中学校数学における課題学習による単元構成についての研究



田口隆夫


1.研究の目的
 中学校数学の教科書の単元構成は、数学の体系や系統性に沿って構成されており、必ずしも生徒の問題意識の流れに沿った構成にはなっていない。また、通常の授業では、教師による断片的な知識や技能の伝達になっていることがある。これらの改善策として、生徒の「主体的な学習」や「数学的な見方や考え方」の育成をねらいとして、中学校数学科では課題学習を実施している。

 本論文では、通常の授業において、課題学習のように主体的な学びが生じ、かつ数学の指導目標も達成できるよう意図して、単元を構成する可能性について検討することを目的とした。

2.本研究の概要
 第1章では、課題学習が導入された背景、目的及び課題学習における先行研究を考察した。 課題学習を通常の授業でも日常化しようとする研究として、曽根崎(1992)や井上(1993)の研究がある。これらの研究は、課題学習を充実させ、そのねらいとする生徒の主体的な学習を通常の授業においても促すように定着、充実させていくことを目的としている。しかし、生徒にとってその課題学習での主体的な学習活動が、どのように通常の授業で活かされているのかや、指導目標としての数学の内容がどのように達成されるのかが、これらの研究からは不明である。すなわち、生徒の問題意識がどのように継続され、かつ、数学の指導目標を達成できるかが明らかにされていない。

 第2章では、第1章の先行研究において得られた知見から、課題学習による単元構成の基本的な考え方と方法を構築し、その概要を述べた。

   課題学習による単元構成は、問題意識の流れを中心に構成する。生徒の問題意識の確立・継続を促す際に、「認知の不均衡」が重要な視点になる。「認知の不均衡」とは、既有の知識では解決できないことから生ずる不安定な状態と捉えた。認知の不均衡を生徒が生じさせることで、問題意識を確立することができる。そして、この不均衡を基に新たに不均衡が派生する。この派生する不均衡によって、短いスパンでの問題意識が継続される。また、派生した不均衡が解消し、それによって生じた知識が最初の不均衡とつながるならば、生徒は単元全体で問題意識が継続することになる。

 また、認知の不均衡は単元の指導目標を導き出すためにも重要な視点になる。すなわち、指導目標につながる課題を設定する際、生徒の問題意識につながる認知の不均衡を予想する。そして、その生徒の問題意識から課題を設定する。

 以上のことから、認知の不均衡を視点にして、生徒の問題意識の継続や課題の設定を図り、 単元全体を課題学習として扱う展開を「課題学習による単元構成」として考えた。

 従って、課題学習による単元構成の方法は、単元構成の構造のポイントにおいて、問題意識を確立・継続させ、しかも単元での学習内容や指導目標を達成できるように認知の不均衡を仕組むことが必要である。これを具体的に「二次方程式の単元で考え、その手法として問題意識のネットワークとして単元を構想した。

 問題意識のネットワークは、一方では、指導目標を達成するための不均衡を基にしている。他方では、教師の提示する課題を考え、その中で生まれる課題に沿った不均衡を付加することにより、問題意識がネットワーク化されることになる。つまり、単元の指導目標に沿った不均衡と教師の提示する課題から生まれる不均衡が、絡み合うことによって問題意識が継続することが考えられる。

 第3章では、筆者が公立中学校3年生に対して「二次方程式」の単元の検証授業(12時間)を行った。そして、その授業における抽出生徒の問題意識の流れについて分析・考察した。

 生徒の主体的な学習を促し、数学の指導目標を達成するために設定した「長方形のデザインはどうやって解決すればよいのか」という不均衡は、最後まで問題意識として機能し、単元内の学習を互いに関連させる推進力になっていた。つまり、意図して設定した不均衡は、第3時に「道一本のデザインは解けるのに道2本のデザインはどうやって解けば良いのか。」という単元を貫く不均衡の状態になった。この不均衡は、第9時の「道、花壇の長方形を変形して正方形にすることで平方完成の考えを理解できた」ことで解消した。このときの不均衡の解消は、二次方程式の指導目標を達成したことになった。

 第3時の不均衡から第9時の二次方程式の指導目標を達成するまでに短いスパンの中でも、問題意識を継続させた特徴的な場面がある。すなわち、第5時に「正方形のデザインはできるが長方形のデザインはできない」という不均衡が生じ、それは第10時の「正方形のデザインはできるが、長方形の面積を変えないで正方形に変形することはできないのか」という不均衡に表れた。また、第12時に抽出生徒の小沢が「解の公式ではなく敢えて平方完成にこだわる」ことも、デザインで理解しようとしていたことから、第5時の問題意識が継続されていることがわかった。これらの不均衡は、数学の指導目標を支える原動力になっていた。

   このように1つの単元を1つの課題学習として構成していった場合に、不均衡が時数の間を行き来しながら大きな流れとして表れているといえる。そして、この不均衡が生徒の問題意識の確立・継続や数学の指導目標の達成に有効であることがわかった。またそのことによって、主体的な学習や数学的な見方や考え方を発揮できることが見出された。

3.今後の課題
 課題学習による単元構成について、今回の検証授業では抽出生徒を中心に分析、考察した。他の生徒ではどのような変容をするのか比較検討する必要がある。また、二次方程式以外の他の単元でも課題学習による単元構成を考え、検証していく必要がある。

4.主な引用文献

指導 布川和彦 岡崎正和
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