玉 村   恭(講 師)
 
<教育活動>
授  業
【観点1】教育方法及び成績評価面での取組
論理的に思考し,思考した内容をもとに他者と意思疎通して,融和をはかる能力の育成に重きを置いた。この観点から,授業形態は講義と演習の両方を適宜使い分け,場合によって両者を併存させる形をとった。ただし,機が熟さぬうちに安易に討議・討論の形にすることは避けた。成績評価は,試験ないしレポートの「作品」としての出来だけでなく,日常的な言動の状況や試行錯誤のプロセス全体を視野に入れて行った。
【観点2】教育の達成状況
ゼミに所属して直接指導を受けた学生1名が教員採用試験に現役で合格,その他関わりのあった学生も教職をはじめそれぞれの進路で活躍している。博士後期課程に進学した修了生は,その後も活発に研究発表や論文執筆を行い,習得した専門性を発揮している。また,学校現場に出た卒業生からは教材開発や授業開発,教具の活用・手配などに関して相談が寄せられる。本学で得た,必要な手続きを通じて他者と協働し助力を得る能力を発揮して,先進的な取り組みに果敢に挑んでいるさまがうかがえる。
研究指導
【観点1】学部
現今の音楽教育において教員に特に求められるようになってきている(そして対応が遅れている)2つのこと,すなわち,(1)日本の伝統音楽および諸民族の音楽に関する知識と技能,(2)「言語活動」を支える論理的思考能力,を重点的に指導した。(1)に関しては,概説的な知識の授与にとどまらず,実際に楽器に触れ体を動かす時間をできるだけ多く設定し,(2)に関しては,音楽をはじめとするいわゆる「実技系」の学生は特に苦手としていることから,基礎的なところ(情報収集のツールの紹介,情報の取捨選択の方法,言説構成の技法等)から丁寧に指導した。
【観点2】大学院
大学院生には,「観点1」で記した諸点はもちろんのこと,さらに高度な知識や技能の習得が求められる。特に修士レベルの教員には,最新・最先端の学術研究の知見(臨床研究、実践研究を含む)と教育現場とをどうつなぐかということに関する成熟した哲学と,実際に抽象論と実践論を架橋する技能が不可欠である。この観点から,学術研究の成果に直接接する機会を設定し,さらに,それを現場に「展開」する課題を出した。
その他の教育活動
・ 三絃・筝曲部 顧問
・ アジア音楽サークル 演奏指導(大学祭に出演)
・ 附属小学校2013年研究 音楽科研究協力者
・ 中等教育実習 ゼミ所属学生の事前・事後指導
特色ある点及び今後の検討課題等
教育活動の特色としては,講義や演習を企画・展開するに際して,教育現場で生じている諸問題を念頭に置きつつ,単にそれらの問題に対する「対処法」を検討・教授するのではなく,理論的・研究的な視点から諸問題にアプローチすることに重点を置いて指導している。前年度来の検討課題である教育成果の即効性の問題については,試行錯誤し紆余曲折する(時間的・精神的)余地を十分にとることが肝要であることが見えてきた。限られた時間の中でいかにして,またどのような形でそうした余地を確保していくかが,今後のさらなる課題である。
 
<研究活動>
研究成果の発表状況
著】(1)平成26年3月: Musicking Musically 教科内容構成「音楽」(共著),上越教育大学
論】(1)平成26年3月:〈秘すれば花〉考 : 芸道的美意識に関する思想史的研究,上越教育大学研究紀要,33巻, pp.269-281
(2)平成25年12月:能管演奏者の個性はどのように表出されるのか : 日本音楽の特質解明の一環として,音楽教育学,43巻,2号,pp.1-12
発】(1)平成25年12月1日:大学機関における芸能を用いた地域交流の試み,地域活動報告会「人のつながりが育む松ヶ崎地区のまつり」
(2)平成25年10月26日:☆美的表象としての女武者:《巴》を題材に,公開シンポジウム「芸能が描く女武者――巴の造型をめぐって」
学会活動への参加状況
(1)平成26年3月22日:日本音楽学会東日本支部第21回定例研究会, (2)平成25年11月2日〜平成25年11月3日:日本音楽学会第64回全国大会, (3)平成25年9月1日:日本民俗音楽学会糸魚川大会, (4)平成25年6月15日〜平成25年6月25日:舞踊学会第18回例会/美学会・舞踊学会共催シンポジウム「越境するダンス」, (5)平成25年5月26日:能楽学会第12回大会, (6)平成25年5月25日:民俗芸能学会第144回例会
◎特色・強調点等
教育現場から出された問題への応答を主たる目的としてはいるが,それに直接の形で応えるのではなく,原理的なレベルから問題を捉え直すこと,そうすることで議論に厚みを持たせ,あるいは新たな研究の道筋ないし領野を切り拓くことを目指したことが,本年度の研究活動(論文執筆および学会等での研究発表)の全般的な特色である。また,近年教員養成において大きな課題として浮上しつつある「教科内容構成」の問題について議論を立ち上げ,年度末に当座の成果を刊行物としてまとめた。もとよりすべての問題を「一気に」解決するものではないが,今後広範に,また超領域的に展開されるべき議論に,一定の道筋を示すことができたのではないかと考える。
 
<社会との連携>
社会的活動状況
(1)平成26年3月29日〜平成26年3月30日:上越教育大学×上越文化会館コラボ企画 春の特別音楽講座 講師(上越文化会館)
(2)平成25年11月8日:平成25年度第2回ふぞくフォーラム講師(上越教育大学附属幼稚園PTA会)
(3)平成25年9月19日:第27回新潟県高等学校日本音楽演奏発表会審査員(新潟県高等学校文化連盟)
(4)平成25年8月1日:教員免許状更新講習「音楽科の教材研究と指導法C」講師
(5)平成25年8月:「和ーくしょっぷ・遊んでアート!」第4回「筝に親しもう」企画・実施協力(上越市)
(6)平成25年7月1日〜平成25年11月29日:佐渡市能合宿受入調査事業委託(佐渡市)
◎社会への寄与等
社会貢献活動を企画・実施していくにあたり,念頭に置いていたのは主として以下の2点である。(1)地域社会をどのように設計・運営していくか,その土台として地域活動をいかにして精度高く実り豊かなものにしていくかという,現代の日本社会の大きな課題の一つに,高等教育機関ないし研究機関という立場から応えること (2)専門的な研究の成果を一般社会に還元し,成熟した文化および社会の構築に学術研究の立場から貢献すること。種々の活動・事業を企画・実施していく中で,その都度の求めに応じる形でこれらの課題に取り組んでいった。活動の結果が各種メディアで取り上げられ,また活動の継続を望む声が上がるなど,評価は良好である。各地域の諸々の課題や問題に,大学機関(学生および研究者)が関わることで,解決の道筋が開ける可能性があることを示すことができた。