算数における式をよむ活動についての一考察


草野 収


1. 研究の目的
 式には,事柄や関係を一般的に表すことができることや,数量の関係を簡潔に表現 できるなどのはたらきがあるが,実際の児童の活動を見ると,計算式としてしか式が 見れず,式のはたらきを十分理解している児童は少ない。そのため,簡単な場面の解 決に用いた式から,数量の関係を捉え,その関係を,複雑な問題に適用する考え方が, 児童の問題の解決に,有効にはたらいていないことが多い。
また,算数科の指導においては,数量の関係を式で表すこと,及び,式の意味やは たらきについての理解を一層深めることが求められており,式の表す意味をよみとる 指導に重点をおく必要があることが指摘されている。
そこで本研究では,児童が,簡単な場面で用いた式をもとに,思考の筋道を反省し たり,式に表されている数量の関係を捉えたりする場面として,一般化を図る場面に 着目する。そして,児童にとっての一般化が,どのようにして図られ,その過程にお いて,式をよむ活動がどのようにはたらいているか明らかにすることを目的とする。

2. 論文の構成

3. 論文の概要
 第1章では,児童の,式のよさについての意識調査や,算数の学習における式の扱 いから,式指導の問題点を述べた。そこでは,児童が,式の数量の関係を表すよさに 気づいていないこと,指導においては,答えを求める活動が中心になってしまうこと を挙げた。そこで,式に表されている数量の関係を捉え,その関係を他に生かせるよ うな活動が必要であることを述べた。
 さらに,式についての先行研究から,算数における式のはたらきを,思考の面から 捉え,式に表すことにより,その式をもとに,さらに思考を進めるというはたらきが あることを示した。
第2章では,教育におけるよむことの意義を受けて,式をよむ意義とは,「目的を もって式をよみ,得られた情報は,目的のために生かされるものである。」と捉えた。 さらに,数学教育学における式のよみについての先行研究を考察し,そこで,“石田 の表現体系”にもとづく捉え方に依拠し,式をよむ意義をもとに,式をよむこととは, 「目的をもって,式を他の表現方法と関係づけること。」と定義した。
 そして,目的をもったよむ活動の重要性を,児童自らが感じ取れるようになるため には,問題の解決過程の中で,式のよみが生かされることが必要であることを述べた。 第3章では,同じ構造である,簡単な場合から複雑な場合に適用する,いわゆる 「一般化」問題に着目し,先行研究を分析し,一般化の過程において,児童にとって 困難であると考えられる事柄として,次の2点を挙げた。
さらに,これら一般化の困難性を解消する式のよみの可能性を探るため,Dorfler の一般化モデルの構成的抽象の段階に着目し,先の一般化の過程で,児童にとって困 難であると考えられる事柄を解消する式のよみの可能性として,次の2点を示した。
 第4章では,第3章で示した式のよみの可能性を検証するため,6年生を対象に, 「おはじきの個数を数える問題」における,2つの調査を行い,分析・考察した。  調査 I では,式をよむ活動を意図的に取り入れたクラスと取り入れないクラス,そ れぞれ39名に対し,筆記調査により,正答率及び解法,誤答のパターンの比較を行っ た。
 調査 II では,調査 I とは別のクラスにおいて,7名を抽出し,問題を解かせ,その 後インタビューを行った。この解決及びインタビューは,VTR・ATRで記録し,プロト コルを作成し,分析・考察した。
その結果,一般化の過程における式のよみのはたらきとして,次の事柄が明らかに なった。
  1. 「開始の活動」と関係づけた式のよみを行うことによって,「開始の活動」の反 省が 促された。そこで,式の一要素に限定した考察がなされたことにより,その要 素を他の 要素との関係として捉えられた。さらに,同じ操作が行えることを通して, 式が適用で きることを理解することができた。
  2. 小さい項数における式の数量の関係を捉え,その関係を,一度他の場面に適用す るこ とができれば,その後は,式をもとに適用範囲をさらに広げることができた。
4. 指導への示唆と今後の課題
上記の結論から,指導への示唆として,次のことを得た。
 簡単な問題の解決に用いた式を,複雑な問題に適用できない児童に対しては,式に 表されている数量の関係についてことばで考えさせるだけではなく,その式を支えて いる「開始の活動」に振り返らせ,同じ活動が行われることを確認させることが必要 である。
今後は,一般化以外の問題場面における,式のよみのはたらきについて考察するこ とが,課題として残されている。

主な引用・参考文献

指導 手島勝朗、布川和彦
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