\documentclass[a4paper,11pt]{jarticle} %%AmsLaTeXの設定%% \usepackage{amsmath,amsthm,amssymb} %%定理の設定%% \newtheorem{th1}{定理} %%21×36文字の設定%% \pagestyle{empty} \renewcommand{\baselinestretch}{1.1} \setlength{\textheight}{42\baselineskip} \addtolength{\textheight}{\topskip} \setlength{\textwidth}{45zw} \setlength{\columnsep}{3zw} \def\kintou#1#2{\makebox[#1]{% \kanjiskip=0pt plus 1fill minus 1fill \xkanjiskip=\kanjiskip #2}} %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% \begin{document} \twocolumn[% \begin{center}{\LARGE \bf モジュラー多項式} \\ \\ \end{center} \begin{flushright} \kintou{10zw}{教科 $\cdot$ 領域教育専攻} \\ \kintou{10zw}{自然系コース(数学)}\\ \kintou{8zw}{\large 後 藤 和 也} \\ \\ \end{flushright}] %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 楕円関数$f(z)$は,格子$L=[\omega_1,\omega_2]$と任意の$m_1,m_2 \in \mathbb Z$ に対して,{\small \[f(z+m_1\omega_1+m_2\omega_2)=f(z)\]}を満たす有理型関数で ある.$L'=L-\{0\}$とするとWeierstrass関数 {\small \[\wp(z)=\frac{1}{z^2}+\sum_{\omega \in L'}\left[\frac{1}{(z-\omega)^2}-\frac{1}{\omega^2}\right]\]} は楕円関数である.ここで$g_2=60 \sum_{\omega \in L'}\frac{1}{\omega^4},\\g_3=140 \sum_{\omega \in L'}\frac{1}{\omega^6}$ とおくと,$\wp(z),\wp'(z)$は{\small \[{\wp'(z)}^2=4\wp(z)^3-g_2\wp(z)-g_3\]} を満たす.一方,判別式が$0$でない3次曲線$y^2=x^3+ax^2+bx+c\,,a,b,c \in \mathbb C$は, Weierstrass方程式{\small \[A_{\mathbb C} : y^2=4x^3-g_2x-g_3\,,\quad g_2,g_3 \in \mathbb C\]}で与えられる曲線に, 双有理変換により双有理同値である.このためWeierstrass方程式で与えれる 3次曲線およびそれと双有理同値な曲線は楕円曲線と呼ばれる.このとき, 射影平面において$A_{\mathbb C}$を考えることにより, 全単射{\small \[\mathbb C/L \longrightarrow A_{\mathbb C}\]}が示せる. $\mathbb C/L$の自然な群構造と,この全単射によって, $A_{\mathbb C}$に群構造を入れることができる.このとき$A_{\mathbb C}$における 加法は代数的である.複素トーラスどうしの同型に関しては {\small \[\mathbb C/L \cong \mathbb C/M \Longleftrightarrow \exists s \in\mathbb C,sL=M\]}が成り立つことが証明できる. 一方,楕円曲線$A_{\mathbb C}$に対して,$j$-不変量を {\small \[j_A=\frac{1728g_2^3}{g_2^3-27g_3^2}\]}とすると, {\small \[A_{\mathbb C} \cong B_{\mathbb C} \Longleftrightarrow j_A=j_B\]} が示せる. モジュラー群$\Gamma=SL_2(\mathbb Z)$の1次分数変換に対して, {\small \[\forall \gamma={\footnotesize \left( \begin{array}{cc} a &b \\ c &d \end{array} \right)} \in \Gamma ;\, f(\gamma(z))=(cz+d)^{2k}f(z)\]}を満たす, 無限遠点も含めた複素上半平面$H$上の有理型関数を保型関数という.保型関数は, $g_2,g_3,\Delta$などの重さ$2k$の格子の関数 $F(\lambda L)=\lambda^{-2k}F(L)\,,\lambda \in \mathbb C^\times$と, {\small \[F(L)=\omega_2^{-2k}f(z)\,,\quad z=\omega_1/\omega_2\]}により1対1対応 する.これを使うと$g_2(z)=\omega_2^{4}g_2(L)$,$g_3(z)=\omega_2^{6}g_3(L)$と 保型関数に変換できる.{\bf モジュラー関数}を{\small \[j(z)=\frac{1728g_2(z)^3}{g_2(z)^3-27g_3(z)^2}\]}と定義する.これは,重さ$0$の保型関数である. $j$は全単射 {\small \[j:\Gamma \backslash H \longrightarrow \mathbb C\]}を与える. これを使うと$j(L)=j(\tau),\tau=\omega_1/\omega_2$を用いて, {\small \[\exists s \in\mathbb C,sL=M \Longleftrightarrow j(L)=j(M) \]}が 示せる.したがって, {\small\[\mathbb C/L \cong \mathbb C/M \Longleftrightarrow j(L)=j(M) \]} となり,$j(z),j_A$は複素トーラス(楕円曲線)の同型類と1対1対応する 解析的表現となり,同型類をパラメトライズすることが分かる. さらに,$c_2^3-27c_3^2 \ne 0$を満たす任意の複素数$c_2,c_3$に対して, $c_2=g_2(L),c_3=g_3(L)$が,基底のとり方によらない不変量となるような$L$が つねに存在すことが示せ,前に示したこととあわせて$\wp(z),\wp'(z)$はつねに 楕円曲線$y^2=4x^3-c_2x-c_3$をパラメトライズすることが分かる. $q=e^{2\pi i \tau}$としたとき,$j(\tau)$の$q$-展開は {\small \[j(\tau)=\frac{1}{q}+\sum_{n=0}^\infty b_n q^n \,,\quad b_n \in \mathbb Z\]}である. また,行列式$N$を持つ原始的な整数係数行列の集合$\Delta_N^\ast$の 左$\Gamma$-剰余類の代表元$\alpha_\nu$に対して{\bf モジュラー多項式} {\small \[\Phi_N(X,j)=\prod_{\nu=1}^{\psi(N)}(X-j\circ \alpha_\nu)\]}を 定義すると,$j\circ \alpha_\nu$の$q$-展開を用いて, $\Phi_N(X,j) \in \mathbb Z[X,j]$が示せる.また$\Phi_N(X,j)$を使って, {\small \[\tau \mbox{が虚$2$次数} \Longrightarrow j(\tau) \in \overline{\mathbb Z}\]}が示せる.さらに$p$を素数としたとき,Kroneckerの合同関係 {\small\[\Phi_N(X,j) \equiv (X^p-j)(X-j^p)\pmod p\]}を導ける. $j$の特殊値は,体の有限次拡大に対する原始元になる.これは合同部分群 $\Gamma_0(N)$に対する$j\circ\alpha_\nu$の性質を調べることなどで分かる. そして,虚2次体において,$\Gamma_0(N)$に対する保型関数体を調べることにより, Kroneckerの関係式の因数の1つについて,基本合同式 {\small \[j(\mathfrak A \mathfrak P^{-1})-j(\mathfrak A)^p\equiv 0 \pmod {\mathfrak P}\]}を示せる. ここで$p=\mathfrak P\mathfrak P'$,$\mathfrak A$は虚2次体の分数イデアルである.虚2次体$k$のイデアル類群$Cl_k=\{C_1,\ldots,C_h\}$に対して,{\bf 類多項式}を {\small \[H_k(X)=\prod_{i=1}^h (X-j(C_i))\]}と定義すると,基本合同式や類体論 から$H_k(X)$は$\mathbb Z$-係数の$h$次$\mathbb Q$上既約多項式となり,これから, $k(j(C_1))$が$k$の絶対類体 {\small \[L=k(j(C_1),\ldots,j(C_h))=k(j(C_1))\]}となることが示せる. これらの性質を持ったモジュラー多項式と類多項式の間には,実は, 次の定理の関係が存在する.これは$z$を虚2次数としたとき,$\Phi_N(X,X)$の 根としての$j(z)$の重複度を調べることで分かる. \vspace{3mm} {\bf 定理}\quad $G_{\cal O}$を,虚$2$次体$k$の整環${\cal O}$に対するプロパー${\cal O}$-イデアル類群とし,$r(N,{\cal O})$を,${\rm {\bf N}} (\mu)=N$である ような$\mu \in {\cal O}$の原始的な${\cal O}$-同値類の個数とする.このとき, $c_N \in \mathbb Z$を定数として,整環${\cal O}$に対する類多項式を {\small \[H_{\cal O} (X)=\prod_{\mathfrak a \in G_{\cal O}} (X-j(\mathfrak a))\]} と定義すると, {\small \[\Phi_N(X,X)=c_N\prod_{\cal O}H_{\cal O}(X)^{r(N,{\cal O})}\]}が 成り立つ.ただし積はすべての整環${\cal O}$をわたる.\hfill □ \vspace{3mm} すなわち,モジュラー多項式$\Phi_N(X,X)$は,類多項式$H_{\cal O}(X)$の積に 因数分解され,そのとき現れる因数は,${\rm {\bf N}} (\mu)=N$を満たす$\mu$が 存在するような整環${\cal O}$に対するプロパー${\cal O}$-イデアル類群の 元についての類多項式であることが分かる.また,因数の指数は,$\mu$の原始的な${\cal O}$-同値類の個数に等しく,また,$[z,1]$がプロパー${\cal O}$-イデアルである ような虚2次数$z$に対して,$\alpha_\nu(z)=z$を満たす$\Gamma \backslash \Delta_N^\ast$の 代表元$\alpha_\nu$の個数にも等しいことが分かる.そして,整環${\cal O}$は, その判別式の絶対値が$|-4N|$または$|-4N+1|$のものまでが現れる可能性を持つことが 分かるのである. 最後に,実際に,モジュラー多項式を計算し,類多項式の積に因数分解した例を示した. %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% \vspace{5mm} \begin{center} 指 導 \quad \quad 中川 仁 \end{center} \end{document}