4 教育・研究組織等
 
(2)各学系の研究
 

 
 
@ 学校教育学系
ア 研究の特色
     学校教育学系は,教育実践研究を中核とする本学の教育・研究面,教職必修科目に不可欠である基盤領域を形成する。全学的な教職必修科目を担当する教員が多い中で,学内において多人数講義を担いながら,多くの教員が広く学外や全国の教員研修の講師や学会等の研究活動に取り組んでいる。専門職学位課程の教員は,学部生・大学院生の指導や地域の学校に対する支援活動を行うとともに,全国の研究会講師や実践研究の取組をリードしている。また,連合博士課程においては,学校教育方法連合講座,先端課題実践開発連合講座を中心に,各講座で活発な教育研究活動を推進している。
イ 優れた点及び今後の検討課題等
     本学系は,修士課程と専門職学位課程の教員による教育・研究,学会における研究発表と論文の投稿,著書の発行,学外における研修会の講師や公開講座,出前講座の講師等でそれぞれ成果をあげている。
   本学系の教員による学内の研究プロジェクトは,継続分として「ドイツ合議的学校経営における「教育参加−専門監督−教職専門性」に関する事例研究」が1件である。また,新規分(一般研究)は「道徳的実践力を効果的に育成できる教師の指導力向上に関する研究〜役割演技の監督としての授業者養成プログラムの開発を中心に〜」,「学校経営への「地域」の参画形態に関する国際比較研究」,「幼児教育に関する教員の意識と指導の実際−幼小連携を促す要因の探求−」の3件である。新規分(若手研究)は「無回答傾向と特異項目機能の分析を通じたPISAの経年変化の検証」,「幼児・児童を対象にした空想傾向の発達的検討」,「教育ガバナンス再編期における教育指導行政に関する研究」の3件である。
 

 
 
A 臨床・健康教育学系
ア 研究の特色
本学系は,主として臨床に関わる研究領域を担当する教員によって構成されている。具体的には本学系の教員の多くが心理教育相談室,特別支援教育実践研究センター及び保健管理センターでの業務を兼任しており,これらの附属機関をフィールドとした研究活動を行っているところが特色である。したがって,個々の教員は,臨床心理学,特別支援教育,健康教育等の領域に関する研究成果を,各種学会誌への掲載や,関連学会における研究発表を中心に行い,さらに心理教育相談室や特別支援教育実践研究センターの研究紀要(「上越教育大学心理教育相談研究」「上越教育大学特別支援教育実践研究センター紀要」)等においても研究成果を公表している。
また特別支援教育コースでは,文部科学省による「平成26年度特別支援教育に関する実践研究充実事業(特別支援教育に関する教育課程の編成等についての実践研究)」や,特別支援教育実践研究会を設立し研究発表会を開催した。
イ 優れた点及び今後の検討課題等
本学系の教員は,人の心身面の健康管理やケア,心理教育的支援,特別なニーズのある児童生徒を対象とした臨床などを日常的に実践している。研究成果についても本学の学生や教職員のみならず,地域の関係者にも広く還元してきている。健康教育を担当する教員グループは,本学職員や学生への禁煙教育やその他の健康教育等への全学的な対応の中核を担っている。また,心理教育的支援や特別支援教育を担当する教員グループは,学校現場や地域で起きている様々な教育的,精神健康的な問題に対処している。このように,本学系の教員は,それぞれの領域における専門家として,本学学生への教育研究指導の業務のみならず,地域における臨床面からの貢献を果たしていることが優れた点といえる。
課題としては,業務内容が多岐に渡るため,多忙な毎日を起こることとなり,構成員自体のメンタルヘルスを管理していく必要性が高いことがあげられる。したがって,さらなる研究や臨床実践を充実・発展させ,本学内や地域に対するニーズや学生の持つニーズに十分に応えるために,本学系スタッフの補充が望まれることである。
 

 
 
B 人文・社会教育学系
ア 研究の特色
人文・社会教育学系に属する主な研究領域は,国語学,国文学,漢文学,国語科教育,書写・書道,英語学,英米文学,英語科教育,小学校英語教育,異文化コミュニケーション,歴史学,地理学,法律学,経済学,社会学,哲学,倫理学,宗教学,社会科教育,と多岐にわたっている。
こうした研究領域における研究活動を推進するため,本学系の教員と多数の卒業生,修了生が所属する「上越教育大学国語教育学会」,「上越英語教育学会」,「上越教育大学社会科教育学会」の3学会が組織・運営されており,活発な活動がなされている。
イ 優れた点及び今後の検討課題等
本学系の教員による研究プロジェクトとして,前年度に続いて「外国語活動における『読むこと』の導入のあり方に関する実践的基礎研究-『絵本』や『紙芝居』の導入の有効性に焦点をあてて-」の1件,及び2年度計画の「小学校外国語活動における中学年を対象とした書くことを取り入れた文字指導プログラムの構築」と,「地域の社会科教育における臨床的課題解決に向けた恊働的実践研究」の2件が新規に採択された。また若手研究として,「京都市山科区における野菜行商の存続要因」が,新たに採択・実施された。さらに社会系コースにおいては,前年度に引き続き,地域における教員研究団体である新潟県社会科教育研究会との協力のもと,地域巡検のための資料集を作成し,地域の全小・中学校に配布した。
なお,本学系の研究領域に関する上記の3学会については,その研究活動が次のように展開されている。
「上越教育大学国語教育学会」:昭和58年7月に設立。国語科教育及び国語学,国文学,書写・書道の研究を深め,会員相互の親睦を図ることを目的とする。機関誌『上越教育大学国語研究』,学会報『上越教育大学国語教育学会報』を刊行し,例会を年2回開催する。6月の例会は卒業生・修了生による研究発表,2月の例会は卒業・修了年度の在学生による研究発表が中心だが,それぞれ教員の研究発表も加わる。
「上越英語教育学会(The Joetsu Association of English Language Education)」:平成9年9月に設立。英語科教育,英語学・言語学,異文化コミュニケーション,英米文学の研究を深めるとともに,会員相互の親睦を図ることを目的とし,研究発表会等の研究活動を促進する事業,会員間の情報交換及び親睦を促進する事業等を行っている。毎年7月に年次大会を開催し,機関誌『上越英語研究』を刊行する。
「上越教育大学社会科教育学会」:昭和61年3月に設立。会員の分布は北海道から九州,沖縄まで全国に及ぶ。月例会で地域巡検を実施するほか,毎年1回,研究大会を開催する。学会報の『上越教育大学社会科教育学会だより』を発行するほか,機関誌『上越社会研究』を刊行する。
また,今後の検討課題としては,上記(ア)項の研究領域において,漢文学,英文学,社会学,哲学,倫理学専攻の教員が欠けていることがあげられ,その補充が引き続いての懸案事項となっている。
 

 
 
C 自然・生活教育学系
ア 研究の特色
自然・生活教育学系は,数学、理科、技術、家庭科の4つの専門分野の教員によって構成されている。
数学の分野では,「3次元多様体の位相的および幾何的性質に関するHeegaard理論を用いた研究」,「代数体の判別式の密度」等の専門研究とともに,「算数・数学教育の目標論と教育課程内容」,「日本の算数・数学の授業,証明の指導・学習,コンセプション」等のように,算数・数学の授業に直結した教育研究を行っている。
理科の分野では,「主として電波による星間物質の観測に基づいた銀河と星の形成と進化の研究」や「鳥類の社会行動及び個体群構造に関する研究」等の専門研究を行うとともに,例えば化学の専門家が「理科及び環境教育の内容論を中心とする教材研究」について,また生物学の専門家が「生物教育における教材化に関する研究」を行うなど,専門性を背景とした教材研究を行っている。さらに,「女子の理科学習の促進のための理科教育のあり方と教材に関する研究」等,理科教育の現代的課題にも取り組んでいる。
技術の分野では「自動制御系に対するフィードバック制御則の設計法」等の専門的研究を行うとともに,専門性を生かした「Internetを用いたKnowledge Sharing Systemに関する研究」,「技術教育におけるメカトロニクス教材の開発」等の教育研究や「科学・技術教育のカリキュラム開発に関する教育実践研究」等の技術科教育の現代的課題を見据えた教育研究を行っている。
家庭科の分野では,「穀類の発芽時におけるデンプン関連酵素の機能解析」,「食育のための実験教材の開発」や「材料特性と感覚的性能との関連」等の専門的研究や「幼児期の生活文化の伝承・獲得・共有過程に関する研究」,「学校教育における「いのち教育」」,「家庭科教育に関する指導法・教材開発等の実践的研究,授業実践力向上に関する研究」等,子どもや教育に直結した研究を行っている。
イ 優れた点及び今後の検討課題等
本学系に所属する教員の研究業績の中には,以下に記すように平成26年度に国際誌へ採録された論文が多数あり,国際的に活躍している研究者が複数いることは本学系の特筆すべきことである。
“Tunnel number of tangles and knots,Journal of the Mathematical Society of Japan ,Vol.66,No.4,1303-1313(2014) ”,“Enhancement of CO(3-2)/CO(1-0) Ratios and Star Formation Efficiencies in Supergiant HII Regions,The Astrophysical Journal, 788 167(2014)”,“A new genus of Buccinoidea (Gastropoda) from Paleocene deposits in eastern Hokkaido, Japan,The Nautilus 128(4) 122-128(2014)”,“Male viability is positively related to multiple male ornaments in Asian Barn Swallows,Journal of Ornithology 155(2) 389-397(2014)”
委員会や書類作成等々で業務が多忙化するなか,学術研究の成果を発信し続けられる研究環境をいかに創出していくかが今後の大きな課題である。
 

 
 
D 芸術・体育教育学系
ア 研究の特色
   芸術・体育教育学系に所属する教員の主な研究領域は,声楽,器楽,作曲,音楽学,音楽教育学,絵画,彫刻,デザイン,工芸,美術理論・美術史,美術教育学,体育学,運動学,学校保健学,体育科教育学といった音楽,美術,保健体育の教科に関連した基礎的及び応用的な研究領域からなる。
   また,これらの領域は実技指導や作品・演奏発表に関しても地域社会と密接に関わり,近隣の学校や地域において音楽や美術,スポーツの普及・発展に尽力するとともに,コンクールや競技会において審査や競技審判等を務めることも多い。平成26年度も音楽,美術では各教員の専門を生かした地域貢献活動が進められたほか,美術科教育学会上越大会を本学で開催した。また,保健体育では総合科学としての側面から,教科や領域を超えた学際的な教育,研究,地域貢献が進められた。
イ 優れた点及び今後の検討課題等
   本年度の教員による学内研究プロジェクトとしては,「女性初等教員のキャリア形成プログラムの開発―ライフコースにおける大学院教育の位置づけとその物理的環境」(研究代表者:増井 晃,分担者:五十嵐史帆・大橋奈希左),「古典芸能を用いた伝統文化教育教材の開発」(研究代表者:玉村 恭),「教員養成における身体性を重視した教材開発の試み音楽・美術・体育における身体技法の体験プロセスを問う」(研究代表者:阿部靖子,分担者:大橋奈希左・玉村 恭),「上越教育大学におけるミュージック・イン・コミュニティ」(研究代表者:長谷川正規),「感覚許容限度による持久運動の制限を受動運動は修飾するか」(研究代表者:松浦亮太),「心理的および生理的に効果的な身体運動量増加のための歩行運動の活用」(研究代表者:市川真澄,分担者:竹野欽昭・松浦亮太),「身長の違いが動脈圧反射の感受性に及ぼす影響について」(研究代表者:池川茂樹),「幼児教育に関する教員の意識と指導の実際幼小連携を促す要因の探求」(研究代表者:角谷詩織,分担者:周東和好)が挙げられる。また,科学研究費採択については,「修士レベルにおける創作表現のための音楽科教員養成プログラムの日米共同開発と評価」(研究代表者:時得紀子),「教師教育における「アート」教材の意義―「場」と「仕掛け」―を重視する教材の有効性」(研究代表者:加藤泰樹,分担者:阿部靖子・大橋奈希左・玉村 恭),「小学校中学年「ものづくり」教材の開発 -アートとテクノロジーの融合を目指して」(研究代表者:阿部靖子,分担者:安部 泰),「創作ダンスの授業の問題点とその原理的解明―協働学習のモデル領域を目指して―」(研究代表者:大橋奈希左),「ボールゲーム指導における学習内容の開発研究」(代表:土田了輔),「局所的な筋疲労後に疲労していない他肢の疲労感は軽減するか」(代表:松浦亮太)に交付がなされ,学系所属の教員により活発に研究が進められた。さらに,附属学校における研究協力として,6月に開催された附属小学校研究会において土田了輔教授(保健体育)と玉村 恭講師(音楽)の2人が,また10月に開催された附属中学校研究協議会において,上野正人准教授(音楽),阿部靖子教授(美術),周東和好准教授(保健体育)の3人が研究発表の指導に当たった。
   地域貢献事業としては,「芸能を用いた地域交流・地域振興事業」(玉村 恭),「幼少年剣道指導に関わる地域貢献事業『剣道で培う心技体』」(直原 幹・池川茂樹),が実施された。そのほかにも,各教員の活動において県内市教育委員会や小学校・中学校等での研修会講師のほか,実技との関わりの強い科目群の特色を生かしたスポーツや芸術活動を通して,地域貢献を積極的に行った。