第一章組織の運営状況に関する自己点検・評価｜上越教育大学年次報告書（第27集：平成23年度版）

（ｃ）　大学と一体となり，教育理論及び実践に関する研究を行う。さらに，中学校独自の立場から研究と実践を行い，地域の教育現場に寄与できる資料を提供する。

研究仮説　　教育課程を新たに編成し，教材と学習過程を工夫して指導することで，「自立して学ぶ生徒」を育てることができる。

教育課程全体を貫く「意欲・自律・学びの質」について定義し，共通理解を図った。その上で，「意欲・自律・学びの質」を適切に評価できるよう，具体的な生徒の姿を設定した。

昨年度の「基礎教科」と「総合教科」を統合し，「基礎教科」を設定した。そこでは，基礎的・基本的な知識及び技能を習得させた上で発展的な内容を扱い，探究的に学習を行うことができるように単元や題材を配列した。新設した「総合教科」は，持続可能な社会を築くために必要な内容や能力を身に付ける新教科として設定した。持続可能な社会の構築とかかわりが深い横断的・総合的な事物・事象を扱い，生徒が探究的に学習できるように単元や題材を配列した。道徳と特別活動は「じりつの時間」で一体化して運用し，道徳教育の内容24項目と「総合教科」等の体験的な活動とを関連付けた。

学習意欲を高めることができるように，生徒にとって身近な事物・事象，知識基盤社会に特有な流動的な情報，グローバルな問題，多様な追究活動ができるテーマなどを教材として用いるように工夫した。また，生徒が教材とうまくかかわりながら学びを進め，学びの質をしっかりと高めることができるように，学習形態等を含めた学習活動を工夫した。具体的には，一連の探究的な学習の過程を，単元・題材に応じて重点化したり，順番を入れ替えたりしながら学習活動に取り入れた。

県内外の教育関係者，大学生，大学院生，保護者の皆様等，計596名の皆様の参加を得て，教育研究協議会は成功のうちに終えることができた。教育研究協議会当日は，総合教科の国際理解分野，エネルギー環境分野など計16の授業を公開した。その後の協議会では，公開授業を基に，自立して学ぶ生徒を育てる授業の在り方について，参会者から数多くの意見や提言が寄せられた。また，新教育課程シンポジウムでは，総合教科の実践を基に将来を担う生徒に必要な学習内容と能力について提案し，参会者の皆様と意見交換を行った。各教室での熱の入った授業，歓迎合唱，生徒のあいさつ，授業に真剣に取り組む姿などに対して高い評価を得た。

各教科等の実践の成果を含め，各種アンケート調査，教育研究協議会等での評価から，生徒への効果として，「意欲・自律・学びの質の大切さを感じ，意識して生活している」「学びに対して意欲的に取り組もうとしている」ことが挙げられる。また，教師への効果として，「教師自身が意欲的に研究推進や教材・単元開発を行っていると感じている」ことが挙げられる。

反面，来年度に向けた課題として，｢『基礎教科』『総合教科』における内容の精選と指導の重点化を進める」「『総合教科』の名称及び『総合表現分野の位置付けについて検討する」ことが挙げられる。

本研究で目指す「自立して学ぶ生徒」を育てるために，昨年度から文部科学省研究開発学校の指定を受けて研究を進めている。さらに，今年度から文部科学省「学びのイノベーション事業」及び総務省「フューチャースクール推進事業」の実証校として，教育におけるＩＣＴ利活用について研究を進めている。

５名の研究委員会を中心に，開発学校としての研究を進めている。研究内容を毎週月曜日に研究委員会で検討し，それを木曜日の全教員出席の研究会議に諮る体制を取っている。

日ごろから本学教員に指導を仰いでいる。特に教育研究協議会開催に向け，指導を受ける場を設定している。本年度は，４月と２月に全体の打合会を行い，各教科ごとに随時指導を受けるようにした。

各教科の指導者として本学教員及び教育事務所指導主事等から，中間検討会，教育研究協議会，年次研究のまとめに関して指導を受けている。また，公立学校の教員からも協力を受ける機会を設けている。

教育課程の再編と時間割の工夫によって授業時数を確保し，生徒にとって潤いのある学校生活を実現できるように様々な学校行事を実施している。特に今年度は開校30周年を記念して，開校30周年の冠をつけて校内合唱コンクールや体育祭，文化祭等を実施し，生徒に達成感をもたせることができた。

生徒の知的好奇心や進路意識を高めることをねらい，大学教員の専門研究に触れる「特別授業」を実施している。平成14年度から取り組まれている事業であるが，今年度も大学を挙げた支援を受け，夏季休業中の８月第１週を中心に延べ10講座を開設した。延べ受講生徒数は233名で，保護者５名の参加もあった。受講生徒，保護者の多くは新鮮な感動をもち，目的を達成することができた。

基礎教科で身に付けた知識及び技能を生活の中で生きて働く知識及び技術，考え方にまで高めるため，総合教科では体験的な活動の充実を図ってきた。総合教科の地域分野では「地域探訪バスツアー」（１年），エネルギー環境分野では「森小屋体験学習」（２年），総合表現分野では「ミュージカル」（３年）を実施した。生徒，保護者から有意義な活動であったと高い評価を得ると同時に，生徒の学びの質も高まった。

家庭との連携として，親子面談や授業参観，「ＰＴＡ親子講演会」「親子学校整備活動」「きささげコーラスの合唱コンクール参加」など，親子で活動できる場面を多く設定し，行動連携の実績を上げている。

地域との連携として，総合的な学習の時間「ＳＭＩＬＥゼミ」（卒業研究）や沖縄平和学習（２年），総合教科エネルギー環境分野の「地域の発電所訪問」（２年）など，積極的に地域の施設設備の利用や市民団体への訪問取材を行っている。さらに，地域の人材を活用した講演会や授業も実施している。

数学と英語の基礎学力向上策として，６月～３月の木曜日に計９回の放課後自主学習を行った。上越教育大学の院生・学生から募った学習支援ボランティア延べ17名が，自主学習を希望した生徒の相談役に当たった。生徒自身の基礎学力の定着に向けた取組に対する支援になればと期待している。

学部４年生及び当校卒業生の合わせて42名の実習生を迎え，５月16日（月）～６月３日（金）の３週間，教育実習を実施した。また，６月22日（水）には免Ｐ１年生129名が，９月６日（火），８日（木）の２日間は学部１年生174名が半々に分かれて，実習生の配属学級の授業，終学活等を参観した。さらに，11月　16日(水），30日（水）には免Ｐ中高免コース１年生34名が，２日間にわたり自教科の授業を参観した。

校長の意思決定に基づく学校運営が円滑に実施されるよう，定期的に職員会議(年18回)を開催し，共通理解を図ってきた。また，教育に関する識見を有する方から，国立教員養成系大学附属校としての使命を果たす学校運営の在り方について意見を聞く学校評議員会を６月14日（火）と３月１日（木）に開催した。

大学の各研究室と附属中学校との間で，大学の教員養成・教員研修と附属中学校の教育実践研究の双方にメリットのある連携が図られている。具体的には，大学教員による中学校の授業担当や大学院生の研究授業等を受け入れる同時に，学部生や院生の卒論・修論にかかわるアンケート調査等の資料収集にも協力している。また，附属中学校教員による大学授業への参画も行っている。附属中学校教員が中心となって活動している地元研究サークルの指導者として，大学教員からも積極的に例会等に参加してもらっている。

今年度は，附属中学校として１件の学内研究プロジェクトが継続されたほか，教員５名の研究が学内若手研究プロジェクトに採用された。学校教育実践研究センターの各分野の研究プロジェクトに参加している教員も多くおり，今後更に多くの教科で共同研究が行われるように努める。

上越教育大学スタンダードの教育ルーブリックに基づき，教育実習の事前指導から授業後の指導，実習の総括指導まで，指標を明確にした一貫的な指導が行われている。また，免Ｐ１年生の観察実習後に協議会を実施したり，学部２年生の模擬授業コンテストに附属中学校教員が参加して指導したりするなど，学校教育実践研究センターと連携を図りながら，実習前の指導の充実を図っている。

文部科学省研究開発学校の指定を受け，大学教員と連携しながら，新しい学習指導要領作成のための先行的試行となる教育課程再編について実践的研究を推進している。また，県教育委員会関係者や公立学校教員等を研究指導者や協力者に依頼し，地域の教育課題やニーズを視野に入れた研究となるように努めている。

社会の防犯意識が高まる中，緊急時の学校の対応として，緊急用メーリングリストと携帯ＷＥＢページ，場合によっては災害伝言ダイヤルという３つの手段で，生徒が学校にいる時間帯や災害時の学校の対応等を提供できるようにした。緊急用メーリングリストの全家庭参加を更に促していく。

一方，附属中学校への緊急時の避難路及び進入路の確保の面で，北側の道路幅は非常に狭く，南側については市の公園管理道路のため緊急時と学年規模以上の行事以外で通行できない状況にある。特に，降雪時の避難路及び緊急車両進入路の確保について危惧している。

附属中学校への入学を希望する児童が少しでも早い時期から準備ができるように，学校説明会を７月３日（日）に開催した。そこでは，附属中学校教員による模擬授業を行ったり，事前に作成した学校紹介用パンフレットを配付したりして，当校のよさを強調することで，参加した児童の附属中学校への受検意志が固まるように努めた。また，市校長会への働き掛けや上越管内の小学校へ直接訪問してのＰＲ，生徒募集用ポスターの作成と管内の小学校・公共機関・塾への掲示依頼の取組を行った。さらに要請があれば出向いて学校説明を行うように計画したところ，５校の小学校等から要請があり，これを受けて説明を行った。

地元新聞への宣伝掲載及び新聞への募集チラシの折り込みも実施した。その結果，170名（昨年159名。170名のうち95名が公立小学校）に及ぶ出願があり，定員を充足することができた。

市内にある中等教育学校の人気が高まれば，当校の入学希望者数への影響も予想されることから，今後は更に魅力あふれる学校づくりに努めるとともに，そのよさを伝えるＰＲ活動にも一層の強化を図っていく。