文章題の解決とイメージの関係を基にした割合の授業改善に関する研究



山口 潤


1.研究の動機と目的
 割合の文章題を苦手とする児童は多い。そのような児童に対し、筆者は、公式とそれに当てはめる数値を問題文から見つけ出す手段を覚えさせる指導を行ってきた。その結果、児童は形式的に問題活動を行うだけで、割合の理解には至っていなかった。

 割合を理解し、割合の文章題の解決を身についたものとするためには、割合の概念の理解とその応用との接続を視野に入れた、単元全体を通しての指導が必要であると考えられる。

 また、吉田・河野(2003)は、実験授業を通して、割合のイメージが割合の概念の理解を促したことを示している。このことから、文章題においても、割合のイメージをもつことで、場面場面に応じた適切な状況を思い浮かべることができ、さらにその場面に割合の考えを生かしていくことができると考えられる。

 そこで、本研究では、割合の文章題の解決に向けて、割合のイメージを生かした単元全体の指導を行うこととする。そのため、「イメージをもたせる」「インフォーマルな知識を活用する」「問題スキーマを構成する」の3つの視点に基づいて割合の単元及び授業を改善し、その効果を確かめることを目的とする。

2.研究の概要
 第1章では、文章題と割合に関する先行研究を探り、考察することで、授業構想の視点を明らかにした。

 まず、割合の文章題の解決には、問題場面と割合の概念の両者を理解する必要があることが示された。そして、問題場面の理解には、問題スキーマを構成させることが、割合の概念の理解には、インフォーマルな知識を活用すること、割合のよさを感じさせることが有効であることが示された。

 また、吉田・河野(2003)の提案する割合のイメージの表象である割合モデルと、比例関係を表す数直線を統合したものを単元の中で用いることを示した。これに、「イメージをもたせる」「インフォーマルな知識を活用する」「問題スキーマを構成する」の3つの視点が集約されることで、割合の概念の理解と文章題の解決に効果があると考えられるため、3つの視点を授業構想の柱とすることを示した。

 第2章では、3つの視点を基に割合の授業構想を行った。

 「イメージをもたせる」については、割合モデルと数直線が統合したものである割合メーターの使用を提案した。この割合メーターは、割合や問題場面のイメージの表象となるだけでなく、割合の大きさを数値同士の関係として捉えて、答えの見積もりや立式の拠り所となる。

 「インフォーマルな知識を活用する」については、%からの導入や量感覚を生かした課題を取り入れることとした。そこで、メスシリンダーに指定された水を入れる課題を設定した。この課題は、割合の概念の理解を促すだけでなく、割合メーターを動的に捉えさせ、割合はつまり具合であるというイメージを与える。また、量感覚を生かすことで、割合メーターの作成や読み取りができるようになる。

 「問題スキーマを構成する」については、問題の形式を基本形から発展形へ移行させる形を取り、全用法内で包含関係の問題を扱った後、対比関係の問題へ移行することとした。問題スキーマが構成されることで、問題の形式を問わずに割合メーターが作成できるようになり、そこに割合及び問題場面のイメージを見ることができるようになる。そして、割合メーターの中で、割合のイメージと問題スキーマが統合することで、割合の意味を実感できるようになる。

 他にも、第1章の示唆で得られた、「割合のよさを感じさせる」「比例的な見方を育てる」の視点も取り入れることで、授業構想を行った。

 第3章では、授業構想の3つの視点及び割合メーターの児童の思考過程への関わりや、解決過程における役割について、2人の児童の学習過程を分析、考察することで明らかにしていくことを示し、そのための実験授業の方法や概要について示した。さらに、実験授業の実際として、学級全体の児童の学習の様相を示した。

 第4章では、抽出児童、翔と英の学習について、時系列に沿って記述し、分析を行った。

 翔は、問題の形式に基づいた解法と問題場面及びその割合のイメージに基づいた解法とを問題に応じて使い分けて問題解決を行っていた。そのうち、問題の形式に基づいた解法は、第2用法の問題に限定されており、その他の問題は、イメージに基づいた解法で行われていた。翔の問題解決は、問題文を読んでもとにする量を見極めることができなかったり、割合メーターの数値同士を比例的な関係で捉えることができなかったりと不安定な要素が多い。しかし、それらを割合のイメージが補う形で問題解決を行うようになっていく姿が示された。

 英は、包含関係の問題では全体―部分の関係で問題場面を捉えて、対比関係の問題では問題スキーマを生かすことで問題場面を捉えて、そこに割合のイメージをもつことで、問題解決を進めていた。立式については、比例的な見方を基に行っていた。単元の最後には、問題場面や問題の形式を問わず、どのような問題においても、割合及び問題場面のイメージをもてるようになり、割合メーターを問題解決のための統一的な表象として扱って問題解決を行うようになっていく姿が示された。また、割合のイメージに比例的な考えを持ち込むことで、割合の概念の理解にも至ったことも示された。

3.まとめ
 2人の思考過程に基づいた考察からは、単元を通して割合メーターを使用することで、割合のイメージが形成され、それが文章題の解決や割合の概念の理解に結びつくことが示された。また、その割合のイメージに基づいた問題解決や概念の理解は、割合のイメージとインフォーマルな知識、問題スキーマが割合メーターに集約されることで成り立つことが示された。

 今後は、割合以外の単元においても、イメージに基づいた単元及び授業構成を行い、実践し、文章題の解決とイメージの関係について明らかにすることが課題である。

主な参考・引用文献
吉田 甫・河野康男.(2003).インフォーマルな知識を基にした教授介入:割合の概念の場合.科学教育研究,27(2),111−119.

指導 布川 和彦


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