上越教育大学 教員養成GPプロジェクト

特別支援を要する学習者への国語科学習における個別的な支援のあり方に関する研究

取組実績と課題

6.学習プランのデザイン

 学級担任は、学習指導において一人で学習内容を教え、児童の達成状況を把握し、個別指導を行うことが常に要求される。そのような中で、軽度発達障害をもつ児童に対応した学習指導を別に用意し、実践していくことには限度があり、日常的に継続して行うことは難しい。学級担任一人の力では限度があることが明らかであっても、毎時間、加配教員とのT.Tを実践できる可能性も低く、介助員の派遣も容易にされない状況にあっては、結局担任が孤軍奮闘することを余儀なくされ、教師も児童も救われない。そこで、軽度発達障害をもつ児童にも、そうでない児童にも通用する「ユニバーサルデザイン型の学習プラン」を開発し、実践していくことで、少しでもこの問題を解決する手段となるのではないかと考えた。
  今回の実践において、プロジェクト協力校の担当教員との協議の結果、国語科学習指導において、参与観察を行った学年の実態を考慮し、漢字と促音の定着を図ることを目的として、それぞれのユニバーサルデザイン型の学習プランをデザインすることにした。

1.漢字指導におけるユニバーサルデザイン型学習プラン

  • 開発の視点
     国語科学習において、漢字指導は、ほぼどの単元においても行うものである。そこで、軽度発達障害をもつ児童の特性から、視覚に訴えることで興味をもたせ、学習に集中できるようにするとともに、聴覚情報よりも視覚情報の処理能力が高い傾向にある最近の児童の実態を考慮し、視聴覚教材を活用した漢字指導のプランを作成した。
  • プランの特徴
     本プランにおいて、教材として用いる視聴覚教材は、漢字を書くときの一画一画の動きをGIFアニメーションソフトを用いて作成し、プレゼンテーションソフトを活用して順次表示されるよう作成したものである。そして、ノートパソコンの画面を、プロジェクターからホワイトボードに投影して、漢字の書き順を表示する方法をとった。児童が、画面に表示される漢字の書き順に合わせて書字運動を行うことで、視覚的に漢字の書き順について理解を深めることができるよう配慮した。
  • 学習プラン
     ・対象学年 1年生
     ・活動時間 15分
     ・ねらい  漢字の書き順を覚え、正しく書けるようにする。
  1. 活動名
    • 間違いやすい漢字の書き方を確認しよう
  2. 目標
    • 漢字の書き方を知り、必要に応じて書くことができる。<小学校国語学習指導要領(言(1)イ−イ)>
    • 点画の長短、接し方や交わり方などに注意して、筆順に 従って文字を正しく書くことができる。<小学校国語学習指導要領(言(2)ア−イ)>
  3. 準備物
    ・ノートパソコン ・プロジェクター ・スクリーン
  4. 展開
    配時 学習活動及び内容 支援(○)と留意点(●)
    15分 1漢字の書き順を確認する。

    例「右」の場合(上段左から右へと進む)

    ○取り扱う漢字
     九、上、土、右、左、女、出、年、入
    既習の漢字について、書き順を間違いやすいものについて、確認していく形式とする。
    既習漢字をスクリーンに投影し、クリックするごとに、一画一画が運筆と同じ動きでアニメーションによって表示されることで、書き順を視覚的にとらえられるようにする。
    運筆している一画を色分けして表示することで、書き順や線の接し方、交わり方がとらえられるようにする。
    書字運動を画面に合わせて行うことで、自分の書く順番が合っているかどうか確認できるようにする。
    次々に漢字を提示していくことで、児童の学習意欲を持続できるようにする。

2.促音指導におけるユニバーサルデザイン型学習プラン

  • 開発の視点
     国語科学習の導入段階である1年生の学習内容の中で、つまづきがみられがちであるものに、言語事項の促音、長音、拗音などの特殊音節がある。そこで、本プランでは促音の定着を図るとともに、軽度発達障害をもつ児童にも対応できる視覚的に訴える教材を用いて指導するプランを作成した。
  • プランの特徴
     応用行動分析学で用いられる「見本合わせ課題」に基づいて、LD児の学習指導においてすでに実践されているものを応用したもので、音韻と文字、絵と文字のそれぞれの結びつきを強めることで、音韻と文字の結びつきの強化を図ることを目的としたプランである。また、促音の学習において、濁音・半濁音を含む音や拗音が混在することは、促音の理解につまづきが見られる児童にとって混乱を招くこととなり、定着に支障をきたすおそれがあるため、濁音・半濁音や拗音を含まない語から促音について学習し、スモールステップで積み重ねていくこととした。
  • 学習プラン
     ・対象学年 1年生
     ・活動時間 15分
     ・ねらい  促音の読み、書きの定着を図る。
  1. 活動名
    • 小さな「っ」の名人になろう
  2. 目標
    • 促音のあることばを正しく発音することができるとともに、正しく書くことができる。<小学校国語学習指導要領(言(1)ウ−ア)>
  3. 準備物
    ・絵カード ・文字カード ・表記練習シート(十字罫線入り)
  4. 学習プラン構成案(4回扱い 15分×4)
    1 2 3 4
    実施日 2月20日(月) 2月21日(火) 2月23日(木) 2月24日(金)
    学習内容 促音をもつことばと絵を結びつけ、そのことばの書き表し方について考え、正しい書き表し方を身に付ける。
    取り扱うことば 3字で構成されることば
    ・まっち
    ・きって
    ・ねっこ
    (・らっこ)
    (・まっと)
    4字で構成されることば
    ・せっけん
    ・えにっき
    ・かけっこ
    (・なっとう)
    (・にっこり)
    5〜6字で構成されることば
    ・おっとせい
    ・にらめっこ
    (・らっかせい)
    ・うれしかった
    (・おいしかった)
    濁音・半濁音をもつ音のあることば
    ・かっぱ
    ・ばった
    ・がっくり
    ・すりっぱ
    (・ほっぺた)
  5. 展開(第1回)
    配時 学習活動及び内容 支援(○)と留意点(●)

    4分

     

    1.提示された絵カードから、発音されたものと合うものを選ぶ。
    「まっち」はどれでしょう。

      [1]まっちの絵
      [2]ろうそくの絵

    2.声に出して、ことばの発音を確認する。

    3.促音をもつことばの書き表し方を考える。
    「まっち」はどのように書けばいいでしょう。

      [1]まち
      [2]まつち
      [3]まっち

    提示された2枚の絵から、発音されたことばと合うものを挙手で選ぶことで、全ての児童が自分の考えを表現できるようにする。
    ここで提示する絵は、文字と絵の正しい結びつきである、正の刺激を強めるために「マッチ」と「町」の絵ではなく、別の発音をすることばの絵を用いることにする。
    何度か繰り返して発音し、音韻の強化を図るようにする。
    教師が、実際に誤った書き表し方を黒板上に表して見せることで、それをもとに正しい書き表し方を検討できるようにする。
    書き表し方を「促音の抜けているもの」「促音の表記になっていないもの」「正しいもの」の順に提示していくことで、正しい書き表し方に気付くことができるようにする。
    ことばの書き表し方を検討する際には、1字ずつ分けた「かなカード」を使用し、促音の「っ」は4分の1サイズに書き表した「かなカード」を使用する。このことにより、視覚的に文字の大小をとらえられるようにする。
    正しい書き表し方が検討できたものについては、マス目黒板に板書することで、促音の書き方について、実際に目で確認できるようにする。
    8分 4.他のことばについても同様に検討する。
    ・きって
    ・ねっこ
    ・らっこ
    ・まっと
    他のことばについても同様に、絵との対応、発音の確認、書き表し方の検討と、一連の学習の流れをつくることで、学習活動を明確なものにする。
    「らっこ」「まっと」については、児童の活動の状況を見て、余裕があれば取り扱うものとする。
    「らっこ」と「まっと」については、直接その絵を提示することとし、絵の比較は行わない。このことにより時間の短縮を図る。
    3分 5.促音をもつことばの書き表し方を練習をする。
    練習シートを配付し、練習するようにする。十字罫線の入ったマス目を用いることで、枠内にきちんと大きさを考えながら書くことができるようにする。
    シートの裏に、マス目を印刷しておくことで、早く終わった児童は、促音をもつことばを見つけて書くようにする。
  6. 展開(第2回〜第5回)
    ○展開(第1回)に準ずる。

デザイン検討会の写真デザイン検討会の写真

漢字指導の学習プランを実施するにあたって、プランを説明した後、その中で用いる視聴覚教材を提示し、協力校の先生方から教材に対する改善点など率直な意見を交換し、検討を重ねた。

模擬授業の写真模擬授業の写真

促音指導の学習プランを実施するためのプランの検討を行った後、後日、実際に模擬授業を行うことで、学習の流れや指導法について、具体的な助言や意見をもらい、生きた授業になるよう改善を図った。