算数の問題解決における図による問題把握の研究



廣井弘敏


1.研究の目的
 算数の問題解決において,図をかくことは,問題解決ストラテジーとして数学教育者によって長い間支持されている。ところが,筆者は問題解決にあたり,図は教師の説明の道具となっていても,子どもの問題解決の道具とはなっていないことがあると思うようになった。

 問題解決で教師が図をかくことを奨励する場合がある。その時,よくよく子どもの様子を観察してみると,分かる子はすぐに立式し,分からない子は,いたずらに数を並べて計算する現状があった。そして,仮に図をかいても,その後の活動が停滞する子どもが多かった。このことは,子どもが図をかいて問題解決を進めることについて,教師が十分な認識を得ていない例を示しているのではないかと考える。

そこで本論文では,子どもが問題解決に図をどのように使うのかを,子どもの実際の活動の様子から分析する。そして,その結果をもとに,図による問題把握を進めるための教師の支援のあり方を明らかにすることを目的とする。

2. 本研究の概要
 第1章では,問題解決に子どもが図を道具としてうまく使っていないことに関して,図の制約の面から問題提起をした。そして,図の制約が子どもの実態としてどのように起こっているのかについて,先行研究から確認した。

 第2章では,制約が少なく,心理的に同型性を得やすい「子どもが自由にかく図」をもとに分析している先行研究を概観した。しかし,先行研究から得られた結果が主に学習者の問題解決後に残された図を根拠にして導き出されていたため,学習者が解決の過程で図にどのように関わったのかについては,明らかにされていないことが分かった。

 そこで,最初にかいた素朴な図が,子どもの理解に伴ってどのように変化していくのかを扱った論文に関して,花形(1990),Gibson(1998),等の論文を概観した。これらの論文から,学習者の理解に伴って図が変化し,学習者がその変化した図をもとに問題把握を進めていることが見いだされた。しかし,問題解決の過程で刻々と変化する図を,学習者がどのように捉えていたのかについては,明らかにされていないことが分かった。そこで,図が学習者にとってどのように役立ったのかを,その図の変化と発話に着目し,活動分析を通して明らかにしていく必要があると考えた。

 第3章では,実際に行った調査から,小学5年生の子どもが問題把握に図をどのように使用していたのかについて,活動を詳細に分析した。その結果,子どもが問題解決する際の図の使用の実態として次のような知見を得た。

 第4章では,第3章の結果から,図を問題解決の道具としてうまく使うことのできない子どもに対して,図による問題把握を進めるための支援を想定した。そして,子どもが問題把握に図を生かすための教師の支援のありようについて詳細に分析した。その結果,教師の支援について,次のような知見を得た。

3. 今後の課題
 今回得られた支援が,他の構造をもつ問題に対して,どの程度有効に働くのかについて明らかにする必要がある。また,子どもの問題解決の文脈に関わる教師の支援には不明な点も多い。そして,実際の授業における方策については,今後の課題として残されている。

4. 主な参考文献

指導 布川和彦 岡崎正和


修士論文タイトルに戻る