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数学教育学の博士論文指導のご案内


大学院の概要

兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科博士課程の担当をしています.この研究科は,兵庫教育大学,鳴門教育大学,上越教育大学,岡山大学の4大学が構成している博士後期課程です.修士課程で物足りなく数学教育学の研究をもっと極めたい方,将来も数学教育学の研究を続けていこうとお考えの方,研究者志望の方,教員養成系大学の大学教員志望の方などなど,数学教育学で博士号取得に関心のある方はご連絡ください.

どんな研究をするのか

本大学院では,「教育実践学」などという言葉が用いられ,この研究を進めることが想定されています.数学教育学の場合に,私はこの言葉を次のように解釈しています(もしかすると大学院が想定するものと異なるかもしれません・・・).

教育実践学とは,授業や教材,カリキュラムなど,学校現場で直接的に観察されうる算数・数学の指導や学習を研究対象とし,それらを理解することを通して,算数・数学の指導や学習の改善に寄与しようとする学問.

教育学というと,教育思想や教育史など,必ずしも直接的に実践に結びつかないような研究もあります(言い過ぎ?).そうした研究はここでは想定していません.ただ,このことは,数学教育の歴史や思想を排除することを意味するわけではありません.今日の算数・数学の指導や学習を理解するためには,そうしたものを検討することも必要です.ここではあくまでも思想や歴史自体を目標とした研究を想定していないという意味です.

また,上の説明で大事なのは,「理解する」というところです.一般に,自然科学にしろ社会科学にしろ,どんな科学・学問も理解することを第一の目的とします.数学の指導や学習についても同様です.目に見えるからといって理解したとは言えないのです(「科学としての数学教育学」を参照).大学院博士課程ではこうしたスタンスで研究を進めます.

どんな知識・技能を身につけるのか

数学教育学の研究は国際的に非常に多く進められており日進月歩です.そうした中で,研究者には数学教育学における新たな知の構築への貢献が求められます(言うは易し行うは難しですが・・・).そのために必要な基本的な知識・技能を獲得してもらいます.それはおおよそ以下のものです.

  1. 国際的な研究動向を把握し,英語の研究論文をある程度理解できる.
  2. ある程度自ら研究課題を見つけ,自ら取り組める.
  3. 日本語の研究論文をある程度一人で書ける.
  4. 英語で論文をある程度書ける.

自ら研究課題を見つけるということは,単に自らの実践を振り返り,実践的な課題を見つけることではありません.国際的な研究動向などから,何が研究になるか,何が研究者コミュニティにおける研究の関心となっているのかを把握し,研究者コミュニティに貢献できる研究課題を見つけることです.これが研究者になる上でもっとも大事なことで,これができれば一人前の研究者でしょう.さらに,研究者の中心的な仕事は,他者の論文を読むことと(査読等も含め),自らの論文を書くことです.これらができるようになることが当面の目標です.

ただ,上では「ある程度」という表現がしばしば使われています.これは,博士号を取得しても第一線の研究者になるには時間がかかることを意味しています.時間のスケールは違いますが,自動車の運転免許と似たところがあります(修士号が仮免,博士号が免許?).最初は心もとない中で一人で運転を始め,そのうち不安なく運転できるという感じでしょうか.

ちなみに,博士号のレベルの目安としては,日本語で学会誌論文,英語でPME論文 (RR) が書け,博士論文の成果がメジャーな国際学術ジャーナル[注1]に掲載できる程度が期待されます(これが国際標準の博士号のレベルだと思います[注2]).そんなことが可能なのか,と思う方もいらっしゃるかもしれません.頑張るのです!やるのです!やればなんとでもなります(もちろんやり方も大事.それは下を参照).

どんな知識・技能をもっている必要があるのか

本大学院博士課程に入学するためには,どんな知識・技能が必要なのでしょうか.これも説明が難しいのですが,以下に,簡単にアドミッションポリシーのようなものを書いておきます.

まず求められることは,研究を第一に考え,研究を進めるために必要なものを必要に応じて学ぶという態度です.研究に英語が必要であれば英語を学び,数学が必要であれば数学を学び,コミュニケーション能力が必要であればそれを学ぶ,といったようにです.できないと思わない.そう思ったらもうそれ以上の進歩はありません.楽天的であると良いです.この態度をもつことはそう簡単なことではないかもしれません.

そして,研究を進めるために,色々な人と協力できることがが大事です.研究は競争ではありません.他の人に負けないなどとライバル意識をもって一人で研究するのではなく,色々な人との協働により研究を進めることが大事になります.人から色々教えてもらうとともに,知っていることはいくらでも教えてあげましょう.ケチなことは考えない.

これらは,研究や勉強に対してもっているべき気質・スタンスです.一方,実際の知識・技能については,数学教育学の修士論文を執筆するために必要だった(習得した)ものを前提とします.すなわち,数学教育の現状(国際的もしくは国内的)をある程度知っていること,関心のある研究領域において先行研究をある程度知っていること,数学教育学の何かしらの理論をある程度きちんと理解していること,研究発表がある程度できること,などが必要になります.理論に関しては,国際的に数学教育の研究を見ると,理論的な枠組みを前提としない研究もあります.しかし私の研究は,ヨーロッパの数学教育学研究のように理論を重視するためこの点は必須です.理解しておくべき理論は,TDS, ATD などフランス関係のものだと嬉しいですが,そうでなくとも構いません.理論をきちんと学ぶ(学べる),その価値を理解している,ということが重要です.ちなみに,ここでの「理論」は数学教育の営みを理解するための理論を意味します.何をどう教えるべきという主義・主張からなるいわゆる教育理論ではありません.

とまあ,色々書きましたが,博士課程をお考えの方はとりあえずご連絡ください.

注1:何が「メジャー」かというのは難しいところです.少し前にヨーロッパ数学会が実施した数学教育学分野の国際学術誌についての調査があります (Toerner & Arzarello, 2012).その結果はこちら.この結果が私の感覚と結構一致しており,それなりに妥当ではないかと思っています.この結果のA*とAあたりが「メジャー」もしくはトップジャーナルかな.Bでも相当?

注2:もしかすると国際標準の少し上くらいかもしれません.記憶が定かではありませんが,近隣の国の某有名大学では,PME論文 (RR) が通れば修士号が得られ,トップジャーナルで博士号なんてことを聞いたことがあります.

参考文献


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Created: 2017/11/14
Last update: 2018/05/13