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フランスでの在外研究 (2017-2018) の記録


2017年8月から2018年7月まで,日本学術振興会科学研究費補助金の国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)の援助を受け,フランス・リヨン高等師範学校 (ENS de Lyon)フランス教育研究所 (IFE) ,その中の EducTice チームで在外研究を実施しました.研究テーマは,算数・数学教師の職能開発に関するものです.研究の概要は科研費のデータベースをご覧ください.税金を多く使って研究をさせていただきましたので,説明責任及びvisibilityということで,ここにその成果をまとめておきたいと思います(やや雑なところもあります.少しずつ更新します).

活動内容

全体的には,今回の在外研究は幸運に恵まれ,期待以上の成果が上がりました.とりわけ,私の滞在期間に例年よりも多くの海外の研究者が私同様に短期・長期でIFEに滞在していたことや,イベントが多かったこと,IFEが予想していたよりも学校現場とのつながりが強かったことなど,うれしい想定外があり,非常に充実した一年間を過ごすことができました.当初はその一年前に在外研究を実施予定だったのですが,諸事情により一年あとにずれました.これが大正解でした.EducTiceチームのメンバーと一緒に仕事をする機会が多く,リヨンとの国際共同研究を飛躍的に発展させるとともに,今後の国際共同研究のためのネットワークづくりができたと思っています.以下に,主な活動内容をあげます.

  1. 国際会議やセミナーでの講演
    滞在中に偶然にも複数の国際会議やセミナーが開催され多くの講演ができました.講演の内容は,会議やセミナーのテーマに応じて異なったものになっておりますが(下を参照),多くが日本の教師の協働や教員研修,教師の仕事,算数・数学の授業に関してのものです.講演の準備を通して多くのアイデアや知見が得られました.

  2. Res(s)ources 2018 の運営
    教師のリソースに関する国際会議が2018年5月にIFEで開催され,その運営に携わりました.参加者が120人程度の小さめの国際会議でしたが,多くの国から参加があり,中身も非常に濃かったです.大成功でした.特に,テーマが明確に焦点化され参加者数が多すぎないためか,参加者間のコミュニケーションが取りやすく,会議を契機に研究を実際に発展させることができるような場となりました.成果は,オンラインのプロシーディングと,今後 Springer から発行予定の書籍です.

  3. Séminaire Ressources 2017-2018 の運営
    EducTice チームのリソースに関する研究の月例セミナーを開催しました.大変国際的なセミナーで,リソースに関する様々な研究テーマ,アプローチなどを勉強する機会になりました.現在,オンライン会議録を作成中です.

  4. EducTiceチームの研究プロジェクトへの参加
    EducTiceチームではいろいろな研究プロジェクトが動いているのですが,その中で PREMaTTという現場の数学教師と研究者の共同研究プロジェクトに参加しました.これは,代数的思考とアルゴリズム的思考に関して小学校から中学校への連続性を考慮に入れた教材やリソースの開発,現場の教師と研究者との協働の場の構築などをテーマとしたプロジェクトです.教師の協働,算数・数学の授業に関して多くのデータを収集しました.滞在中にプロジェクトのメンバーとデータの分析を共同で少し始めましたが,今後,さらに推進する予定です.

  5. 博士課程院生の研究指導
    私の受け入れ研究者であるLuc Trouche 先生のところの2名の博士課程院生の研究指導を,Luc先生と共同でしました.中国の華東師範大学から来ている院生で,中国の算数・数学教育事情,教師の活動を知るとともに,リソースや教師の協働に関する研究について深める機会となりました.

  6. 教員研修への参加
    フランスの小学校教員の公式の研修に参加しました.リヨン8区にある Ecole Louis Pergaud という小学校で算数で Lesson Study を研修に採用していました.フランスの小学校の算数授業における教師の役割や背景にある考え方などを理解する機会となりました.また,IFEのグループが企画している教員研修担当者向けの研修に参加し,講演をさせてもらいました.

  7. ENS de Lyon での大学院の講義
    Luc Trouche先生が担当している大学院の授業を3時間ほど担当しました(非公式です).教師の活動,リソースに関するものです.

  8. スイス・ローザンヌとの連携・共同研究
    ローザンヌにあるヴォー州教育大学とは,PEERS というプロジェクト型の学生と教員の国際交流プログラムを進めています.今回の滞在中はこのPEERSを推進するとともに,そこで得られたデータの分析を共同研究者の S. Clivaz 氏と進め,その成果をLesson Studyの国際会議で発表しました.
    また,スイス関連では,ヴォー州教育大学助手の V. Batteau さんのジュネーブ大学の博士号審査の審査委員を務めました.テーマは授業研究における教師の実践の変化でした.

  9. その他の共同研究の推進
    上にあげた活動の中で様々な共同研究がなされているのですが,そこに収まるもの収まらないものなど様々ありました.そこで,代表的なものを以下に列挙します.

    • フランスの中学校教師の協働の分析:異なった理論的な枠組みから
      L. Trouche, V. Gitirana, B. Pepin, C. Wang との共同研究で,中学校数学における新たな指導内容であるプログラミングに関する教材開発過程の教師の協働について一つのデータを Documentation approach, ATD, Activity theory の三つの理論を用いてそれぞれ分析しました.私はATD担当.

    • 日本と中国における学校内外の教師の協働
      Res(s)ources Conference の基調講演のため,B. Xu 先生と仕事をしました.現在,Springerの書籍のため,共同で一つの章を執筆中です.

    • 日本の証明の変遷についての共同研究
      これは,本科研の趣旨とは一致せず,以前,上越教育大学にポスドクで数ヶ月滞在した Marion Cousin さんとの共同研究のテーマです.Marionさんがリヨン在住のため,この共同研究も少しだけ進めました.

こんな感じでしょうか.なお,これらの多くは完結したものというよりは宿題が多く残っています.今後もひきつづき頑張っていきたいと思います.また,今回の活動の多くは,私を受け入れてくれた Luc Trouche 先生のおかげです(手に負えないぐらい多くの仕事をくれました).非常に充実した在外研究を実施することができました(倒れそうなほど忙しい時期もたくさんありましたが・・・).心より感謝しております.ありがとうございました.

講演・セミナー等

大変多くの講演やセミナーをさせていただきました.講演の準備とそのあとの参加者との議論により非常に多くのアイデアを得ることができました.ありがとうございました.今後,こんなにたくさんの講演を海外で一年間にすることはないかもしれません.関連資料としてビデオやスライド,リンクなどネット上にあるものを随時追加していきたいと思います(講演がもう少しうまければ・・・).

  • Binyan Xu (ECNU, Shanghai), Takeshi Miyakawa (Joetsu University of Education, Japan) & Luc Trouche (ENS de Lyon) : "De Lyon (1969) à Shanghai (2020), les congrès ICME pour croiser les expériences d’enseignement et d’apprentissage des mathématiques dans le monde". Séminaire Ressources 2017-2018, 20 June 2018, Lyon, France. (Slides) (Video)

  • Takeshi Miyakawa : "L’établissement formateur et l’association formateur". Séminaire APMEP, 9-10 June 2018, Paris, France. (招待講演)

  • Takeshi Miyakawa & Stéphane Clivaz (HEP Vaud, Suisse) : "Le partage du carré : deux « mêmes » leçons en Suisse et au Japon" (Plenary lecture). Congrès international Lesson Study, 6-7 June 2018, HEP Vaud, Lausanne, Switzerland. (Video)(招待講演)

  • Takeshi Miyakawa & Binyan Xu (East China Normal University, Shanghai): "Teachers collective work inside and outside school as an essential spring of mathematics teachers' documentation: Japanese and Chinese experiences" (Plenary lecture). Re(s)sources 2018 International Conference, 28-30 May 2018, ENS de Lyon, France. (Video) (Slides)(招待講演)

  • Birgit Pepin (chair), Michele Artigue (France); Veronica Gitirana (Brazil); Takeshi Miyakawa (Japan); Kenneth Ruthven (UK), & Binyan Xu (China): "Panel Discussion: Mathematics Teachers as Designers" (Plenary panel). Re(s)sources 2018 International Conference, 28-30 May 2018, ENS de Lyon, France. (Video) (Slides)(パネリスト)

  • Takeshi Miyakawa : "Le travail collectif au Japon : le rapport entre chercheurs et acteurs du terrain". Rencontre internationale des LéA - 2018, 22-23 May 2018, ENS de Lyon, France. (招待講演)

  • Takeshi Miyakawa: "Le travail des enseignants avec les ressources : l’expérience des Lesson Studies". ReVEA séminaire final du projet, 13-14 March 2018, ENS de Lyon, France. (Slides)(招待講演)

  • Takeshi Miyakawa: "L’établissement formateur à l’international : Les lesson studies au Japon". Etablissement formateur : collectifs d’acteurs et développement professionnel, 3 March 2018, ENS de Lyon, France. (教員研修担当者研修講義)

  • Takeshi Miyakawa : "Infrastructure paradidactique pour développer et partager les connaissances des enseignants en mathématiques : une étude de cas des travaux hors la classe". Séminaire LDAR, 1 December 2018, Université Paris Diderot, Paris, France. (招待講演)

  • Verônica Gitirana, Takeshi Miyakawa & Luc Trouche : "La formation des enseignants, un point de vue international sur des questions critiques". Séminaire interne IFE : « Concevoir des formations et des interventions », 5 September 2017, ENS de Lyon, France.

論文等

今回の在外研究に関連した論文等は今後出てくると思いますので, 随時追加していきたいと思います.

  • Trouche, L., Gitirana, V., Miyakawa, T., Pepin, B. & Wang, C. (in press). Studying mathematics teachers interactions with curriculum materials through different lenses: towards a deeper understanding of the processes at stake. International Journal of Educational Research. (ScienceDirect)

  • Gitirana, V., Miyakawa, T., Rafalska, M., Soury-Lavergne, S., & Trouche, L. (Eds.) (2018). Proceedings of the Re(s)sources 2018 international conference. Lyon: ENS de Lyon.


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Created: 2018/06/23
Last update: 2018/10/29