2. 研究の概要
第1章では、先行研究を基に数学嫌いの実態について明らかにし、その改善についての方向性を探った。まずは、実態として数学嫌いの原因について考察した。その結果、数学への好悪感情と客観的理解度や主観的理解感との間に有意な相関関係があることが示され(今井・竹内・三木・木下, 1992 他)、数学嫌いの発端として最も多いのが「数学がわからなくなること」であることが明らかとなった(重松, 1984 他)。次に、数学嫌いの傾向についても考察した。その結果、数学嫌いは無気力に陥っている可能性が十分にあることが示され、学習に対して諦めていて意欲や目標をもち難いとうことが明らかとなった。以上の実態を踏まえた上で改善策の方向性を検討した結果、数学嫌い改善には自己効力感の向上が有効に働くことが示唆された。
第2章では、前章の結果を踏まえた上で、数学嫌いの自己効力感の向上を妨げる問題点について考察した。そのためにまずはBanduraについて考察した結果、自己効力感向上の仕組みには主に「情報を得る場面」「自己評価」「目標設定」「フィードバック」の4つの要素が関わっていることが明らかとなり、目標設定が全ての要素に影響を与える要であることが明らかとなった。そして、その仕組みについて明らかにし、それを数学の授業に適用することで数学の授業における自己効力感向上の仕組みを明らかにした。
次に、自己効力感向上の仕組みにおいて要となる目標設定に焦点を絞り、数学嫌いの実態を踏まえた考察を行ったことにより、次のような3つの問題点が見出された。
第3章では、第2章において示唆された数学嫌い改善のための自己効力感向上の目標設定における3つの問題点に対し、どのような支援を行い解消すればよいのかについて考察した。その結果、授業に予想を取り入れるという支援方法が3つの問題点の解消に効果的であることを示した。
まず、数学嫌いは目標をもち難いという問題に対しては、授業の導入段階に予想を考え発表させる活動を行わせることによって、知的好奇心を喚起することで目標をもたせることができることを示した。
また、一斉授業では目標の水準と近接性を数学嫌いに合わせ難いという問題に対しては、課題に向かうまでに"問題"の設定やそれに対する予想や気づきといったヒントを数学嫌いに得させることで、課題の水準と数学嫌いの水準を近づけられることを示した。
そして、説明を求める形式の問題が目標の具体性を確保し難いという問題に対しては、授業のはじめに達成基準が明確な決定問題を挟み、その後説明を求めるような問いを課題として設けて解決させ、授業の最後に再び最初の問題に立ち返って締めくくることにより、明確な達成基準を生徒に意識させることで解消できることを示した。
第4章では、第3章において授業に予想を取り入れることが先の問題点に効果的に働くことが示唆されたことを受け、相馬の研究を基に検討を加えることで目標設定を促し、それによって自己効力感の向上を促すような支援を見出し、それを用いた数学嫌い改善のための授業を提案した。
まず、相馬の研究から予想を取り入れた授業の段階と流れについて明らかにし、そこに目標設定を促す支援を加えることで、授業の段階に応じた具体的な数学嫌い改善のための支援方法を示した。また、問題の構成についても考察し、予想を取り入れた授業における問題の条件と、目標設定を促す問題の条件について統合的に判断したことによって、自己効力感を向上させる問題の条件を構成した。
そして、見出した数学嫌い改善のための支援の方法と問題の条件を安井(2010)の実践に取り入れることで、数学嫌い改善のための自己効力感向上を促す授業を示した。
3. 今後の課題
本研究では、数学嫌いの諸傾向や実態について示し、それを基に数学嫌い改善を阻害する問題点についての示唆を得た。そして、その問題点の解消には予想を取り入れた授業が効果的であることを示し、それを基に数学嫌い改善のための自己効力感を向上させる目標設定を促す支援の在り方について示すことができた。
しかし、今回示した知見は先行研究の考察を中心に行っているため、具体的な生徒や授業であればどうなるのかということについては考察が足りない。したがって、今後は得られた知見を基に具体的に実践していくことで、本研究の妥当性を高めるとともに、新たな修正を加えながらより数学嫌い改善に対して効果的な支援の在り方について考察していきたい。