伊達文治 のホームページ(数学教育学)
last updated: 2012.5.8
連絡先: 943-8512 上越市山屋敷町1 上越教育大学大学院 自然系コース(数学)
E-mail: fumiharu@juen.ac.jp
研究領域: 数学教育学(現在の主たる研究分野は,数学教育の歴史的基盤に関わる研究と言えます。研究題目を「数学教育における文化的価値に関する研究」とし,様々な角度から「日本の数学教育の原点」に遡及し,数学教育が形をなす時代を文化史的な視座から考察しています。わが国現在の数学教育における課題を的確に捉え,学校数学の基盤を明確にすることを目指し取り組んでいます。この研究の2013年までの成果は,「日本数学教育の形成」[2013,溪水社,全257頁]にまとめています。以前の研究,1993年以前の主たる研究については,「アルキメデスの数学−静力学的な考え方による求積法−」[1993,森北出版,全177頁]にまとめています。)
所属学会: 日本数学教育学会・全国数学教育学会・日本科学教育学会・日本教科教育学会・日本教育心理学会・日本数学教育史学会・東北数学教育学会
自己紹介
2008年9月,約30年間の広島県立高等学校での教職を終え,上越教育大学に赴任しました。上越教育大学は,新構想の大学院大学として創設されて以来,約30年に亘り教員の養成と現職教員の研鑽を支援する大学院大学として着実に歩み,現在も「教師教育」の新たな人材開発などの改革を積極的に推進しています。この教育・取り組みに参画していきたいという赴任当時の思いを今も持ち続けています。これからも,今日的な教育課題に対応できる「望ましい学校数学教育のあり方」について学生・院生とともに研究し,これからの教育界をリードする創造的な人材育成・教育に邁進していきたいと考えています。今後の研究計画および教育に対する抱負について,次に述べます。
高等学校での教職経験は約30年に亘りました。その間,日々の教育実践と共に生徒の意欲的な活動を育成するための生徒指導や教科(数学)教育の研究を続けてきました。その中で次のような課題意識の下,鋭意研究に精励してきました。わが国では,「学力低下」・「理数離れ」・「数学教育の危機」などが社会問題となって久しくなりますが,その実態は,認知的学力低下にあるのではなく,むしろ情意的学力低下にあり,したがって,情意的学力低下の背景基盤の究明こそ,認知的学力低下の臨床的対応にもまして,重要であると考えてきました。2006年4月から2008年9月まで広島大学大学院教育研究科(博士課程後期)において,「数学教育における文化的価値に関する研究」を続けてきました。本研究において,教育基盤の見直しにとって不可欠な「数学教育における文化的価値」を考究し,文化的価値に根ざす教育実践を企画・評価する枠組みを開発して,学校数学の基盤を明確にしたいと考えてきました。 今後もこの研究をさらに進めていき,その成果を学校教育にはもちろんですが,大学教育・大学院教育にも反映させていきたいと考えています。
今日の教育現場には,業務の増加や煩雑化などから目先の成果にだけとらわれ,数学教育の本来の目的や意義を見失う傾向があることは否めません。特に高校数学の授業は,知識・技能の習得の場とだけに捉えられ,勢い,概念の指導と演習の解説に終始し,何を学習するのかという内容と,どのように扱うべきかという方法だけに気が配られ,教材の価値とか本質に触れられることが殆ど無いものになってはいないかとも懸念されます。このことは,私自身の反省でもあります。ところが,数学は,世界という空間の中,そして時代という時間の中で,時には広域の広がりを示し,時には小さな流れとなり,それらが絡み合ううねりとなりながら,展開してきたのです。
学生・院生の皆さんには,まずもってこのような数学の歴史的展開におけるダイナミズムを捉えていただきたい。そして,皆さんの中に是非とも「文化的数学観」「文化的数学指導観」を培っていただきたい。このことは,皆さんが将来,教育実習や学校現場において,自ら数学教育の目的や意義を追求しながら教育を推進していくことができる「教師としての資質」にもつながるものと確信しています。
現職教師の院生の皆さんにも,是非このような姿勢で教育・研究に取り組まれることを期待したいと思います。先に述べたわが国の数学教育の現状が,数学は既に出来上がった不変不動のものであり,それを習得するのが数学の学習であるという,教師あるいは生徒の「固定的数学指導観」「固定的数学学習観」を生んでいます。そして,先に述べた情意的学力低下等の問題にもつながっていく,という悪循環が,わが国の数学教育において生じているのではないでしょうか。数学は,先人達が自分の文化の中で,問題を自分の問題として捉え,試行錯誤を繰り返しつくり上げ,今も,世界各地,社会の中,教室の中,各個人の中で,そして,各文化の中で,つくられ発展しているものである,という「文化的数学観」「文化的数学指導観」への意識変容が図られなければなりません。現職教師の院生の皆さんには,学校現場での実践を振り返りながら,これまでの自分の「数学観」「数学指導観」の見直しを図っていってもらいたいと思います。そのことに対する手厚い援助を行っていきたいと考えています。
今,教師に求められているものは,教育の目的や意義を追求し続ける「教材研究力」と生徒の心理のひだにも光を当て教育的価値の実現を援助できる「教育実践力」であると考えます。これから,この二つの力を養成していく「教師教育」に取り組んでいきたいと思います。そして,約30年になる現職教員としての経験を生かし,単に教え方がうまいというだけではなく,生徒の学習意欲に関わる数学教育の根本的な意義を考え実践できる教員を養成していきたいと考えています。
生涯学習社会における「学び続ける力」の育成を目指した小・中・高・大における学校教育のあり方についてその目標と教育内容・教育方法を中心とした考察を更に深めていき,これからのカリキュラム開発について,皆さんとともに考えていきたいと願っているところです。
志ある皆さんとの出会いを楽しみにしています。