本論文では、具体的な授業場面の中で、個の生徒の活動の過程に着目し、そこから知見を得ること、および、その知見をもとに、活動を重視した数学授業のあり方について考察することを目的とする。
2 本論文の概要
第1章では、action proofを事例として、従来の数学指導における活動について考察した。その結果、従来の指導では、個人の活動にあまり着目されていないと考え、個別の視点が必要ではないかと考えた。すなわち、同一の活動によりすべての学習者が数学的概念を獲得するという視点でいいのか、ということを従来の活動の問題点ととらえた。
それに対して、これからの数学授業では、学習者自身が活動をつくり出し、学習者の中で数学的概念へと変容させていくことが重要であることを述べた。
さらに、学習者によって多様な活動を理解するための視点を明らかにすることを、筆者の問題意識として示し、そのために、個々の生徒の思考や活動と、それを表現したものの関わりに着目し、研究をすすめた。
第2章では、生徒の活動をとらえるための視点として用いるDorflerの理論について、その概要を示した。Dorflerは、数学における概念形成についての過程や、知識を活動から構成することに着目している。特に、Dorfler(1991a)における、記号的記述の重要さとその役割の変化に着目し、それらをDorfler(1989, 1991b)の“actionとそのprotocol”の概念で補完した。
ここでいうactionとは、実際的な活動および心的な活動の両方をあわせて考えるものであり、protocolとは、学習者が行ったactionにおける適切な段階等の重要な特色を、学習者自身で記したものである。また、protocolは次のactionを決定するための、いわば能動的な役割を持ったものである。しかも、protocolは、actionの影響を受け、actionの区切りとして生成されるものであり、それらのprotocolが数学的な概念を形成していく。
第3章では、従来、生徒の活動を見づらいと感じていた、文字を用いた説明について授業を行った。得られた授業データから、抽出生徒2名のactionとそのprotocolに着目して、活動の過程の分析・考察を行った。
抽出生徒の活動の過程
1999年の5月下旬から6月上旬にかけて、新潟県の公立中学校2学年の3つの学級で、授業実践を行った。課題は、「カレンダーの中で並びあう3つの数の和をすばやく求めたい。どんなことがわかるだろうか。」である。授業記録のビデオ、生徒の学習プリント、抽出生徒へのインタビューを分析・考察のデータとした。
早見(仮名)の事例
早見は、自分で書いたカレンダーの中で、5,12,19を枠で囲んでそれぞれの間の日数の差を指さすようにしながら数えた。次に、4,12,20を囲んで同様に数えた。このactionを通して、数表で見つけた等差の関係を、早見は「日差」と名付け、縦・横・斜めの日差を数表の性質を表すprotocolとして記述し、文字の式でその理由を説明した(図1)。
和島(仮名)の事例
和島は、カレンダー数の和についての法則を、終始、和を求めるというactionをもとに調べようとしていた。最初に小さい方の数から順に和を求めていた和島は、法則性に気づかなかった。そこで、それまでのprotocolの評価から、両端の数に着目したactionを行い、「両わきをたすとまん中の2倍で、まん中+よこの2倍 まん中の3倍」と記述していた。そして、筆算というprotocolを、和を求めるためのものから、自らが記述した性質を確認するためのものへとつくりかえている(図2)。
分析および考察
抽出生徒の分析・考察した結果から次の知見を得た(図3);
3 主な参考文献
指導 熊谷 光一