\documentstyle[a4j,11pt]{jarticle} \pagestyle{empty} \renewcommand{\baselinestretch}{1.28} \setlength{\textheight}{45\baselineskip} \addtolength{\textheight}{\topskip} \setlength{\textwidth}{45zw} \setlength{\columnsep}{3zw} \def\kintou#1#2{\makebox[#1]{% \kanjiskip=0pt plus 1fill minus 1fill \xkanjiskip=\kanjiskip #2}} \begin{document} \twocolumn[% \begin{center}超曲面の剛性について \\ \\ \end{center} \begin{flushright} \kintou{10zw}{教科・領域教育専攻} \\ \kintou{10zw}{自然系コース(数学)}\\ 葛 西 光 敏 \\ \\ \end{flushright}] リーマン部分多様体の剛性に関する研究は、1827年のGaussによる曲面論の基礎が 確立されると同時に始まっている。古典的には、可展面 $S$ は、ユークリッド空間 ${\bf R}^3$ 内の接線曲面、錐面、柱面、平面又はこの一部からなる曲面のことで あり、この曲面 $S$ は ${\bf R}^3$内において等長的み変形可能である。そのよう な曲面の大域的な性質を調べるために、曲面 $S$ が完備であるという条件を設ける と、 $S$ は、 ${\bf R}^3$ 内の平面上の曲線とこの平面に垂直な直線とのリーマ ン積である柱面となることが、Pogorelowによって1956年に示された。 RiemannはGaussの曲面上の幾何学に示唆を得て1854年 ゲッチンゲン大学での就職講 演において、n次元の抽象的な多様体を考え、埋め込みによらない内在的微分幾何 学を提唱し、いわゆるリーマン計量を導入した。これによってリーマン多様体の概 念が確立した。ユークリッド空間、ユークリッド球面および双曲型空間は総称して 空間形と呼ばれており、リーマン多様体の古典的な例であり、その微分幾何学的性 質については十分に調べられている。 n次元のリーマン多様体 $M$ から一つの空間形 $\tilde{M}$ への等長的はめ込み $f$ が剛性的であるとは、 $M$ から $\tilde{M}$ への等長的はめ込みはすべて、 $\tilde{M}$ の等長変換と $f$ の合成によって得ることができるときをいう。 $f$ が等長的変形可能であるとは、 $M$ から $\tilde{M}$ への等長的はめ込みで、 $\tilde{M}$ の等長変換と $f$ の合成によって得ることができないものが存在する ことをいう。 \vspace{5mm} 1956年のPogorelowによって示された上記の結果を一般化することが多くの幾何学者 によって試みられた。1959年にHartman-Nirenbergはn+1次元ユークリッド空間内の 完備で平坦な超曲面は、平面内の曲線とn-1次元ユークリッド空間とのリーマン積に なることを示した。次に、D.\ Ferusはn+1次元ユークリッド球面内の完備で曲率が 常に1である超球面は全測地的な超球面になることを示した。 続いて、n+1次元空間形内の超曲面の等長的変形性については、次の通りである。 1876年から1885年にかけて、R.\ Beez-W.\ Killingは、「n+1次元ユークリッド空間 内の超曲面は、その第二基本形式の階数が3以上ならば剛性的である」ことを示し た。その後、1939年にAllendoerferは余次元を1より高い一般の場合に拡張した。ま た、1929年にS.\ Cohn-Vossenは「2次元のコンパクトなリーマン多様体から3次元 ユークリッド空間への等長的はめ込みは、多様体のGauss曲率が正であるならば、剛 性的である」ことを示した。さらに、1960年にK.\ Vossは「Gauss曲率が正である」 という仮定を「Gauss曲率が非負である」という仮定に改良した。1962年にR.\ Sackstederはn次元に拡張し、n次元リーマン多様体がコンパクトの場合の剛性問 題を扱った。1990年にはDajczer-Gromollは、n次元リーマン多様体が完備の場合に ついて、剛性問題を扱っている。彼らの結果は次の通りである。 「n次元リーマン多様体から定断面曲率cをもつn+1次元空間形への等長的はめ込み に対して、cが非正のとき、nが3以上で多様体はコンパクトであるとする。cが 正のときnが4以上で多様体は完備であるとする。このとき、等長的はめ込みの全 測地的点の集合が多様体を切断しないならば、その等長的はめ込みは剛性的である 。」この定理の証明は、本論文の第4章で示される。また、同1990年に Dajczer-Gromollは定断面曲率cが0のとき、即ち、完備リーマン多様体からn+1次 元ユークリッド空間への等長的はめ込みについて、次の結果を得ている。「nが3以 上のとき、完備リーマン多様体が3次元のleafとn-3次元ユークリッド空間のリーマ ン積と等長的な開集合を含まず、そのleafが有界でないとする。このとき、多様体 からn+1次元ユークリッド空間への等長的はめ込みは、ruled strip(線織面)に 沿ってのみ(非離散的)等長変形を許す。さらに、等長的はめ込みが、任意の開集合 において完備なruledでなくかつ多様体を全測地的点の集合が切断しないならば、そ のはめ込みは剛性的である。」これは、R.\ Sackstederの定理の拡張になっている 。この定理の証明を本論文の第5章で示す。 \vspace{5mm} 本論文は5章で構成されており、その内容は次の通りである。第1章では可微分多様 体の定義と接空間、はめ込みと埋め込み、向き付け、ベクトル場、位相についての 性質を述べる。第2章ではリーマン計量を用いて、リーマン多様体を定義する。更に 、多様体上のaffine接続、リーマン接続、測地線の性質について述べる。第3章では 曲率(断面曲率、Ricci曲率、scalar曲率)について述べ、Jacobi場、等長的はめ込 みの第二基本形式と基本方程式について述べる。さらに、完備多様体のHopf-Rinow の定理とHadamardの定理、定曲率空間について、その性質に言及する。第4章では平 坦双線形形式の理論について述べ、その応用としてAllendoerferの局所的な等長的 剛性定理の証明を与える。次に、R.\ Sacksteder、Dajczer-Gromollによる超曲面の 大域的な等長剛性の定理の証明を与える。さらに、この定理の原形である「3次元 ユークリッド空間内のコンパクト凸曲面は剛性的である」という定理の証明を与え る。第5章では完備超曲面の剛性について述べる。先ず、ここでは相対ナリティ (relative nullity)葉層構造の分解テンソル(splitting tensor)の定義とその性 質について述べる。続いて、第二基本形式の階数が2以下の完備部分多様体につい て、等長的はめ込みがruled(線織面)であるこのと定義を与え、Dajczer-Gromoll の結果の証明を示す。最後に、完備リーマン多様体からn+1次元ユークリッド空間内 への等長的はめ込みについて、Sackstederの定理の拡張になっている Dajczer-Gromollの定理について述べ、その証明を与える。 本論文を書くに当たり、第1章から第3章まではM.\,P.\,do.\ Carmoの本を参考にし 、第4章の前半はM.\ Dajczerの本を後半はM.\ Spivakの本を参考にした。第5章は Dajczer-Gromollの論文を参考にした。 \vspace{2cm} \begin{flushright} 指導教官     森  博 \end{flushright} \end{document}