テーマ別編 小学校 1/4
「生活の利便性をめざす試み」で教えるアメリカ社会
−ワシントンD.C.、ピッツバーグ市、ボストン市の事例を通して−
東頚城郡牧村立牧小学校 寺田喜男
 1.外から見ることの意義
 同心円的な地域拡大を原則としてきた小学校社会科指導の中で、事例的であっても「諸外国の人々の生活」について直接的に学習する機会はそう多くはない。あえていえば、6年生の3学期に「世界の中の日本」というような題材の中で、「日本と関係の深い国々」(1)の事例として取り上げられる程度である。小学校社会科の地域重視は、児童の経験、認識の仕方、実体験の必要な発達段階などから見ても当然であり、地域、社会連帯感の育成の上からも重視されるべきである。
 ところで、児童の多くは地域の事象を意識しているいないにかかわらず「当然」のこととして受け止めていることが一般的である。例えば、4年生の学習に「わたしたちのくらしとごみ」という題材がある。「ごみは清掃工場の焼却炉で燃やす」というのが一般的であり、「全てを埋める」という発想はない。従って、地域の健康なくらしのために「ごみ」を燃やすことの論議がなされないままに、「ごみは焼却炉で」という事象の意味づけがなされがちになる。今回、現地調査で訪問したピッツバーグ市を始め、アメリカ合衆国の多くの諸都市、諸州は、燃やせるごみであっても埋め立てるのが一般的であった。常識と思われることが常識でないと気付くことで、地域の事象の一層深い意味付けができるのであり、よりよいくらしの創造をめざす人々の営みを主体的に受け止めさせることができるのである。本報告では、都市景観の観察の結果とらえた「健康で安全なくらし」を支えるための営みについて報告する。3・4年生の社会科の授業で、地域の生活の理解を深めることに役立つだけでなく、6年生の社会科「日本と関係の深い国々」の学習「アメリカ合衆国と日本」の学習においても、このことを通して合衆国の人々の生活空間形成への営みについても関心を持たせることが可能となる。比較による異同の発見は、課題追求の根元の一つであり、このことで社会科授業の充実、合衆国の市民生活への関心の高まりに役立つことができれば幸いである。
 2.観察の観点と主要観察地点
 次の観点から観察した。その対象はおよそ以下のような事物であった。
a.集い、やすらぐ 公園 、広場、花壇、街路樹、その他
b.利便性、安全性、尊重 標識、ベンチ、消火栓、信号、自動販売機、その他
c.健康、清潔、美観 ゴミ箱、清掃、電線、その他
d.環境、その他 リサイクル、家並み、その他
 観察地点は次の地点である。
○観光、文教地域
・ワシントンD.C.
ワシントンモール周辺
リンカーン記念館、国立歴史史料館、ワシントンモニュメント周辺
・ボストン市 フリーダム・トレイル、ボストン美術館周辺、ボストン大学付近
○居住地域
・ピッツバーグ市 郊外の住宅地(中・高級住宅地域)
・ボストン市 郊外の住宅地(バックベイ地区)