問題解決過程における問い方の発達を促す支援に関する研究

−Scaffoldingの考え方を取り入れて−



清水 祐子


1.研究の動機と目的
 小学校の算数の授業では,「問題を解こうという意欲はあるが,既有の知識や技能をどう使えばよいかわからず,問題に取り組めない子ども」や「課題文の数字を適当に既習の式に当てはめて答えを出そうとする子ども」が見られる。そのような子どもには,意味を伴った形で知識や技能を習得させたり,既習の知識や技能を使い自ら問題解決を進展させるという,主体的な学び方・考え方を育成したりしていく必要があると考えられる。

 そこで,本研究では,子どもの持つ「問い」が学習の原動力になるという示唆(坪田, 2005)から,自ら問題解決を進展させる適切な「問い方」を子どもに身につけさせるための教師の支援について明らかにすることを目的とした。これまでにも,多くの研究で主体的な学び方について研究がなされてきたが,問題解決過程で行き詰まった場合でも,主体的に問うていく力を育成する教師の支援については明らかになっていない。「問い方」の発達を促す有効な支援について明らかにすることが,主体的に学ぶ力を育成することへの示唆になると考えられる。

2.研究の概要
 第1章では,問うことが主体的な学びの原動力となるだけはなく,問題場面の理解を深める働きをすることについて述べた。そして,問題解決の途中で行き詰まった場合でも,「新しい情報を探る問い方」や「振り返る問い方」ができれば,問題場面の理解を深めるとともに,より問題解決に直結した「問い」につながり,さらに解決を進めるという,主体的な問題解決ができるようになる可能性を示した。

 第2章では,子どもの活動に随伴して支援のレベルを変えたり,教師の責任を子どもに移譲したりするという,Scaffoldingにおける効果的な介入の特徴を取り入れて,教師の「新しい情報を探る問い方」や「振り返る問い方」が内面化されるように促すことで,問題解決過程における子どもの「問い方」が発達する可能性があることを示した。

 第3章では,調査の目的,方法,概要について示した。調査は,小学校6年生4名を対象に全17時間行った。マイコ・エリカペアとヨシオ・ヒロシペアの学習過程をビデオで記録し,それをもとにプロトコルを作成した

。  また,Scaffoldingにおける効果的な介入の特徴を取り入れた教師の支援の仕方と支援のレベルを示した。そして,一般的な支援から始め,子どもが動き出さなかったら具体的な支援へと変えながら,子どもの発達に適したレベルの支援を行うようにし,徐々に責任を子どもに移譲していくという支援の方針について述べた。

 第4章では,2組のペアの学習過程における「問い方」の変容について分析・考察を行った。その結果,次のような「問い方」の変容が見られた。

 マイコ・エリカペアは,初期の段階では,どのように問うていいのかわからず,ため息ばかりついている状態であった。そこで,まず教師がモデルとなり,適切な「問い方」の見本を見せながら一緒に問題解決を進めていった。教師の「問い方」で問題場面の理解が徐々に深まり,自分たちも問題解決を進展させられたという経験をした二人は,教師の「問い方」と類似した「問い方」で自ら問題場面に働きかけるようになっていった。調査が進むにつれて,徐々に「問い」を発する回数が増え,質の高い「問い」を発することも増えていった。行き詰まった場合でも,一般的な支援だけで自ら問う中身を考え,具体的な「問い」を持って動き出すことができるようになった。そして,調査の後半では,行き詰まった場合に教師の支援がなくても,問題に合った適切な「問い方」で問題場面に働きかけることができるようになってきた。

 以上のことから,教師がScaffoldingの考え方で「新しい情報を探らせる支援」や「振り返らせる支援」を行うことによって,マイコ・エリカペアの「問い方」が発達し,主体的に問題解決を進展させることができるようになっていったと言える。

 一方,ヨシオ・ヒロシペアは,初期の段階から,「問い」を発しながら問題場面に働きかけることができていたので,最初はマイコ・エリカペアより「問い方」が発達していたと考えられる。しかし,調査の後半になるとそれは逆転する。その要因としては,「答えが出ればそれでいい」という信念が強かったことと教師の支援による成功経験が少なかったことが考えられる。答えに自信がなくても,問題場面の様子がよくわからなくても,答えが出ればそれでいいと考えてしまっていたことにより,問い続けながらよりよい解決をしていこうという態度が育成されにくかったと考えられる。さらに,教師の支援による解決ではなく,数字合わせでの解決で最終的に答えを導き出すことも多かったことから,教師の「問い方」を取り入れるよさを感じず,教師の「問い方」が内面化されにくかったと考えられる。それでも後半には,「振り返る問い方」をしながら解決過程を振り返る様相を見せている。そして,それに伴い,答えが出ればそれでいいという信念も変化してきている。

 以上のことから,教師は,意図的にScaffoldingの考え方を取り入れ,子どもの現在の発達水準に合わせた支援を行い,適切な「問い方」により解決が進展したという成功経験を多くさせることによって,子どもたちの「問い方」の発達を促すことができると言える。そして,「問い方」の発達は,主体的に問題解決を進展させる力につながり,子どもの様々な信念をよい方向へ変えることにもつながると言えるであろう。

3.今後の課題
 本研究で示した「問い方」の発達を促す支援を通常の授業にどのように取り入れていくかについて考え,実践することによって,その有効性についてさらに明らかにしていくことが今後の課題である。

4.主な参考文献

指導 布川和彦
修士論文タイトルに戻る