上越教育大学 教員養成GPプロジェクト

特別支援を要する学習者への国語科学習における個別的な支援のあり方に関する研究

取組実績と課題

7.実施した結果

1.漢字指導におけるユニバーサルデザイン型学習プラン

 児童は、ほとんどの漢字を学習していたため、特に書き順の誤りが見られやすい漢字に絞って、おさらいとして扱うこととした。始め、画面に書き順を確認する漢字を見せ、その後一画一画をアニメーションで提示し、それに合わせて書字運動をしながら、自分の手の動きと提示される書き順とが合っているか確認していくこととした。確認をした後、もう一度、正しい書き順で書字運動を行った。
 児童の反応はたいへんよく、学習に集中して取り組む姿が見られた。ADHDの児童の場合、離席することなく、次々に示される漢字の書き順に食い入るように見ており、書字運動である「空書き」も大きく腕を動かして取り組んでいた。この学習で取り扱った漢字は、「九、女、左、右、上、土、入、出、年」の9字であったが、「上」の書き順において、一画目を縦画からでなく横画から書字運動をしてしまい、「あ、違う。」と照れ笑いを見せる一面があった。その後の確認の書字運動では、正しく手を動かす姿が見られた。アスペルガー障害の児童の場合には、興味を示して意欲的に取り組んでいたが、興奮気味になってしまい、その特性から思ったことを周囲にかまわず発話してしまう姿が見られた。担任から、「やはり学習のルールの徹底がまず大切だと、改めて思いました。」とプラン実施直後に感想をもらったが、この児童の発話の内容は、「『上』って上越の『上』だよね。『越』は出ないの。」というものであった。全く学習内容と違う自由な発話ではなく、「上」という漢字が身の回りで使われていることの気付きであったため、漢字学習においては価値のある発話であったと思う。新出漢字の学習の場であるならば、きっと「よく知ってるね。そうです。この漢字は『上越』の『上』ですね。」とその発話を拾い上げて、紹介するところのものである。この反応からも、この児童が漢字の学習に集中して取り組むことができていたのではないかと考える。また、後日「また、テレビを使ってやらないの。」と反応を返してきており、印象深い学習であったことがうかがえる。このプランの実施に要した時間は、10分弱であったため、普段の学習指導において、単元の学習を妨げることなく、十分に実践可能なプランであると考える。
 実践後の協力校の先生方との拡大カンファレンスにおいて、以下のような意見が出された。

  • 分かりやすく、たいへんよかった。小学校で取り扱う1006字分を作成してほしい。
  • 視覚に訴える点が効果的である。
  • 特別支援教室に通級指導に来ている児童にも、自主学習において活用できる教材である。
  • 今後の特別支援教室の指導においても、有益である。

2.促音指導におけるユニバーサルデザイン型学習プラン

 児童の様子は、たいへん意欲的であり、全員参加型の学習になったように思う。課題が容易であったことと、自由に発言できる場を設けたことが大きく影響しているものと思われる。ことばと提示された絵を結びつける活動において、回を重ねるに連れて、正答と逆のものを選択する児童が数名現れるようになったが、全員の意見を集約確認の場では、訂正する姿が見られたことから、遊び感覚の色が濃くなっていってしまったものと考えられる。絵と文字を結びつける活動においては、促音を「つ」を用いた誤表記を提示することで訂正していく形としたが、児童の方からことばの表記を作り上げていく段階で、すぐに促音を使用する指摘が出るようになったことを受けて、音韻の数が増える2回目からは、促音の位置の誤表記の検討に切り替え、さらに活動を重ねるごとに、児童の発言によって文字を並び替えてことばを形成する形式、たくさん提示された文字から選択してことばを形成する形式、代表児童による文字の選択とことばの形成の形式へと発展させて取り扱うように切り替えた。学習の内容は同じだが、一部を少しずつ変化させていくことで、児童にとってのマンネリ化を防ぐ効果があったように思う。ADHDの児童は3回目の学習において、離席が見られたが、他の回の学習においては、他の児童と同じように着席した状態で音韻と絵を対応させたり、誤表記を指摘したりする姿が見られた。表記の練習の活動においては、その進度に個人差が見られたが、早く終わった児童は、学習シートの裏面に設けた「促音を用いることば探し」に取り組む姿が見られたことから、個人差にも対応できたのではないかと考える。アスペルガー障害をもつ児童は、3回目の活動において、シートに描かれた絵を彩色することにこだわりが見られたが、4回目の活動においては、彩色した後で「ことば探し」に取り組んでいた。この児童の影響で、その近辺に座る児童は、4回目の活動で彩色に夢中になってしまい、「ことば探し」にまでは至らなかった面が見られた。彩色についての個別の指示が必要であったと考える。
 本プランを実践するにあたって、その成果の診断材料として、促音について聞き取りによる表記のプレテストとポストテストを実施した。プレテストの結果、ほぼ全員(27人中22人)が、聞き取った促音を正しく表記することができていた。ADHDの児童は、10問中1問に誤表記が見られ、アスペルガー障害の児童はすべて正しく表記することができていた。また、10問中2問において誤表記が見られる児童がおり、国語や日常で書く文章の中にも誤表記がよく見受けられる。この児童は、場面観察に入って間もない頃には、自分の書いた文章において促音が正しく書けているか不安で確認を求めてきていた。たとえば「サッカー」ということばを「サカー」と表記してしまい、注意を促すと促音が抜けていることに気付き「サカッー」と表記し直す。そこで、自分で書いたことばを読み上げて確認するよう注意を促すと、訂正できずに固まってしまう姿が見られた。特に日常に書く文章の中では「〜かった」のような過去形の文体の表記につまづきがよく見られた。このことを考慮してプレテストには過去形のことばを入れ、学習活動でも過去形のことばを扱うこととした。この児童は学習活動中、誤表記の指摘もでき、指名すると正しい表記の仕方を答えることができていた。しかし、ポストテストの結果を見ると、定着が図られなかったことが分かる。そこで、表記の練習後に書いた「ことば探し」の表記を辿ってみると、ゲームキャラクターの名前の表記が目立つ中で、2回目の表記に「エンタッマゴち」、3回目の表記に「ごちっだいまう」が見られる。これはそれぞれ「エンタマゴっち」「ごっちだいまおう」と表記したかったことが判別できる。ところが、4回目の表記を見ると「エンタマゴっち」「ごっちだいまおう」とあり、促音の位置が正しく表記できるようになっていることが分かる。また、4回目の他のことばの記述を見ると、すべて正しく表記することができており、ゲームキャラクターの名前に限っては、正しく表記する力を身に付けたものと考える。これらのことから、過去形の表記につまづきが見られるこの児童にとって、本プランは有効であったとは言えず、実態に適した他の学習プランを開発する必要があることが分かる。音韻のとらえはできているため、音を正確に文字に表記する力を身に付けるための学習プランが必要であると考える。
 総体的にみて、プレテストで誤表記の見られた5人の中でADHDの児童を含めた3人は、ポストテストで正しく表記することができているので、本プランの効果があったのではないかと考える。しかし、プレテストで正しく表記できていた2人の児童が、同じ「にっこり」のことばをポストテストで誤表記した結果もあるため、まだ確実に定着していないこともうかがえる。国語科学習指導は、スパイラルな構造の上の積み重ねであるため、本プランを実践していくにあたっては、単発や集中型ではなく、継続して積み重ねていくことで、その定着をねらっていく必要があると考える。
 実践後の協力校の先生方との拡大カンファレンスでは、以下のような意見が出された。

  • ADHDの児童は、放課後に特別支援教室に通級しており、その中で先取り学習や補充学習を実施している。そのことが自信につながっており、学習に意欲的に参加することができるようになったという変容も見られるのではないだろうか。
  • アスペルガー障害の児童は、今回のプランの結果では、促音が定着しているように見えるが、通級指導の中では「うれしかた」のような表記が見られる。この児童は「っ」の学習と分かれば、賢いので促音を使うことができる。学習と切り離して、日常の中でも促音が使えるように指導していかなければならない。
  • ADHDの児童は、促音は定着しているが、拗音が難しい状況にある。
  • 促音のある単語のみを扱うのではなく、促音を含む文の指導が必要になってくるのではないか。
  • グループ活動として、促音のある言葉を使って短文を作る学習もおそらく意欲的に取り組めるのではないか。そうすることで、話し合いのスキルも育てることができるのではないだろうか。
  • ADHDの子は担任の目から見ても、意欲的に取り組んでいた。
  • プラン実践の中で単語における促音の位置についてどのように指導していったのか。もし、促音の位置が自分の考えた位置と違っていても、周囲の反応に流されてしまった児童がいるのではないか
  • 特別支援教育や軽度発達障害の立場から見て、今回の実践は、スモールステップとは、また別の視点で考えなければならないのではないか。国語の学習におけるスモールステップが特別支援の視点から、どのように効果があるのかについて明らかにすべきだろう。
  • スモールステップは、やはり大切である。易から難へという、そして同じような学習パターンの繰り返しのリズムにのせていくことで、児童は学習の内容を理解し、定着させていくことができる。
  • ユニバーサルデザインで考えた場合、その学習は「単純、明快」でなければならないだろう。個にのみ対応するのではなく、全体の教育力を生かして、指導すべきだろう。
  • 単純明快であることを目標とした場合、例えば、その学習シートの作成(絵、マス目罫線)にいたるまで、配慮しなければならない。単純明快にするために、余計なものはいらない。
  • 単純明快なものを作ろうとすればするほど、作成する側にとって、緊張感を伴い、その難しさも増すだろう。
  • 促音について、3文字から4文字と文字数を増やしてスモールステップとしているが、文字数の多少が難易度とは限らないのではないか。日常生活の中で、使われていることばなのか、児童にとって親しみのないことばなのかで難易度を設定するべきだろう。
  • このプランは、集中して実践するのではなく、例えば学期にわたってなどの長いスパンで継続的に実践していき、その成果をみるべきであろう。