■α係数と(標準)因子得点

2002.11.11. 作成



1. おかしい

  今年(2002)の修論中間発表を聞いていて,気になったことが一つあります。それは,因子分析の後のデータの扱いについてです。因子分析を行って,単純因子構造を求めるために,項目の選択を行う。そして最終的に出てきた因子を説明するのに,負荷量.4以上の項目を四角で囲んで表示し,α係数を求める。そしてその後の分析のために,因子得点(標準因子得点)を算出する。これはちょっと手続きとしておかしいのです。

  なぜおかしいかというと,α係数を求めたり四角で囲むのは,項目の素点を単純に合計して尺度得点を算出するときのやり方であって,因子得点で分析するなら,こういう手続きは不要だし不適切だからです。

2. 合計得点の考え方

  今,30項目の質問紙があったとして,因子分析の結果3因子が抽出されたとしましょう。このとき,因子1に高い負荷量を示す項目だけを集めて合計すれば,因子1の性質とおおむね対応した得点が得られるだろうと考えるのが,「合計得点」の考え方です。つまりこれは,因子1の「近似値」を求めているわけです。

  このとき,ある項目が因子1にも因子2にも高い負荷量を示していれば,合計得点を求めるときには両方の因子にこの項目を加算することになります。すると,因子1の得点と因子2の得点とは,ある程度相関が高くなってしまいます。同じ得点が両方に入っているわけだから当然ですね。因子分析の目的は,お互いに独立な(相関のない)因子を抽出することですから,こういう相関はマズいのです。そのため,厳密に単純構造を追求し,多重負荷がなく各因子を構成する項目がはっきり分離しているということを,最終的に報告する必要があるのです。枠で囲って,この項目はこの因子に属する項目ですよ,他の因子とは無関係ですよ,と示すわけです。

  またα係数は,そうして選択した,たとえば因子1を構成する10項目が,どれくらい単一の内容を斉一的に測定しているかを示す係数です。この値が高ければ,合計得点が何かしらまとまりのある特性を測っていると言うことができます。値が低ければ,これら10項目が測っているものがそれぞれバラバラである,ということになります。だからこの数値は,30項目のうち因子1を構成する10個の項目が,ある程度まとまりがいいと言えるかどうか,したがってそれらの素点をそのまま加算して,「意味のある」得点が作れるのかどうかを,間接的に示していると言えます。

3. 因子得点の考え方

  因子得点の考え方はこれとはまったく違います。因子得点は,因子1の得点を求めるのに30項目すべての項目を用います。因子2も因子3も同様です。では何がちがうかといえば,因子得点では各項目の得点にそれぞれ異なる重みづけを与えて合計します。それはたとえば,入試の各科目成績に傾斜配点をかけるようなものです。国文科なら国語の得点を2倍し理科は1/4にするとか,物理学科なら理科と数学を4倍するというように,因子ごとに重みづけを変えて,すべての項目の得点を加算しています。(ちなみに,「合計得点」に今の入試を当てはめると,国文科は国語・英語・日本史の成績だけを使って合否を決める,というようなことになります)

  それで,この重みを決定しているのが因子分析の因子負荷量です。つまり,全部の項目を使ってはいますが,その因子に対する負荷が小さい項目は重み係数が小さくなるので,合計にあまり影響しないのです。とはいえ,これらの項目も,低いながらも何らかの寄与を各因子に対して持っているはず。「合計得点」の場合は,負荷量の小さい項目からの情報をバッサリ落としてしまうのですが,因子得点では小さい負荷量の項目もそれなりの重みで得点に寄与するので,そのぶん情報量を落とさずに,元の因子の性質をそのまま伝えていると言えるでしょう。

  こういう考え方なので,ここでは,多少の多重負荷があっても問題ありません。また,因子の解釈は負荷量の高い項目を3つ4つひろって行えばよく,「この10個が因子1の項目」と線引きする必要もありません。つまり,「合計得点」の時ほど厳密に単純構造を追求しなくてもいいのです。

4. 分析の方針によって決まる

  これで,おわかりいただけたでしょうか。因子得点は30項目すべてを使用するので,.4の負荷量以上の項目を採り上げて枠で囲い,「この10個が因子1を構成する項目だ」と宣言しても何にもならないのです。そして,その10項目の中での内部一貫性を検証するα係数も,まったく意味をなさないのです。また,単純加算した場合の内部一貫性を示すα係数は,重みづけ加算する因子得点には適用できないのです。だから,α係数を求めたあとで因子得点で分析するというのは,途中から分析方針がぐにゃりと曲がっているようなもので,どう見てもヘンなのです。

  蛇足ながら,各下位尺度ごとにα係数を求めておいて,同時に全体のα係数を求める,というのも奇妙な手続きです。もし全体でのα係数がじゅうぶん高かったら,それはその質問紙が全体としてまとまりがよいということですから,そもそも因子分析をやる必要がありません。因子分析を実行して,それぞれ意味的に独立した複数の下位尺度があると言いたい(&その下位尺度ごとに分析したい)のなら,下位尺度のα係数を示せばいいのです。全体のαが高いことは,かえって都合が悪い結果になります(項目数が多ければ,どうしたってα係数は高くなります)。

以上