図形の認識から見た van Hiele の水準論


要 旨

 van Hiele の思考水準は、幾何の教授・学習の標準的な枠組みとして、多くの国で受け入れ られており、研究やカリキュラム開発においても用いられている。しかし、彼の水準の記述は 明確な原理に基づいたものではない。そのため、他の研究者による水準の解釈は、互いに多少 違ったものとなっており、時には、van Hiele 自身による元の記述と矛盾するものを 含んでいることすらある。本稿の目的は、van Hiele の水準を再構築するための原理を 提出することである。この原理は、水準間の関係をより明確にするものである。
 まず、「シンボル」という概念の分析から始めるが、この概念は van Hiele の理論において 最も重要な概念の一つである。そして、van Hiele によれば、シンボルは人の思考において 三つの異なる役割を持っており、思考が発達するにつれてある役割から次の役割へと変化 するものであることが見いだされる。このアイデアを図形という概念に適用することにより、 図形を認識する三つの異なる仕方を見いだすことになる。第一に、人は図形をある種の 視覚的イメージとして全体的に見る。次に、図形はある一群の特徴を持った形として認識 されるようになる。最後に、幾何学システムのネットワークの結節点として、図形は認識される ようになる。幾何学システムを新たな思考の対象とし、同じ議論をこれに適用することに より、幾何学システムを認識する三つの仕方を得ることができる。
 次に、これらの認識の三つの仕方を、van Hiele 理論における他の重要な諸概念と 関係づけてみる。その結果として、上述した認識の仕方を用いると、van Hiele の水準論を 十分に再構築できることが見いだされる。この議論の結果として、以下のような新しい 枠組みが得られる。
水準図形の認識幾何学体系の認識
第1水準 視覚的全体的な図形の認識
第2水準 一群の性質を持つ形としての
図形の認識
第3水準 定義による図形の認識 幾何学の体系の全体的な認識
第4水準 一群の性質を持つ体系としての
幾何学の体系の認識
第5水準 定義による幾何学の体系の認識

 これらの議論の結果として、「対象の認識の仕方の変化」ということが、van Hiele の水準論を 再構築するための原理として提出される。