上越教育大学 教員養成GPプロジェクト

子どもの学びの深化を促すカリキュラム構成と支援のあり方−河川をテーマとした総合的学習のアクションリサーチを通して−

取組実績と課題

7.アクションリサーチと院生教育

 プロジェクトメンバーの一人である水澤は現職教員の院生であり、成田はストレートの院生である。大学教員と共に協力校に入り込み、各校の総合的学習の観察記録を基にリフレクションを深め、具体的な今後の提言を持って担任と協議を重ねてきた。その過程では、院生たちは、「どのような」ひと、こと、ものと、「どうかかわらせ」て問題意識を醸成し、児童なりの思いや考えを深化させるかという視点から、総合的学習の単元構想や展開の在り方を思考し、工夫を続けてきた。そして、その変容を児童等の発話や記述内容からみとり、児童の変容に確かな手応えを感じ取ってきた。それだけでも、大学院の講義では得られない実践的な力量形成に繋がっていると自負している。
 担任と今後の展開構想に合意が得られても、担任は多忙で容易には動けないという実態があった。それを可能にしたのが正に院生たちの支援であった。例えば、釣り一つ取っても、場所を特定する現地調査が必要であり、安全性のチェックも必要である。更には、釣竿の調達やえさ、バケツ、エア−ポンプ等の準備も必要になる。まして、釣り経験のない児童には、仕掛の作り方や釣り方の指導、仕掛のトラブルへの支援も不可欠である。昔の人々の生活と河川とのかかわりでは、郷土の写真集から学習資料を抽出して資料提供したり、雑魚捕り後に魚の飼育を行うとしても、事前に水槽を準備し石や泥を入れて水を安定させておかねばならない。このアクションリサーチでは、常にこれらの準備や下調べ、現地指導は、現職院生がストレート院生を導きながら全てを行ってきた。しかし、これとて院生には初体験のことであり、一つの体験活動を成功させるためにも、どれだけの学習と下準備が必要であるかを、体を通して学んでくれたものと確信している。
 現地での支援では、「児童の質問に応えても、一方的に教えてはならない。」と共通理解し合って実践してきた。その時点で、もはや院生は第三者的存在ではなく、担任と共に総合的学習を展開していく主体者としての存在であった。振り返りシートに、児童の学びに関する記述や感動への思いが綴られていると、自分事のように喜ぶ院生がそこにいた。児童との人間的な関係もできあがり、担任も児童も、いつ訪問しても笑顔で迎えてくれるようになった。2年目を迎えた現在、院生たちは、単独でも協力校の支援に入り、ゲストティーチャーとして講話ができるまでになった。「教員養成GPの関係でこんな貴重な経験と学習の機会が得られたことが、何よりも喜びです。」と語っている。
 しかし、大学教員とその院生とが教育現場に入ってアクションリサーチを行うということはそう容易なことではない。多忙な教育現場にとっては、まず警戒の念を抱く。それを払拭し協働体制を確立するには、とことん担任といっしょになって総合的学習の充実を図っていこうとする熱意と、実践場面での支援の姿勢が見えなければ受け入れられるものではない。理屈が先行し、第三者的な立場で研究対象としてかかわろうとする姿が見える限り、教育現場にとっては害があって益がないものと映るであろう。