統合的な授業における比例的推論の発達に関する研究


−6年「倍と割合」「比」の実践を通して−


佐藤 満


1.研究の動機と目的
 小学校高学年の算数では,5年「小数のかけ算・わり算」「割合」,6年「単位量当たりの大きさ」「分数のかけ算・わり算」など,比例的推論に関わる学習が多く見られる。そして,ここに示した単元は,一般的に理解が難しい学習とされ,深刻な問題となっている(国立教育政策研究所教育課程研究センター, 2001; 新潟県教育委員会, 2005)。

 このような問題点を解消するため,系統性を意識した学習(末次, 1983)や数直線を用いた学習(馬場, 2005)が行われているが,依然として解消に至っていない。このことは,教師の立場から見ると,系統性を意識した学習を子どもに提供しているかのように見えるが,子どもにとっては,必ずしも教師が意図したような意識のもとで学習していないことを示している。

 そこで,本研究では,子どもが系統性を意識できるような授業として,割合を中核とした比例的推論に関する学習を統合する授業を導入する。このことにより,比例的推論がどのように発達していくのかを実験授業を通し,分析・考察していく。

2. 本研究の概要
 第1章では,本研究で比例的推論の中核として扱う割合と統合に関する先行研究について考察し,「倍と割合」「比」の単元及び授業構成に必要な視点を明らかにした。

 比例的推論の捉え方に関する先行研究では,小学校の算数学習における比例的推論に関する学習は,多岐に渡っていることを示した。また,問題解決の手がかりとして,式・図・数直線などがあるが,その中でも数直線が有効であることを示した。

 比例的推論の理解状況に関する先行研究の検討では,比例的推論に関する学習の理解過程の複雑さと,学年が上がっても比例的推論に関する学習の理解は深まらず,定着すら危ういということを示した。

 第2章では,実験授業を構想するに当たり,実際に行われた割合の実践や授業における数直線の扱いについての先行研究を考察した。その結果,イメージや複数の単元を系統的に扱う学習の重要性が明らかとなった。このことから,「割合のイメージを生かす」「数直線を有効に活用する」「割合に関する学習を統合的に見る」という3つの視点が見出され,この3つの視点から「倍と割合」「比」の実験授業の具体的な構想を示した。

 第3章では,実験授業の目的,方法,概要を示した。調査は,N県の公立小学校6学年34名に対し,「倍と割合」「比」の単元で15時間行った。学級全体と抽出児2名(里奈,正矢:いずれも仮名)の学習過程をビデオで記録し,それをもとにプロトコルを作成した。さらに,分析する抽出児の学習の背景をより明確にするため,実験授業の実際として,1時間ごとの課題と学級全体の学習の概要を示した。

 第4章では,実験授業における2人の子どもの学習過程を2章で見出された3つの視点をもとに分析・考察を行った。その結果,以下のような比例的推論の変容が見られた。

 倍と割合のストラテジー指導では,割合のイメージを数直線に反映させながら割合の問題を考える姿が見られた。その一方で,数直線の扱いがうまくいかず,数直線上の4つの数値や乗法関係を見出せなかったり,数直線と式がつながりをもたなかったりする姿が見られた。

 倍と割合の6時間目(統合的な学習T)では,数直線上の4つの数値の中に基準をつくって考え,正しい式を見出す姿が見られた。特に正矢は,式が見出せない問題に対して数直線を拠り所にして考えたり,問題文に出てきた数値の順に立式する誤った捉え方を解消したりした。  比の2,3時間目では,同値の比を数直線上に複数表す活動により,比のイメージを割合のイメージに重ね合わせながら乗法関係を見出す姿が見られた。この活動を通して,複数の乗法関係を左右に自由自在に操るなど,倍概念が豊かになる姿が見られた。

 比の8時間目(統合的な学習U)では,小数や分数倍の理解で混乱する中,多くの問題で数直線上の4つの数値の中にある1を基準として考える姿が見られた。この1を基準とする考え方は,乗法関係が意識しやすくなることから,比例的推論において重要な考え方であると捉えられる。最終的には,式が見出せない問題もあったが,数直線を活用しながら乗法関係や式を考えたことにより,イメージが捉えにくい小数や分数倍の理解を進展させることができた。

 事後テストでは,乗除の問題で1を基準として考える姿が見られた。ここで扱われた問題は,2人が混乱を示した小数や分数を扱っていたが,里奈は,数直線を拠り所とし,正しい乗法関係と式をスムーズに見出すことができた。さらに,小数や分数の理解が不十分な正矢に関しても,式を説明する場面では,乗法関係を含め,正しい数直線を見出すまでに至った。また,その他の割合・単位量当たりの大きさ・比の問題でも,乗法構造を意識しながら問題を解決した。

 以上のことから,里奈と正矢は,統合的な授業により,乗法構造の意識化と倍概念の発達が図られ,割合のイメージを反映させた数直線を活用しながら正しい乗法関係や式を見出すことができたと考えられる。このような,割合のイメージと知識・技能が,乗除・割合・単位量当たりの大きさ・比など,比例的推論に関する学習の中で積極的に活用される姿を比例的推論の発達した姿だと捉えることができる。

3. 今後の課題
 本研究では,「倍と割合」「比」の学習で統合的な授業を行い,比例的推論の発達についての調査を行った。しかし,ここで見出された知見は,2単元で行われた中で得られたものであり,比例的推論に関する学習のほんの一部のものである。このようなことからも,今後さらに,比例的推論に関する学習を系統的に統合させていくための研究が必要であると考えられる。

4. 主な参考文献

指導 布川和彦


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