算数における関連づけの重要性についての研究
−児童の学習過程の分析を手がかりにして−

長倉 弘典


1.研究の動機と目的
  同じ教科書を使い、同じ問題に取り組み、同じ指導をしているにもかかわらず、子どもの学習理解に違いが見られることが多々ある。この違いはどうして生まれるのか。また、子どもが本当の意味で「わかる」ように導くためにはどのような支援をすればいいのだろうか。このような疑問をもったことが研究の動機である。

「わかる」について考察された研究の中に、村上(1977)がある。村上は、「わかる」について各辞典の主張をまとめ、関係把握が認知の重要な要素であると主張している。つまり、「わかる」には事象を関連づけることが重要なのである。しかし、全国学力調査の結果から、子どもは関連づけを行って問題を解決できていないことが示されている。にも関わらず関連づけの先行研究においては、子どもがどのように関連づけを行っているかについての詳細な調査は充分に行われていない。そこで、本稿では、関連づけという視点で子どもの学習過程を分析することにより、関連づけを通してどのように「わかる」ようになっていくのかについて調査し、指導の示唆を得ることを目的とした。

2.研究の概要
 第1章では,「わかる」について考察している文献研究の検討を行い,「わかる」とは「過去の経験や既有の知識と関連づけることができた」状態であるという知見が得られた(佐伯, 1975; 市川, 1996; Skemp, 1992; 銀林, 1986; 近藤, 2011)。また、「わかる授業」についての実践研究(大野, 2011; 重松・吉田・川口・横, 2009)により、「わかる授業」とは関連づけを重視した授業のことであり、関連づけを重視することで「わかる」状態へと変容する可能性があることについて述べた。

 第2章では, 第1章で示した可能性について、既有知識との関連づけを促す工夫を行っている実践研究(都築, 1989; 多田, 1989; 寺井, 2009)を通して検討し、既有知識との関連づけを促す工夫をして指導することにより、意味理解も含めて計算が行えるようになることや根拠を求める姿勢が生まれること、事象の関連に着目できるようになることについて述べた。しかし同時に、教師側が関連づけを意識できるような工夫を行っても、子ども側が関連づけを意識するとは限らないという問題点についても述べた。個に着目した研究から、関連づけを行う子どもと行わない子どもの学習内容の理解の違いと、その違いに関わるいくつかの特徴が明らかになった(Anthony, 1996; 長島, 1998)。しかし、中等学校の調査しか行われておらず、小学校の通常授業における児童の関連づけの様子についても同様の調査を試みる必要があることについて述べた。

 第3章では,調査計画について示した。小学校の通常授業の中で、児童がどのように関連づけを行って学習を進めているかについて調査を行った。調査は,小学4年生の1クラスを対象とし、2名の児童(児童Oと児童I)を選出した。「わり算のきまり」の単元と「わり算の筆算」の小単元における2名の子どもの学習過程を12時間に渡りビデオで記録した。内7時間分を分析の対象とし、記録を基にプロトコルを作成した。

 第4章では, 児童OとIの学習過程における諸活動に着目し、第2時から第8時の授業の中で、「どの場面で関連づけを行っていたか」「何を関連づけたか」「関連づけた結果、どのような影響があったか」について分析し、次に、「関連づけ」が学習理解をどのように促していたかについて、分析・考察を行った。

 Oの活動から、第2時の時点では関連づけを行っている様子は見られなかったが、第3時以降、関連づけを頻繁に行うようになり、前時までの学習内容と関連づけることによって、式を作る活動を充実させたり、根拠をもって説明したりする様子が見られた。また、第5時では前時の学習と関連づけて問題を解こうとするが、うまく適用できずに困難を示す様子が見られた。その後の展開で、他の児童の発言により、第2時の学習内容を関連づけることで問題を解決できることを知るが、それまでに「本当にそうなるのか」「なぜ前時で学習したことを関連づけたのに解けないのか」にこだわり考え続ける様子が見られた。第7時で他の児童が発表した考えが第2時や第5時で学習したことと同じであると気づき教師に話している場面や、第8時で筆算が第6時で考えた自分の解き方と似ていると話している場面から、既習内容との関連性を見出している様子が見られた。

 結果として、関連づけて考えることで、次のような学習理解への影響があることが示された。

  1. 既有知識と関連づけることによって、自力解決の活動が充実した。
  2. 自分の考えた方法と既有知識との関連にこだわり考えることで、能動的に活動することができた。
  3. 既習知識との関連づけを意識して学習することで、既習内容の理解も促進することができた。
  4. 学習したことと自分の考えを関連づけることで整合性を実感していた。
  5. 関連づけて考えることの有用性を実感することによって、関連づけを意識して授業に参加するようになった。
 また、先行研究の知見と照らし合わせて評価した結果、Oは単元を通して関連づけを繰り返し行ったことで、「わかる」ようになっていったと捉えることができた。

 一方のIについては、単元を通して上述したような活動は見られず、単発的な理解はするものの、板書や他者の発言から答えがわかると満足してしまう様子が見られた。

 このことから、教師は、自力解決や話し合い の場で出された子どもの考えを取り上げる際、その解決方法の根拠について一人ひとりに考える場を設けることが必要である。そのことによって、取り上げられた解決方法と既有知識との関連が捉えやすくなり、個々の子どもが自分の考えや既有知識を解釈し直すことができると考えられる。また、毎時間の指導の中で、教師が既有知識との関連について繰り返し強調することで、子どもたち自身が、関連づけは問題解決や学習内容の理解に有効であると意識できるように指導を行なっていくことが重要であるという示唆が得られた。

指導 布川 和彦


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