記録編 ワシントンD.C
全米地理学協会
National Geographic Society
県立新潟西高等学校教諭 志村 喬
 3 エクスプローラー・ホール
 私たちが見学した展示室は、エクスプローラー・ホール(探検者ホール)と呼ばれ、全米地理学協会本部ビルの1階にある施設である(なお、このホールは、ワシントンD.C.の観光用地図はもちろん、日本の高等学校用地図帳のワシントンD.C.中心市街図にも記載がある)。1階すべてのフロアーを利用したこの展示室は、半分がジオグラフィカと呼ばれる常設展示室、残り半分は企画展示室となっており、その間には協会関連商品を売るコーナーが設けられている。
 常設展示室は、地球とその地理、そしてそこに「生きる者」達について相互活動的(インターラクティブ)に学ぶ場である。多くの展示は、解説を読んだり展示物を見たりするだけではなく、触ったり、動かしたりする体験を通して学ぶように設定してあった。例えば、気象分野ではトルネードを模擬的に発生させる装置があり、生物の観察分野では子供自身がカメラマンとなってカメラを操作することで、様々な映像を創り出して見ることができるような工夫がみられた。その他の展示物も「ナショナル・ジオグラフィック」誌と同じように写真やビデオ映像を効果的に用いて、子供をはじめとした訪問者がまず楽しめるようになっていた。常設展示室の目玉は、アース・ステーション・ワンと称される宇宙フライト・シミュレーターであった。72席をもつこの劇場装置は、正面に直径約3.3メータの地球儀を持ち、人工衛星軌道を回る模擬体験をしながら地球に関する設問に答えるもので、大人も十分に楽しみながら学習できる施設と感じられた。
 一方、企画展示室は、「ナショナル・ジオグラフィック:日本版」1998年7月号にも紹介されていたように「猫:野生から人間の友へ」のテーマで、猫について生態面のみならず遺伝をはじめとした生物学的な説明もされていて、その詳しさには驚いた。しかし、高い説明レベルにもかかわらず映像等を効果的に利用し、分かりやすく展示していることは、常設の場合と同じであった。
見学する人々
写真:見学する人々
(右はオルメカ(インカ)の巨人像)
 4 訪問で考えたこと
 この訪問で考えさせられたことは、地理の扱う内容と、企画・展示の方法とについてであった。日本で、「地理」と言った場合、多くの人々にイメージされるのは、地名をはじめとした地理的知識や、人文地理的内容の事柄ではなかろうか。ところがこの展示室では、私たちが生活している地球を第一に取り上げ、地球環境への興味・関心といった観点から非常に幅広い内容が扱われている。そこには、日本での「地理」に収まりきれず、「博物誌・自然史」的内容がかなりあると言える。同協会の活動が、多くの人々に受け入れられている事実をふまえると、日本における「地理」の内容を再検討する必要があるかもしれない。企画・展示の方法では、何よりも相互活動的(インターラクティブ)な体験学習の重視と、映像など視覚的展示物の効果的な利用が目を引いた。まずは楽しんで体験する、その結果として地理を学習するといった方法である。このような方法は、地理教育復興運動にも通じる所がある。日本の教育現場においては、自ら考え・判断し・表現・行動する力の育成がますます重要になっているが、この点でのヒントが多い企画・展示方法であり、今後参考にすべきであろう。