数学教育学関連の英和小辞典

数学教育学の論文で目にする英単語の訳をリストします。もちろん定訳ではなく、あくまでも試案とお考え下さい(カタカナになっているだけのものが多いのもそのためです)。なお、項目の誤りのご指摘、追加情報のご提供等につきましては、nunokawa@juen.ac.jpまでお願いします。

(last modified on 2004/05/12)

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accommodation 調節 (Piaget による。assimilation と対をなす)
action 行為(場合によって、行為者の意図を含めて考えるというニュアンスがある)
activity (1) 活動;(2)(授業や調査などで課される活動という意味での)課題
affect 情意
algebra 代数 (ただし、中等学校の話で出てくるときは文字式と関数あたりの学習を指す)
algorithm アルゴリズム(有限回の決まった操作で、正確に実行すればある結果を保証するようなもの)
appropriation アプロプリエーション(他者との対話、文化的道具との関わり、対話を通じて、他者に属するものを自己のものにする過程。詳しくはこちら。)
assessment 評価、測定 (evaluation が測定後の判断まで含むのに対し、対象についての情報をもたらすことに重点がある)
assimilation 同化 (Piaget による。accommodation と対をなす)
awareness 意識


bar graph 棒グラフ
base-10 block 10進ブロック(日本の教科書にもみられるような、小さい立方体で1を、それが10個集まった棒で10を、その棒を10本並べた板で100を表すようなブロック)
behavior 行動(場合によっては、外部から観察可能なもので、行為者の意図を含めて考えない、といったニュアンスがある)
belief 信念
borrowing 繰り下がり


Cabri Geometry カブリ (・ジオメトリー) (作図ソフトの一つ。フランスのグルノーブル大のメンバーを中心に開発された)
carrying 繰り上がり
CBL Calculator-Based Laboratory の略。(グラフ電卓にセンサー等を接続し、測定したデータを取り込みグラフなどで表示できるようにした環境)こちらあるいはこちらを参照。
CGI Cognitive Guided Instruction の略称 (Fennema などにより推進される教師教育のあり方で、子どもの認知についての知識を教師に提供することで、教師の教授実践に影響を与えようとする)
circle graph 円グラフ
cognition 認知
concept 概念
concept image 概念イメージ(概念の名前と結びついている非言語的な何か)→ Vinner(1991)あるいは川嵜(1992)参照
concept-in-action 行為の中の概念 (Vergnaud の用語)
conception コンセプション(ミスコンセプションについて、それが誤っているという面を排除した捉え方)→Confrey(1990)参照
conceptual field 概念領域 (Vergnaud の用語。例えば乗法なら、除法や乗法的な関係を含む場面など、関連した一連の数学的知識を一つの領域のように大きく捉えて、教育を考えていくアイデア。)
conceptual knowledge 概念的知識(当該の対象が「どのようなものか」についての知識)
constructionism 構築主義(S. Papert により提唱された考え。外的で共有されうる何かを構築することに関わるときに、構成主義のような主体による知識の構成が適切に生ずるとする立場。外的なものの内化と内的なものの外化のサイクルを重視する。)→こちらを参照
constructivism 構成主義→Lerman(1989)あるいは中原(1994)参照
context 文脈、コンテクスト
context free 文脈自由
counter (算数セットに入っているような)おはじき
counterexample 反例
critical thinking 批判的思考 (物事を鵜呑みにするのではなく、批判的に検討しながら考えること)
cross-multiply method たすき掛け法( (x/b)=(c/d) から xd=bc として x を求めるなど)=rule of three
Cuisenaire rod キズネール棒 (数や演算の学習のための教具。数種の長さの棒に色がついており、その操作により数の関係などについて学ぶことができる)
culture 文化 (当該の社会において間主観的に共有され、用いられ、認められているような、物理的な、あるいは行動、概念の諸モデル)
cultural practice 文化的実践→例えば山住(1997)参照


-digit 桁(two-digit numbers 2桁の数)
decimal fraction 小数(十進分数の意)
decontextualization 脱文脈化
didactical contract 教授的契約 (授業において教師と生徒の間に暗黙的に共有されている、互いの行動などに関する規範、規則、期待)
discourse ディスコース (NCTM のスタンダードの影響下では、次のようなニュアンスを持つ。教室のディスコースは生徒、教師、作業をするときに使えるツールからなり、話が進行していくときの背景。教室の中で知識が構成されたり交換される仕方を強調するために用いられ、「何が話されるか?」「何についてか?」「どのような仕方でか?」「そこにいる人は何を書き下すか?それはなぜか?」「どのような質問が重要か?」「誰のアイデアや知る方法が受容され、誰のが受容されないか?」「答えを正しいものにしたり、アイデアを真であるとしているものは何か?」「どのような種類の証拠が奨励され、また受容されるか?」などは、ディスコースに関わる関心とされる。)
  developmental research 開発的研究 (ある理論に従い思考実験的に構成した授業案を実施し、その結果からまた理論を修正する、といった理論と実践を往復しながら進める研究のあり方。Freudenthal Institute などで用いられる。)
dimension (1)次元 (2)(平行四辺形や直方体の)各辺の長さ
distributed cognition 分散認知 (認知が個人の中にあるというよりも、あるコミュニティの中に分散してあると捉える見方)
domain specificity 領域固有性
double-bind(ed) 二重拘束(「自由に考えてごらん」と言われながら、「こういうやり方じゃなくって」と言われるような、矛盾するような方向付けをされている状態)
duality (1) (数学の意味での)双対性;(2)二重性、二元性(数学の概念が手続き側面と構造的側面と同時に持つという性質を表す語)→Sfard(1991)あるいは横田(1995)を参照


empirical abstraction 経験的抽象 (Piaget の用語。reflective abstarctionと対をなす)
epistemology 認識論(知識とは何か、知識はどのように得られるかを考える学問分野、またはそうした面に焦点を当てたアプローチ)
equity 公平性(それぞれに応じたものを与えることで保たれる公平さ。皆に同じものを提供する平等さ(equality)とは区別して用いられる)
ethnography 民俗誌(学)→関口(1993)参照
ethnomathematics エスノマセマティクス、民族数学 (ある社会−文化的集団 (例えば民族社会、各労働者集団、ある年齢の範囲の子どもたち等) に結びついた、計算、測定、分類、配列、推論、モデル化などの活動に関わる知識、技能、ツール、信念、態度の集合)
ethnomethodology エスノメソドロジー
evaluation (1) 評価、評定(対象についての情報に基づいた判断を含む)(2) 式などの値を求めること。(例:evaluate a algebraic expression k(20-k)+6 for k=3)
expression (1)表現;(2)式

extensive quantity 外延量(←→intensive quantity)
external ratio 外比(異なるタイプの量を関係づける比。時速、gあたりの値段等)(←→internal ratio)

F

formal knowledge フォーマルな知識(学校の算数・数学の授業の中で学習された知識)
formulation 定式化(問題などは適当な形に整えること)→Kilpatrick(1987)参照
fraction 分数 (proper fraction=真分数、improper fraction=仮分数、mixed fraction=帯分数、fractions with like denominators=同分母分数、fractions with unlike denominators=異分母分数)


gender difference 性差(sex difference と対照されるときには、社会的に作られた「性」差というニュアンスがある)
Geometers' Sketch Pad, The ジオメーターズ・スケッチパッド (図形の作図ツールの一種)
Geometric Supposer ジオメトリック・サポーザー (図形の作図ツールの一種)
GSP →Geometers' Sketch Pad


heuristics 発見法
higher mental function 高次精神機能
higher order skill 高次技能 (批判的思考、問題解決、メタ認知などを、アルゴリズムなどの技能と対比させてこのように呼ぶことがある)


ill-defined (問題が) よく規定されていない(初期状態、目標状態、許される操作など (の一部) が解決者に明確に与えられていない問題)[反] well-defined
ill-structured=ill-defined
informal knowledge インフォーマルな知識(学校の授業等で学んだフォーマルな知識ではなく、学校外などで得られた知識)→Mack(1990)あるいは布川(1994a)参照
inservice 現職教育 (の)
insight 洞察
instrumental understanding 用具的理解(何故そのルールが有効かが分からず、ルールの適用により「できる」状態)→藤井(1985)あるいは小山(1992)参照
intellectual tool 知的ツール、知的道具
intensive quantity 内包量(←→extensive quantity)
interaction 相互作用、相互行為
internal ratio 内比(同じタイプの量を関係づける比)(←→external ratio)
interpsychological 心理間的(ヴィゴツキー理論の文脈でよく現れる。心理的プロセスが個人内でだけ起こるのではなく、個人間でも起こることを表す用語。<=> intrapsychological)
intersubjectivity 間主観性 (概念・言語などが多数の人々に理解され、関わりをもち、用いられていること)
intrapsychological 心理内的 <=> interpsychological
intuition 直観
invariant インヴァリアント、不変項 (Piaget による。一連の操作や変化の中で変わらないもの)
inverse proportion 反比例


linear equation 一次方程式
linear function 一次関数 (数学の線形写像とは必ずしも一致せずに用いられる場合がある)
line graph 折れ線グラフ
logico-mathematical knowledge 論理数学的知識(Piagetによる)
long division 長除法(筆算によるわり算)


manipulation 操作
manipulative(s) 操作物
mathematization 数学化 (当該の場面などの中に適当な数学を見出したり、それを数学により定式化すること。モデル化、特にその翻訳の部分と同義ともされる)
measurement division 包含除 (→partitive division)
mental model メンタルモデル(頭の中に思い浮かべられる "そのもの" についてのモデル。もとのものと同型の構造を持ち、働きかけることもできる)→三宅 (1982) 参照
metacognition メタ認知→清水 (1989) 参照
meta knowledge メタ知識
metaphor メタファー(「算術は道に沿った動きである」のように算数・数学の概念を理解する際にたとえられる、自分のよく知っているもの。その後の考え方に影響を及ぼす。こちらを参照)
mental computation 暗算
metonymy 提喩(部分により全体を表したり、全体により部分を表したりする比喩)→Presmeg(1992)参照
micro world マイクロ・ワールド(コンピュータ上などに実現された、小さな完結した世界。数学的探求のフィールドとなる)
misconception ミスコンセプション(誤答の背後にあるその人なりの(誤った)「概念」)→原田(1991)参照
missing-addend (文章題の一つのタイプ。場面としては加法を用いるが、加数が未知になっている場合)→Sowder(1995)参照
mixed fraction 帯分数
mixed decimal (number)  帯小数
modeling モデル化 (現実場面などを数学の言葉に翻訳し、そこで得られる数学的な結果をもとに、元の場面についての新たな情報を得ようとする一連の過程)
multiplicative structure 乗法的構造(かけ算やわり算で表現できるような数量関係)

 


NCTM 米国数学教師協議会(National Council of Teachers of Mathematics の略)
negotiation ネゴシエーション(授業における目標を志向した相互作用)→熊谷(1987)参照
nonroutine ノンルーチン (な)(問題などに対して、解決者が以前に学習したような解法手続きを持っていないこと)
number sense 数感覚 (個人の数と演算についての一般的な理解であり、こうした理解を用いて数学的判断をしたり数や演算を扱う有用なやり方を開発する能力や傾向を含む) →McIntosh et al. (1992)あるいは銀島 (1996)参照
numeracy ニューメラシー (個人が日常生活の実用的要求をうまく処理するのを可能にするような数学的技能) →Joramほか(1995)参照


ontology 存在論(考えている対象がどのような意味で「ある」のかを考えるアプローチ)
operation (1)(教具などに対する)操作;(2)演算


participant observation 参与観察(調べたいコミュニティの一員になりながら観察をするやり方)→伊藤(1995)参照
partitive division 等分除 (→measurement division)
Pattern Block パターンブロック (木やプラスチックからなる小さい板状の教具。三角形や正方形、ひし形などの形をしており、適当に組み合わせると他の形ができるようになっている。図形の授業のほかに、分数の授業などでも用いる)
physical knowledge 物理的知識 (Piaget の用語。logico-mathematical knowledge と対をなす)
pie chart 円グラフ
place value (notation) 位取り (記数法)
posttest 事後テスト(効果を調べたい指導などの後に行われるテスト)
preservice  (大学等における) 教師前教育 (の)
pretest 事前テスト(効果を調べたい指導などの前に行われるテスト)
problem situation 問題場面→Silver(1992)あるいは上野(1995)参照
problem statement 問題文
procedural knowledge 手続き的知識(「やり方」についての知識)
proofs and refutations method 証明と論駁法(Lakatosにより提案された数学的知識の合理的発展の仕方)→布川(1994b)参照
proportional reasoning 比例的推論(2量間の比例関係を前提にして行われる推論)→日野(1995)参照
prototype プロトタイプ(ある概念についての典型的な事例。概念の理解とは内包や外延よりも典型的事例によるとの思想が背後にある場合もある)→Hershkowitz(1990)あるいは小島(1995)参照


qualitative method 質的(研究)方法→伊藤(1995)参照
quantitative method 量的(研究)方法→伊藤(1995)参照

R

ratio 比
reciprocal teaching 交互教授(A. BrownやPalincsarなどにより提唱された、ストラテジーやメタ認知の育成のための指導法。グループでの読みや解決に際し、ディスカッション・リーダーやモニター的質問をする支持的批判者の役割を、メンバーが交代で行う。)
reflection 反省(自分の行ったプロセスなどを対象とした思考)
reflective abstraction 反省的抽象 (Piaget による。empirical abstraction と対をなす)
refutation 反駁、論駁
register 言語使用域
reletional understanding 関係的理解(一般的な数学的関係をもとにルールが何故成り立つのかが分かっている状態)→藤井(1985)あるいは小山(1992)参照
reliability 信頼性(統計を用いる際に、評価などが客観性を持っているかということ)
repeated addition (subtraction) 累加(累減)
representation (内的な)表象、(外的な)表現
routine ルーチン (な) (問題などに対して、解決者がすでに既成の解法手続きを持っていること)[反] nonroutine
rule of three= cross-multiply method


scatterplot 散布図
schema (1) スキーマ(数量などの関係についての知識であり、文章から内的表象を作るときの雛形として働くもの)→Kintsch(1985)あるいは増井(1995)参照;(2) (見方・考え方の基本的な)図式
science of patterns パターンの科学(数学という学問についての新しい見方)→Devlin(1994)参照
semiotic mediation 記号による媒介性
situated cognition 状況的認知(知識はそれを用いる状況とは切り離せないという立場)→ブラウンほか(1991)参照
skip counting 2や5ずつ数えること。(skip counting by five=5とびで数えること)
social constructionism 社会的構築主義(構築主義の中で社会文化的要因に焦点を当てる。社会的構成物は、目標や要求を持った特定の社会グループの活動や特性を通して規定される。社会的設定自体も進化する構成物とされる。)→こちらを参照
social norm 社会的規範 (数学の授業をしているコミュニティへの効果的な参加の構成要素として、コミュニティに理解されているもの。期待される行動パターン、「数学をする」ことの意味、数学的妥当性の確立の仕方等。)
social practice 社会的実践→例えば山住(1997)参照
sociomathematical norm 社会−数学的規範 (数学に固有の説明の仕方や振る舞い方に関わる規範。例えば、どのようなものが数学的に異なる考え方、数学的に効率的な考え方、数学的に洗練された考え方、数学的に受け入れられる説明と言えるか、といったことについての教室内での規範。)
Standards スタンダード (大文字で始まるものは固有名詞であり、1989年から NCTM が出した数学教育の3つの文書を指すことが多い)
strategy やり方、考え方、方略
stimulated recall 刺激想起法(事後にビデオなどを見せて刺激を与えながら思考過程などを思い出してもらう方法)
subitize 即座の把握を行う(例えば、おはじきの数を数えずに、パッと見ただけで判断すること)
subject (1) 教科;(2) (実験の) 被験者

T

taken-as-shared 「共有されたとされる」 (コミュニティのメンバーが、知識のある側面を共有したと感じながら、一方で実際に共有されているのかを知る方法を持たない状態を指す。) →中原(1994)参照
teaching experiment 教授実験
theorem-in-action 行為の中の定理 (Vergnaud の用語。行為の仕方の中に定理に相当する内容が含まれている様子。後者が意識しているかは関係しない)
think aloud 発話思考 (思ったことを口に出してもらいながら問題を解いてもらうデータ採集の方法)
TIMSS 第3回国際数学・理科教育調査(Third International Mathematics and Science Study の略:約50ヶ国が参加して、小学校3・4年、中学校1・2年を対象に1994〜1995年に実施された)→国立教育研究所(1996)参照
trade 繰り上がり・繰り下がり


validity 妥当性(統計を用いる際に、本来調べたいものを評価されているのかということ)
viability 生存可能性 (構成主義において、構成されたものが我々の経験世界に適合し、うまく機能する状態。この場合、その知識は一応保持されることになる)


well-defined (問題が) よく規定された(初期状態、目標状態、許される操作などが解決者に明確にされている問題)[反] ill-difined
well-structured=well-defined
whole number 全数(0および自然数)
word problem 文章題


zone of proximal development 発達の最近接領域、最近接発達領域→大谷(1995)参照


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