『学習心理学特論』レポートへのコメント

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<2006年度版>
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■ 今年のC

  だんだん年をとるごとに心も体も丸くなり,最近はそんなに厳しい評価をつけないようになってきていた<はず>なのですが(でもBはしっかり出します),珍しく今年はCを出してしまいました。「評価の低いレポートを,見せしめのようにWebに載せたりはしない」と言っていることもあって,どうしようかと思ったのですが,Cを出したことに対する説明責任というのもありますので,最低限のことは書いておかなければいけないでしょう。

  ポイントは2つありました。ひとつは「1つの理論で」説明するよう言ってあったのに,複数の理論を使ってバラバラに説明してあったこと。このことについては,ちゃんと課題の中にも書いておきましたし,授業の中で説明もしたことです。その前提が守られていなかったということです。

  じつをいうと,今年はけっこうこの「複数の理論」型レポートが多かったのです。このタイプのレポートは,まずB判定としました。ただし,ちょっとキーボードを叩く手がすべったというか,特定の理論でずっと説明してきたのに,そこだけちょこっと出てきてしまったというようなものは,その理論での説明が一貫していれば,大目に見てAに戻しました。たとえば,「目標理論」を「内発的動機づけ」の中に含めたり,「効力感」を「有能感」と取り違えているケースなど,全体の意図がわかるものは,おおむね復活していると思います。(あとは,別の観点で加点したものもあります。)

  でもねえ。なんか,理論全体の枠組みを考えずに,個々のコトバだけで理論を理解している人が多いのかも知れませんねえ。

  それで,当該のレポートは,少なくとも3つの理論を持ち出しており,うち2つについてはそれぞれ概念の定義から書き起こしていますので,明らかに別個の理論とわかって書いているものであり,手がすべった程度とはとても思えませんでした。そしてやはり,事例の部分部分に,それぞれ別の理論をあてはめて解釈しているので,一貫性が見られません。これではやはり,課題の前提条件に沿っていないと判断せざるを得ませんでした。

  2つめのポイント。先ほどの2つの概念の定義なのですが,これがなんとインターネットから引っぱってきて載せてあり,で,その定義に沿って説明しようとしていたのです。レポート課題について説明したときに,よその本を読んで書くと授業の内容と矛盾する場合があるので注意するように言ったはずなのですけどね。

  まあ,インターネットがダメ,とは言わなかったわけですが,案の定,個人サイトから持ってきたその定義は,かなり不正確なものでした。たとえば,達成動機は内発的動機づけの一部であるという説明があるのですが(たしかに,そのように定義する人たちもいます),授業をちゃんと聞いていた人なら,すぐにおかしい,このレポートではこの定義は使えないと気づくはずでしょう。それくらい,この問題については何度も授業の中でふれたつもりなのですが。

  だいたい,さんざん授業の中でしゃべってきたことなのに,それをまったく使わずに,わざわざインターネットで新たに定義を調べ,それを使って説明したレポートを出すっていうのはどういうことなのでしょう? なんか,ケンカ売ってるのでしょうか? 「お前の説明はさっぱりわからないから,わざわざネットで調べたのだ」とか,「お前の説明はまちがっているぞ!!」とでも言いたいのでしょうか。「説明がまちがっている」という批判なら,それはそれで大歓迎ですし,きちんと反論してくれるなら迷わずA評価なのですが,たんに授業内容を無視されただけだと,こちらとしては評価のしようがありません。レポートは,授業への取り組みを評価するためのものなのですから。

  以上2つの点から,このレポートはC判定としました。

ポイント
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■ 今年の「あれれ?」

  9月になってすぐのある朝,研究室に来てみると,ドアにレポートか貼りつけてあります。締め切りすぎたのに,なんだろう? と不思議に思って近づいてみると,幼児の木村先生のメモが,そのうえにくっついています。読んでみると,なんとレポートがまちがって木村先生のところに提出されていたというのです。ありゃあ。いったいどうしてまちがってしまったのでしょうか。同じ心理の中でまちがうというなら,わからないでもないですが(今まで,そんなまちがいに出合ったことはないですが),ぜんぜんちがっていてまちがえようがない気もするのですけどね。もしかして,同じ山形の匂いでもしていたでしょうか。

  今年は,途中で自主的にフェードアウトされた方がいつになく多く,登録された受講生数に比べて,提出されたレポートの数がだいぶ少なかったので,ちょっと困りました。というのも,上のようなトラブルもあったりして,ちゃんと提出したはずなのに,何かに紛れてこちらに届かなかったのではないか,また,ちゃんと受けとったのに,私がどこかの段階で紛失してしまったのではないか,という可能性が,いつまでもぬぐい去れなかったからです。

  例年ですと,途中で受講をやめた人はたいてい「受講取消票」を出してくれるので,レポートの数が合わないというのは,あったとしても1人か2人程度なのですが,今年は10人近くいます。こうなると,たとえば,ある特定の日に提出したレポートだけ,どこかちがうところに置いてしまったとか,いろんな想像がわき上がってきます。レポートの枚数を何度も数え直し,研究室の中もひととおり見わたして,手元にある分についてはしっかり確認したのですが,「もしかしたら…」という不安はいつまでも消せませんでした。幸い,今のところこれについての苦情はないようですが…。

  それともうひとつ,締め切り日の当日,メールが入りまして,朝,レポートを印刷しようとしたらPCがクラッシュして,印刷どころかデータが取り出せないので書き直さないといけないとのこと。こういう突発事故はまあやむを得ないところがありますので,とりあえず“やっつけ”で書いて欲しくないので,週末を挟んで月曜まで待つことを,返信しました。

  しかしけっきょく,レポートは提出されませんでした。集中講義で忙しくて,レポートを完成する時間がないとのことでした。こうなると,突発的な事情というよりは,私の授業と集中講義のどっちを優先するかという選択の問題と考えられますので,私もそれ以上ダラダラと期限を延ばすことはしませんでした(正確には,提出したら受けとるけれど,評価に関して配慮はしない,とお伝えしました)。残念。

  みなさんも,データクラッシュにはくれぐれもお気をつけください。レポートはこまめに保存し,バックアップもしっかり取っておきましょう。ワープロソフトなどについているバックアップ機能は,元データもバックアップデータも同じハードディスク内に保存する場合が多いので,PCそのものがダメになったときまったく役に立ちません。少なくとも一方は外部記憶装置に保存しておくことを,強くおすすめします。

ポイント
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■ そしていつものB評価

  今年,B評価にしたものは,先ほどあげた「複数理論」型のほか,おおむね次のようなものでした。参考までに。

・何の理論に準拠しているか説明がない
事例を説明する文章はたしかに書いてあるのですが,何の理論を使っているのか書いていないもの。そういう場合も,「たぶんこういうを言いたいのではないだろうか」と“推測”してみるのですが,何度読んでも推測できない,あるいは複数の理論から同じように説明できるものは,Bとしました。その理論に関連するキーワードをうまく文章の中にちりばめておきましょう。ただし,キーワードは不用意に使うと,先ほどの「複数理論」型になってしまうことがあるので,気をつけてください。
・理論に対する理解が明らかにまちがっている
これについては,わりあい寛大に評価していると,自分では思っているのですが,それでも,授業でとくに強調したはずのところを,ちがった意味づけで書かれていると,これはやっぱりおかしいだろうと思ってしまいます。いちばん多いのは,内発的動機づけ理論の中で「外的報酬」をどう扱うか,外的報酬がある状態での子どもたちの意欲をどのように評価するか,という問題。
・理論は理論,事例は事例で完結していてつながりが見えない
それぞれがんばってまとめてはいても,2つがバラバラでつながっていないもの。ごく大づかみなところでは対応していることが理解できるのですが(というか,このレベルだと,甘くて聞き心地のいい抽象的なコトバが並ぶ政治家の演説のように,何でもコロリと同意してしまうものなのですが),その事例の具体的な特徴に対して,理論のどの部分が当てはまるのか,というレベルでの検証がおろそかになっていては,この理論が「あてはまる」とは言えません。

  今回いちばん悩んだのは,ある人物の動機づけの変遷をたどったレポートでした。事例はしっかり書かれていて,理論の理解もとくに破綻はみられなかったのですが,ただひとつの問題は,扱っている動機づけの対象がどんどん変わっていってしまっているという点でした。ある部分では学習活動への動機づけをとりあげ,別のところでは部活への意欲をとりあげ,また別のところでは学校生活全体の意欲…というように,説明している対象がちがうので,動機づけの変遷なのか,対象が変わっただけなのかわからないのです。とはいえ,あまりこのあたりをつつくのは専門的に過ぎるような気がするし,なによりがんばってていねいに書こうとしているのはよくわかるので,ひじょうに悩みました。けっきょくB評価としましたが,今でもまだ揺れています。

  う~ん,今年はなんだかネガティヴな方向の報告ばかりになっていて申し訳ありません。ポジティヴな話題は具体的なレポート紹介の方で。

  …ということで事例編にいきましょう。

<事例編>にとぶ


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