上越教育大学 教員養成GPプロジェクト

子どもの学びの深化を促すカリキュラム構成と支援のあり方−河川をテーマとした総合的学習のアクションリサーチを通して−

取組実績と課題

3.児童の学びの実際

附属小学校の児童のポートフォリオより一部を紹介
(大手町小学校の児童のポートフォリオは、メンバーの一人成田が現在分析中)

釣り体験後の振り返りシートより

H男:今日は保倉川に行きました。ついたら達人がいて釣り方を教えてもらい、さっそく釣りを始めました。僕は釣りの場所をきめ、さおを出してほったらかし作戦に出ました。そうしたら、1分もしないうちに、さおの先がピクピクと動いてマハゼが釣れました。魚を釣ったのは今回が初めてだったので、本当にうれしかったです。次々と釣れて3匹になりました。ともだちのようすを見に行くと、大物が釣れて達人をよんでいるところでした。土手に上がってバケツの中をみると、たくさんの魚がはいっていました。イシダイ、ウグイ、フナ、スズキ、マハゼなど大量です。びっくりぎょうてんしました。向こう岸でも大物をあげていました。しかし、ふしぎなこと!!なんで海のイシダイの子が釣れたのかだ。海が近いから入ってくるのかと思います。本当に楽しい一日でした。

  • 釣りは児童の大半が初体験であった。その思いが伝わってくる。魚の名前がきちんと調べられ、なぜ、海水魚も釣れるのかという疑問がだされている。

昔の人々の生活体験での発表会後の振り返りシートより

A子:私たちは野菜洗いや風呂の水くみ、洗濯の発表をしました。昔は井戸水もあったが洗濯や風呂に使うと水がかれるからだとばあちゃんが教えてくれました。だから近所でもらい湯もしたそうです。昔はこんなにも人々と川のかかわりがあったんだと知っておどろきました。風呂の水くみも大変だったと思います。今はピッとボタンを押せばわかすこともできます。かまにたき物を入れて、竹の筒でふいて火をたいたそうです。洗濯も大変だったと思います。私はしゃがんでハンカチを洗うだけでこしや手がいたくなったのに、毎日、洗い場でしゃがんで洗い、米のとぎ汁や灰などもせっけんの代わりに使ったと聞いておどろきました。昔の人々にとって川は大切なものだったことがわかります。しかし、今の時代、どうして川とかかわらなくなったのか気になります。そのことについて調べてみたいと思います。

  • 体験したことと、名人や家庭の祖母から聞き取ったこと等が統合され、自分なりに脈絡のある文として表現されている。また、現代、河川と人々とがなぜ疎遠になったのか疑問として投げかけている。

S男:昔は野菜は食べ物としてとっても大事だったようだ。冬は野菜が取れないので、ダイコンをたくわんにしたり、ジャガイモ、ハクサイ、キャベツなどは雪の中にいれて保存して食べていた。冷蔵庫なんかなかったからだ。今は昔に比べたらずいぶんゆうふくなんだと思った。水道のない昔は風呂も毎日は入れず、たいへんだったんだ。名人がナマズの話しをしてくれたが、今はどこにもいない。生活が豊かになってどんどん家を建て、ごみやはい水を流し、人々は川をよごしてきたからだと思う。川もコンクリートなどできれいになったが、魚の住み家もなくなったんだと思う。昔はけっして生活は楽ではなかったと思うが、人々はせいいっぱい生きてきたんだと思う。川は生活に欠かせないものだったんだ。

  • 体験を通して、現代と昔の生活を対峙して、自分なりに思いを膨らませている。

Y男:川は人々の遊び場ではなく、ゴミ箱になっています。これからぼくらは明るい未来をつくっていかねばならないのです。昔のことばかり振り返っても意味がないと思うでしょうが、昔のことを体験したり、振り返ったりすることで、未来をつくることができるんだと思います。昔の人は知恵をしぼり、自然といっしょに生活してきたんです。今となっては川はとりかえしのつかないところまできているのです。未来を変えなければならないのです。気持だけではダメ。実行しなければならないのです。協力してとりくめば、川とふれあえる日がくるはずです。

  • Y男は昔の生活体験を通しながら、現代、川が私たちから遠い存在になったことを憂う児童である。体験が感動的であっただけに、関川が汚れているため、サケが遡上しても捕って食べる人はいないことにショックを受けた児童でもある。河川環境の改善への取組の必要性を彼なりに主張しているのである。

学習の最後としてのディベート後の振り返りシートより

Y男:私たちは川が大好きになりました。だから、ずっと「川をきれいにすればいい」とばかり思ってきましたが、それはそう簡単でないことが分かってきました。サケのち魚を川に返す時に「どの川に返すの?」と言われ、みんな真剣に何回も話し合いました。「4年後に放流したサケが大人になってもどってくる。その時、関川はどのようになっているのだろう」という意見が出された時、みんな何も言えなくなってしまいました。誰がどうすれば川はきれいになるのか。サケの幸せを考えれば考えるほど悩みは大きくなっていきました。皆さんに聞きます。「本当に川はきれいになるのですか?」

  • 前述していたY男は、協力すれば川はきれいになると主張してきた。しかし、サケの放流に当たってもそのように主張したが、市民みんなの協力がなければ川は生まれ変われない、取水堰がサケが遡るのを阻止しているなどの意見によって、自問しつつ、そう簡単でないことの実感を持ち始めたのである。

ここに掲載した附属小学校の児童の振り返りシートは、ほとんどこのような文章で綴られ、決して特別のシートを掲載してはいない。これらの記述を見ていて、次のような点が指摘できる。

  • 直接河川とかかわった体験が、児童の感動や思いを膨らませていること。
  • 昔の人々と河川のかかわりと、現代の疎遠な関係とを対峙して考え始めている。
  • 体験したことと、支援者や祖母の話しなどが結びつけられて、自分なりの考えや思いが構築されてきている。
  • サケを通して価値葛藤が生まれ、それが表記に表れてきている。