に行い,その成果は,臨床心理学領域の学会誌への掲載,臨床心理学関連諸学会における研究発表によって公表されている。また,心理教育相談室の研究紀要でも研究報告等が多く掲載されており,大学院生との共同研究の成果も公表されている。特別支援教育学を担当する教員グループでは,3カ年にわたる特別支援教育経費による「特別支援教育のための大学院における教員養成・研修システムの開発:特別支援教育実践研究センター及び附属学校の活用を通して」という事業に取り組み,報告書の刊行,セミナーや報告会を開催し,学生や地域の教職員等に対して研究成果を公表した。また特別支援教育実践研究センター紀要も刊行した。さらに平成20年12月には,心理教育相談室と特別支援教育実践研究センターの共同による「特別支援教育フォーラム」が開催され,地域の教職員や保護者に対して研究成果を還元した。健康教育学を担当する教員グループでは,保健管理センターでの業務を担う傍ら,学生の健康管理に関する調査や,心身面の健康を維持するための予防教育に関する研究も行っており,これらの成果は,本学の学生や教職員のみならず広く地域にも還元されている。
イ 優れた点及び今後の検討課題等
 本学系の教員の担当する研究領域は,上述したとおり多岐にわたっているが,全体的には,人々の心身面の健康福祉や特別な教育的ニーズに対応した臨床的な研究を進めてきている。特に,学内研究プロジェクトにおいては,本学系の藤井和子講師が「特別支援教育における個別の教育支援計画の活用と評価に関する実践研究」を成果報告書に公表した。
 以上のように,本学系の教員の研究は,本学の学生や教職員のみならず,地域の人々から多くの期待を担ってきている。このような状況から,本学系の教員は,授業や学生への研究指導や校務を行いつつ,地域に根ざした研究活動を行っており多忙な業務を担っている。今後は業務の効率化を検討するとともに,研究スタッフの増員が必要である。
 

 
B 人文・社会教育学系
ア 研究の特色
 本学系に所属する主な研究領域は次のとおりである。
 国語学,国文学,漢文学,国語科教育,書写・書道,英語学,英米文学,英語科教育,小学校英語教育,ドイツ文学,歴史学,地理学,法律学,経済学,倫理学,宗教学,社会科教育。
イ 優れた点及び今後の検討課題等
 本学系に共通するプロジェクトは認められないが,研究活動として上記領域に関する次の3学会が組織されており,学生を含めた研究活動が積極的に展開されている。
 「上越教育大学国語教育学会」
 昭和58年7月に設立。上越教育大学言語系コース(国語)の教員,学生,卒業生・修了生をもって組織され,会員数はおよそ800名である。国語科教育及び国語学,国文学,書写・書道の研究を深め,会員相互の親睦を図ることを目的とする。機関誌『上越教育大学国語研究』(最新号は平成21年2月発行の第23号),学会報『上越教育大学国語教育学会報』を刊行し,例会を年2回開催する。6月の例会は卒業生・修了生による研究発表,2月の例会は卒業・修了年度の在学生による研究発表が中心で,それぞれ教員の研究発表が加わる。6月の例会は外部研究者による講演を教員の発表に代えるばあいがあり,本年度6月には小松英雄氏(筑波大学名誉教授)による公開講演「疎読・勘読から精読・味読へ―仮名文字の機能から古筆の再評価に及ぶ―」を行った。
 「上越英語教育学会(The Joetsu Association of English Language Education)」
 平成9年9月に設立。上越教育大学大学院言語系コース(英語)の教員,所属学生及び修了生を中心に組織され,会員数はおよそ150名である。毎年7月に年次大会を開催し,機関誌『上越英語研究』(最新号は平成20年12月発行の第9号)を刊行し,会員の研究成果発表の場となっている。本会は,英語科教育,英語学・言語学,英米文学の研究を深めるとともに,会員相互の親睦を図ることを目的とし,研究発表会等会員の研究活動を促進する事業,会員間の情報交換及び親睦を促進する事業等を行っている。
 「上越教育大学社会科教育学会」
 昭和61年3月に設立。本学社会系教育及び本学大学院社会系コース在籍者並びに修了者を中心に組織され,会員数はおよそ500名である。会員の分布は北海道から九州まで全国に及ぶ。毎年1回,学術大会を開催するとともに,機関誌『上越社会研究』(最新号は平成20年10月発行の第23号)を刊行し,会員の研究成果発表の場としている。
 なお,(ア)項の研究領域において,本年度は漢文学・イギリス文学・ドイツ文学専攻の教員を欠き,社会学・哲学等についても補充される必要がある。今後の検討課題となる。
 

 
C 自然・生活教育学系
ア 研究の特色
 本学系に所属する教員の主な研究領域は,代数学,幾何学,解析学,応用数学,数学科教育,物理学,化学,生物学,地学,理科教育,野外観察,機械工学,電気工学,情報科学,金属加工学,木材加工学,技術科教育,食物学,被服学,保育学,生活経営学,家庭科教育等の自然科学及び生活科学に関連した専門分野に亙る。
イ 優れた点及び今後の検討課題等
 独立行政法人大学評価・学位授与機構による「本学の中期目標の達成状況に関する評価結果」の研究成果の状況が“期待される水準にある”とされた判断理由の中に,本学系所属教員の学術論文2編が「北海道の中新統築別層から鯨骨群集を発見したことの報告,40年間解けなかった幾何学の未解決問題へ肯定解を与えた研究は,国際学会誌に掲載されて高い評価を受けるなどして,優れた研究成果を上げている。」と評価されている。このことは本学系の優れた研究成果として特筆すべき点である。今後も優れた研究成果をあげることが望まれる。
 本学系所属教員が参加したGPプロジェクト研究等は,特色GPプロジェクト「教職キャリア教育による実践的指導力の育成」・「上越教育大学(上越・妙高地域連携)スタンダード」,専門職大学院GP「即応力を育成する教職大学院教育課程の構築」,専門職大学院GP「教職大学院の実習等のFDシステム共同開発」及び学校支援プロジェクトである。学内研究プロジェクトには,2件(継続及び新規)が採択された。
 

 
D芸術・体育教育学系
研究の特色 
 芸術・体育教育学系における研究領域は音楽,美術,保健体育学で構成される。各研究領域はさらに,音楽:声楽,器楽,作曲,音楽学,音楽教育学,美術:絵画,彫刻,デザイン,工芸,美術理論・美術史,美術教育学,保健体育学:体育学,運動学,学校保健学,体育科教育学の柱からなる。さらに,体育学は体育心理学および体育哲学の専門学で構成されている。また,運動学の場合も運動方法学,運動生理学およびバイオメカニクスの専門学で構成されている。本学における音楽,美術,保健体育学の研究の特色は,それぞれの教員がこれらの専門学における基礎的理論を学校現場における各教科に固有に現象する問題に対してアプローチする手段として用い,多面的な視点から基礎的理論と指導実践・体験を有機的に融合させるような研究を推進している点に大きな特色がある。
イ 優れた点及び今後の検討課題等
 本年度の芸術・体育教育学系の研究の優れた点としては,保健体育学の研究領域における博士号(教育学)取得1名が上げられる。また学内プロジェクト1件「からだの感じを大切にしたやさしい運動指導法に関する実践的研究(平成19〜20年度)?現職教員の研修のための運動プログラムの開発を中心にして?」の成果が報告書にまとめられ,公表された。平成20年10月5日に上越教育大学創立30周年行事として,「芸術・体育教育学系(音楽)教員コンサート」が本学講堂で開催された。プログラムはソプラノ独唱,バリトン独唱,ピアノ独奏,作品発表(新作初演を含む)である。また,同じく創立30周年行事として「芸術・体育教育学系(美術)教員及び大学院生・学部有志による作品展」が講堂ロビーを会場に開催された。さらに,同日,美術教員等が支援した「特別支援学校生徒による造形ワークショップ」が行われ,その作品が講堂ロビーに展示された。
 特筆すべき継続中の研究としては,国土交通省平成20年度地方の元気再生事業「日本一の健康保養温泉地創造事業(岳温泉)」における「運動前の温泉入浴および水分・アミノ酸摂取後の運動に及ぼす影響に関する研究」や学習者の現状にあったゲームの対決情況を社会構成主義の観点から考慮した新しい戦術アプローチによる開発研究「ボールゲームの指導法研究」がある。
 その他,審判・審査・講習会等についても,音楽,美術,保健体育学において上越市内,新潟県内,さらに全国的に多数の実践がなされた。