上越教育大学 教員養成GPプロジェクト

確率概念の活動的・体験的理解を図る教授単元の臨床的開発研究

取組実績と課題

9.成果と課題

 最後に,本研究プロジェクトの成果と課題について簡単にまとめることとする。

(1)教材開発
 本研究プロジェクトの特色の1つは,<教員チーム>,すなわち,数学教育学を専門とする研究者,実務家教員及び授業実践者のコラボレーションにあった。これによって,現在の教科書の内容を含め,それを越えてより広い立場から,また,教室という場に臨みながら,生徒たちの進度と興味・関心に応じた独自の教材を検討することができた。
 本プロジェクトを通して開発された確率単元の構成とその主要な活動を構成する指導案(インターネットコンテンツを参照)は,本研究プロジェクトの1つの成果であるといえる。さらに,本実践の価値が数学教育学の立場,特に確率概念の本性としての循環性の観点から検討されつつあり,確率概念の本性と整合する授業の核心となる構成要素が,部分的にではあるが,教室で実現可能な1つの典型的な授業パターンとして再構成されたものを提案することができた*。これは,平成17年度において残された重要な実践的課題であった。今回の授業パターンの再構成はそれに向けた第一歩といえる。

*岩ア 浩
中学校確率の活動的・体験的理解を図る授業の開発研究:教室における確率の意味の発生と展開,全国数学教育学会 第25回研究発表会, 2007年1月27日-28日

また,他のメンバーによっても様々な観点から,本実践の反省的検討がなされてきている。しかし,多くはまだ分析途上であり,これらをさらに進めていく必要がある。

(2)インターネットコンテンツの開発
 平成17年度に実施した教室を拠点としたコラボレーションによる実践的かつ反省的な確率教材の開発過程及び結果には,教師にとって必要かつ重要な要素が多く含まれていると考えられる。この過程及び結果を明らかにし,学部学生や学卒院生,さらには現職院生や一般教員に還元する教師教育プログラムを開発・実施することへとつなげていくことが平成18年度における課題であった。
 広く本実践研究の研究成果を配信し,現場の中学校の確率の授業改善及び数学教員を目指す学生や院生,そして若い数学教員が確率の授業構成について考える具体的な手立てを提供するために,われわれが最も注意を払ったのは,「典型的かつ具体的な実践場面を中心として構成する」ということであった。そのため,インターネットコンテンツの開発においては,確率教材の開発過程及び結果を全10時間の指導計画と指導案,特に,本研究の目玉である,2つの実験を中心とした授業(「サイコロ問題(3時間)」と「赤−青カード問題(2時間)」)については,実際の授業過程を示した指導案とその主要な授業場面のビデオ映像によって構成した。また,これらの授業のビデオ映像をみるにあたって,われわれの1つの見方を示すものとして「ここに注目!:数学の授業構成Q & A 」も付け加えた。これは,学卒院生の素朴な疑問,それに真摯に答える実務家教員,自らの実践と対比しながら,さまざまな授業の見方を示唆する現職院生,教材の背景にある考え方を示唆する数学教育学を専門とする教員というようなコラボレーションによって実現されたものである。
  この研究プロジェクトにおいて,どのようなコラボレーションが実際にあり,そこでどのような学びあいが起こっていたのか,そこに「学校教育プログラム」や「教師教育プログラム」にどんな可能性が開かれているか,これらを実証的に検討していくことは重要であり今後の課題としたい。