第一章　組織の運営状況に関する自己点検・評価｜上越教育大学年次報告書（第25集：平成21年度版）

上越教育大学心理教育相談室（以下「相談室」）は，心理臨床に関わる相談に対する社会的要請に応じるとともに，本学の大学院生等の心理臨床に関わる相談活動に関する教育訓練を行うことによって，心理臨床における実践的な教育及びその研究の推進に寄与することを目的として平成12年12月に開所した。

相談件数の増加等に伴い，平成19年２月に心理教育相談室の移転（旧，人文低層棟261㎡から，新たに職員研修センター棟を改築し353㎡へ引越）を行った。さらに，平成22年３月には，職員研修センターを廃止して，施設の拡張整備（50㎡を増設し，延べ403㎡）が行われた。　

また，財団法人日本臨床心理士資格認定協会からの相談の有料化についての意見を踏まえ，相談活動区分の再設定と区分毎の料金を定め，平成19年４月から運用している。なお，それ以前からの継続ケースに適用されていた経過措置は平成22年３月をもって終わり，平成22年４月から完全有料化になった。

相談室の活動方針は，・）心理臨床に関わる相談に関すること，・）心理臨床及びその周辺領域に関わる学術調査・研究及びその成果の発表と刊行に関すること，・）臨床心理学の実践的活動とそれに基づく理論の体系化に関すること，・）大学院学校教育研究科学校教育専攻臨床心理学コースの臨床心理実習の指導に関すること，・）学校及び地域社会などへのコンサルテーションに関することの５項目を中心とした業務を円滑に進めることである。

平成21年４月～平成22年３月までの相談室の利用状況は次の通りである。まず，新規相談の受理数は33件であった。また，学齢・年齢等の区分による延べ相談件数は，就学前77件，小学生299件，中学生264件，高校生94件，大学生０件，社会人236件，その他０件で，総計970件であった。

平成12年12月の相談室の開所以来，相談の申し込みが増加し，相談員が担当する相談業務も増加の一途をたどっている。また，相談業務の内容としては，問題を有している本人に対して行われる継続的な面接である「臨床心理面接」（500件）が最も多く，次いで，保護者等を対象として行う「心理教育相談面接」（489件），幼児や児童を対象として行われる継続的な面接である「遊戯面接」（315件），問題を有している人に関わっている人（教員など）への助言等の面接である「教育相談面接」（４件）などが行われた。

平成22年３月に，相談室の紀要（「上越教育大学心理教育相談研究」第９巻第１号）を刊行し，相談室スタッフを中心とした執筆者が８編の研究論文を掲載した。また，相談室の概要，平成21年度修士論文題目一覧及び論文概要を掲載した。相談室の紀要は，今後も本相談室の研究成果を公表するとともに，上越地域を中心とした専門機関や施設等との研究交流や連携を深めるための情報誌としても期待される。

平成21年度は，当コースの大学院生（１年13人，２年20人，研究生等２人　計35人）に対する臨床実習指導を行った。実習の中心は，相談室における臨床心理基礎実習で，学生は「相談研修生」として登録した後に，模擬面接実習，相談場面の観察・陪席，ケースカンファレンスを経て，相談室に来所するケースに対して，スーパーバイザーである相談員の指導のもと，相談業務を行ってきた。また，精神神経科等の専門病院，家庭裁判所，児童相談所，保健所，少年院などでの短期間の実習も行った。以上のように，当コースの学生は，２年間の間に，臨床心理基礎実習及び臨床心理実習を中心とした“実務実習”が課せられ，これらに費やす時間は，２年間を通してほぼ恒常的に受講するもので莫大になる。したがって，それらを責任を持って指導する６名の教員が担う，教育研究指導も莫大なものとなっている。さらに，修士論文の作成が必修となっており，学生は，２年間にわたりほぼ毎週課せられている臨床心理実習を行いながら臨床心理学研究を進めなければならず，学生及び指導教員にかかる負担が増大していることも事実である。今後，“臨床心理士養成”に特化した専門大学院構想を念頭においた教育指導体制が必要となるだろう。

相談室のスタッフは，新潟県教育委員会から委嘱されるスクールカウンセラー業務を始めとして，地域市町村教育委員会や教育センター等が主催する教員研修会講師を担当しており，地域における心理臨床へのニーズの高まりを反映している。今後，相談室を核として，地域の専門職や，教育相談業務等の経験を有する教職員との連携を密にして，“非常勤相談員”なる制度による専門的社会資源の有効活用をめざした計画の策定が急務となろう。

心理教育相談室運営委員会は，相談室の運営，臨床心理士及びその他の心理臨床の資格取得に必要な臨床心理実習及び相談室における研究成果の報告に関する事項等を審議するため設置されており，相談室長，相談室相談員５人，保健管理センター所長，特別支援教育実践研究センター長及び学務部長の９人で構成されている。

日本臨床心理士資格認定協会認定による第１種指定大学院として，臨床心理学コース在籍の大学院生等35名の臨床実習を行い，また地域の心理臨床に関わる専門機関として延べ2000人以上の相談を受けてきた。このように，年々，心理教育相談室の業務が増加の一途をたどっている。現在のところ，これらの業務は６名の教員スタッフと非常勤事務員が担っている。しかし，各教員は授業，研究活動，数々の校務を始め，地域への支援も行っており，業務が過剰となっている。

また，平成19年度末の相談室移転及び平成21年度末の施設拡張により，これまで以上に充実した相談業務が可能となった。他方で担当する教職員の人数が限られているため十分な機能を果たしきれていない状況もある。今後，大学院生の臨床実習指導を担当する教員と，外来の相談業務を担当する職員の配置が急務である。