上越教育大学 教員養成GPプロジェクト

特別支援を要する学習者への国語科学習における個別的な支援のあり方に関する研究

取組実績と課題

4.研究の背景と研究の目的

 ここ近年、小・中学校を取り巻く状況は大きく変化してきている。
 まず、文部科学省が実施した「通常の学級に在籍する特別な支援を必要とする児童生徒に関する調査」によると、学習面か行動面で著しい困難を示す児童生徒が、6.3%存在するという結果が明らかになった。これは、現行の40人学級で換算した場合、学級に2〜3人の割合で特別な支援を要する児童生徒が存在する可能性を示している。つまりどの学校にも、どの学級にも特別な支援を必要とする児童生徒が存在する可能性があることになり、学校教育における軽度発達障害をもつ児童生徒への支援の在り方が早急に求められるようになった。
 次に、普通学級において、軽度発達障害をもつ児童生徒のみならず、特別な支援を要する児童生徒に担任が対応していく機会が増加することが挙げられる。現在、学校教育現場では、障害をもつ児童生徒が、学校教育施行令の改正と障害者基本法の改正により、普通学級に在籍もしくは母学級として通級することが可能になっている。これを受け、最近では重度の障害をもつ児童生徒が普通学級に在籍し、一日を他の児童生徒と同じように過ごすケースも見られるようになった。この場合、介助員や支援ボランティアなどのサポートが受けられるようになってはいるが、学級担任は、学級経営や学習指導の面でその適切な対応が求められ、その負担は大きくなってきている。こうした中、軽度発達障害をもつ児童生徒の場合は、特殊教育諸学校の就学対象ではないため、普通学級への在籍扱いとなる。該当児童生徒のその障害によると思われる言動が明らかであっても、認定就学者のような介助員などのサポートを導入できるまでには、条件が多く容易には配置されないため、ここでも学級担任にかかる負担は大きい。
 最後に、平成19年度に学校教育法の改正が予定されていることも含めて、特殊教育から特別支援教育へと大きく転換が図られていることが挙げられる。2003年に文部科学省から出された「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」において、特別支援教育という考え方が明示され、その支援体制の整備の推進と強化が求められた。これを受けて、今日の学校教育現場では、校内委員会の立ち上げや特別支援教育コーディネーターの指名などにはじまり、各学校で特別支援教育の研究と実践が行われているところである。この特別支援教育の指針として出されているものに「小・中学校におけるLD(学習障害),ADHD(注意欠陥/多動性障害),高機能自閉症の児童生徒への教育的支援体制ガイドライン(試案)」がある。このガイドラインに基づいて今後の特別支援教育を考えた場合、次の3点が課題として考えられる。

  1. 学校長のリーダーシップ
     特別支援教育のための校内体制を整備し、強化することが求められている。具体的には、校内委員会の設置や特別支援教育コーディネーターの指名などがあるが、学校長の考え方や特別支援教育への取り組みの姿勢の違いが大きく反映し、学校間格差が生じる可能性がある。また、そこには、特別支援教育に対する各市区町村レベルでの行政の取り組み方の違いも大きく影響してくる。
  2. 特別支援教育コーディネーター
     特別支援教育コーディネーターは、新たな人材を配置することではなく、既存の学校組織の中に位置付けるということであるため、コーディネーターに指名された人物は、校務分掌を兼任することになる。そのため、常時、特別支援教育に従事することは難しく、学級担任が求めるような日常的かつ継続的な支援を行うことが困難である。さらには、学校現場において人事異動は必ずあるため、コーディネーターであった人物が異動した後に、うまく機能しなくなるなどの問題が生じないように、確固たる校内支援体制づくりを目指さなければならない。
  3. 学校内外の人材の活用
     学校内の人材として、同学年の担当教員や専科担当教員、ティームティーチング加配教員、少人数指導担当教員が挙げられている。しかし、普通学級に在籍する軽度発達障害をもつ児童生徒の支援にあたるとした場合、それぞれ、担当学級や採用目的による校務があり、余剰の時間はない。またこれらの学校規模加配教員は、教職員定数の算定に基づいて配置されているため、採用数に限度がある。その不足分を補うために市区町村費負担加配教員もいるが、勤務時間に上限があり、まして採用目的が異なるため、特別支援に従事することのできる余剰の時間はない。特殊学級担当教員の場合も、自分の担当学級があり、通級指導に通ってくる児童生徒に対応しなければならないため、普通学級に赴いて日常的な支援を行うには難しいものがある。校内委員会を通して、特別支援教育の方針を話し合うことや決定していくこと、緊急事態に対する支援体制については望むことができるが、学級担任が求める日常的な支援を望むことはできないという問題がある。そこで必要なときに必要な程度に応じて支援できるといった利点で、学校外の人材を活用するということが有効になってくる。現在、学校外の人材の活用例として、学校独自に募集し確保するスクールボランティアや教育支援サポート、教育委員会委託のNPO法人などによるボランティア、学生ボランティアが実践されている。学校で確保する場合には、主に保護者や地域の人材を活用している例が挙げられているが、その実際は、行事の補助、総合的な学習の時間の活動補助にあてられているケースが多く、教育委員会を通して委託する場合には、認定就学者の支援にあてられるケースが多い。また、学校外の人材を活用する際には、守秘義務という制約もある。軽度発達障害をもつ児童生徒に対してサポートするためには、まず、該当児童生徒の保護者の理解が必要であること、そして医師や専門機関による診断を得てはじめて、教育委員会に介助員の申請をし、採択されなければならないという条件をクリアすることが求められ、現実には簡単にはいかないことが明らかである。当然のことながら、疑わしいと思われる児童生徒に対しては、保護者の理解・同意を得るまでに時間を要するうえ、医師や専門機関による診断を受けるまでには多大な時間を費やすことになる。それまでは、学級担任が日常的な学級経営、学習指導において孤軍奮闘しなければならない。
     今後、特別支援教育を実現させていくためには、学校として、校内支援体制を確立し、該当児童生徒とその担任へのサポートを充実させることが重要になってくる。そして、学級担任の立場で実践していくためには、これら現状と課題の中、軽度発達障害についての理解を深め、該当児童生徒への日常的な支援の在り方のスキルを身に付けていくことが、必要不可欠になってくる。学習指導の面では、軽度発達障害をもつ児童生徒にのみ対応した授業を実践することを目指すのではなく、学級全体の児童生徒の学習を成立させることを目指さなければならない。そこで、軽度発達障害をもつ児童生徒と、そうでない児童生徒とのどちらにも対応できる学習指導法を開発していくことが必要になると考える。この実現のために、軽度発達障害をもつ児童生徒の特性を生かしつつ、他の児童生徒の学習をも成立させることができるといった視点で、「ユニバーサルデザイン型学習プラン(単元構想、指導法、教材等)」を開発していくことが、有効になってくるものと考える。