2.実習を支える授業基礎研究「教育実地研究」

視聴覚教材「算数の授業づくり」の活用・評価

◎ 視聴覚教材の概要

 平成18年度に作成した視聴覚教材は「算数の授業づくり」です。小学校4年生に課題(場面1)を提示することから授業を始めました。児童は「5行目の数がみな1089になること」(場面2)に驚き,「え〜,どうして?」とつぶやきました。この謎を解き明かすために,3行目の秘密を探ることにしました。児童は授業者の予想を越える秘密を発見しました(場面3)。発見した秘密を活用して,5行目が1089になる謎を解き明かしました(場面4)。この課題は発展的に扱うことができます(場面5)。

場面1 本時の課題 場面2 5行目は1089
場面3 児童が発見した3行目の秘密 場面4 児童による説明
 
場面5 課題の発展  

 平成19年度から,この視聴覚教材『算数の授業づくり』をいくつかの授業で活用することにしました。

◎ 活用場面1…学部1年生向け授業

 学部1年生向けの授業である「人間教育学セミナー(教職の意義)」で講話をしました。テーマを「子どもと授業を創る喜び」とし,講話の途中で,視聴覚教材を用いることにしました。算数授業を例にして,授業を構想することの楽しさと難しさ,児童と授業を創る喜びなどを感じとってほしいというねらいで行ったものです。

◎ 活用場面2…学部2年生及び教員免許取得プログラム院生1年生向け授業

 概要で示した課題を学生に提示しました。そして,「この課題を用いて,小学校4年生に授業することを想定し,発問を考え,それに対する児童の反応を予想しながら,どのように授業を展開したらよいか」を考えることにしました。
 一人一人の学生が考えた発問をグループ内で検討し,練り上げ,発表し合いました。これらの発問を今度は全体で検討しました。次に,このような発問に対して,児童がどのように反応するかを予想していきました。
 こうした学習をした後に,視聴覚教材を視聴することにしました。導入場面,展開場面,終末場面に分けて,それぞれ数分間の視聴です。

◎ 視聴覚教材の評価

 学部1年生は,次のような授業感想を書いていました。

  •  「日々学ぶことは,とても大切なのだと改めて思った。『教師』という職業は学ぶことの喜びをストレートに子どもたちの表情や反応から感じることのできる素晴らしいものだと思う。しかし,その分,子どもの成長に大きく影響を与えるので,責任も大きい。1回1回の授業で,子どもたちにどれだけ「考えること」をさせるのか。どのように授業づくりを進めていくのか。今まで知らないことだらけだったので,今日話を聞いて大変さを実感した。
     自分で計算して気付いた時にはびっくりしたけど,小学生の反応はとても多く,しかも考え方も様々で映像を見て感心することばかりだった。特に斜めに足すと20になるとか,九九の九の段の数だとか,そのような意見が次々と出てくるので感心した。やはり,子どもはすごいなの一言だった。
     教育実習をするときに参考になることばかりで,今から実習に行くのが楽しみだ。もちろん不安もあるけど,先生の言う「喜び」を身体で感じたい。今日の話を聞いて,教師になりたいと強く思った。」

 大学に入学して間もない学部1年生ですが,視聴覚教材を用いて実際の授業の様子を視聴できたことで,教師への決意を新たにしたようです。

 また,学部2年生は,次のような授業感想を書いていました。
 『2コマの授業を通して,子どもたちに対する発問の難しさを感じた。主発問3では全くといっていいほど考えが浮かばず,実際に指導案を書くときのことを考えると不安な気持ちになったけど,これからの授業の中でより確実なものにしていきたいという気持ちが強くなった。また,ビデオで見た子どもたちからの反応も予想を上回っていて驚いたし,もっともっと勉強が必要だと改めて痛感した。今回の授業のように,算数に興味・関心がもてるような授業ができたらいいと思う。算数があまり好きでなくて苦手な私でも,今回の授業はとても楽しめた。』
 学生が予想した児童の反応と実際の映像との違いに,学生は驚きました。特に発問の一つがオープンエンドであったため,児童の実際の反応は多様でした。改めて,児童の反応を予想することの大切さと難しさを学生は感じていたようです。これも視聴覚教材を活用したことのよさといえるでしょう。