中学校1年生地理的分野
アメリカ合衆国の工業
〜ピッツバーグの工業の変化から〜
長野県松本市立清水中学校 麻田 正明

1 はじめに
(1) 新学習指導要領における位置付け
 平成10年12月告示の新学習指導要領で、世界地理に関わる内容は、内容(2)ウ世界の国々、「世界の国々の中から幾つかの国を取り上げ、地理的事象を見いだして追究し、地域的特色を捉えさせるとともに、国家規模の地域的特色を捉える視点や方法を身に付けさせる。」と示された。教材化の際に重要となってくるのは、教師がどのような観点からその国で暮らす人々の暮らしや、その国の特徴的な地理的事象を捉えているかという点である。
写真1 ピッツバーグ市の中心部(左手)とかつて炭田のあったマウントワシントン(右手)。インクライン(ケーブルカー)で労働者や石炭が運ばれた。
 アメリカ合衆国は、日本と経済的にも政治的にも、また戦後の日本の文化を捉える上でも、最も関係の深い国の一つである。世界経済の中心的存在である強大な合衆国は、広大な国土と自然条件、豊かな鉱産資源などの諸条件を活かして各種産業が立地し、発展し、変容している。この合衆国の姿について、具体的にイメージを持つことが容易な写真資料を用いて、外国殊に日本との関係を考慮しながら、農業と工業を中心に学習することにより、自然条件や歴史的条件、社会的条件や社会状況の変化などを多面的に捉え、地域の様子を理解していくことができる単元展開を構想した。
 今回の授業は、特に、アメリカ合衆国の強大な経済力を、工業面から捉えていく学習を中心としたもので、ペンシルベニア州ピッツバーグ市ならびに周辺地域の製鉄を中心とした工業の盛衰を具体的に扱いながら、合衆国の工業の姿に一般化して捉えていくことができる教材開発を目指したものである。
 米国研修の機会を得た教師が、授業を意図して授業構想を立てた上での現地調査に基づいて、その地でなければ得られない情報を有効に取り込み、具体的な情報を提供して生徒に学習させていくことをねらいとした。これによって、社会科の目標の(2)「地域的特色を捉える視点や方法を身に付けさせる」学習、ならびに、(4)「さまざまな資料を適切に選択、活用して地理的事象を多面的・多角的に考察し公正に判断する」学習を具現化する学習展開を試みたものである。
写真2 歴史的遺物として展示されている転炉
(Bessemer Converter)
 本単元の教材化は、内容の取扱いに新たに盛り込まれた (2)ア「地図の読図や景観写真の読み取りなどの地理的技能」の育成を図っていく単元としての位置付けも考慮した。今改定によって『地理的技能』という言葉が登場したことはスキルの育成と習得が重要視されていることの表れである。数枚の景観写真をじっくりと読み取りながら、断片的な情報や既有知識を統合して、その地域の地理的事象を考察していくことができる力は、地理学習の上で重要な能力である。この能力を育成していくことは、自分の目で実際の景観から地域を捉えていく見方・捉え方を身に付けることであり生徒自身にとって生きて働く力の一つと捉えられる。
 学校において通信ネットワーク環境が整っていれば、同じく取扱いの「地域に関する情報の収集、処理に当たっては、コンピュータや情報通信ネットワークなどを積極的に活用するなどの工夫」への対応として、発展的な学習の展開も可能である。
 ただし、鉱産資源の産出についての扱いは、同ウの「地域的特色を追究する過程で生物や地学的な事象などを取り上げる際には、地域的特色を捉える上で必要な範囲にとどめること。」を受けて十分配慮する必要がある。

(2) 教師の教材観と教材化の意義
 地理で工業学習を扱うことは、モノを作ることの価値を再認識すること、モノを作ることによって人々や地域の生活がどのように影響を受け、変化していくことを考察することに価値がある。そのために、工業立地を多面的に考え、また社会状況の変化とともに人々の生活や地域がどのように変貌しているのかを捉えるための観点や手法を身に付けさせていくことが、情報活用能力や課題解決力の育成の基本となり、地理的分野の目標具現へのアプローチとなろう。
写真3 操業中のUSSの製鉄工場
(Edgar Thomson Works)
 アメリカ合衆国の工業の学習においては、アパラチアの石炭とメサビの鉄鉱石、五大湖の水運を立地条件に、デトロイトでは自動車工業が、シカゴ、クリーブランドで製鉄業が古く発展したとの知識を得させるだけの学習が多く見られた。今回取り上げるピッツバーグも原料立地型の工業の典型、製鉄の町として教科書にも登場している。しかしながら現状は、実際どのように鉄鉱石や石炭が運ばれてきたのか、石灰岩はどこから得ていたのか、どのような場所に製鉄所があったのかなどについては、教師自身が知らないままであった。さらには、その製鉄業がどのように変容し、ピッツバーグがどう変わってきたのかまったく知見のないまま、ピッツバーグ=製鉄の町が呪文のように知識として残される学習であったことも確かである。
 そこで、工業立地を多面的に捉える題材として、また今回の学習指導要領で登場した『地理的技能』の育成を意図して、アメリカ合衆国ピッツバーグを取り上げることとした。
 ピッツバーグは前述の如く原料立地型の製鉄業が発展した都市である。「スリー・リバーズ」と呼ばれる通り、アレゲニー川、モノガンヒラ川が合流しオハイオ川となる地点で、水運に恵まれ、また陸上交通との結節点としても機能した。1700年代には周辺地区に住む農民たちの生活用品を供給するための地場産業的な工業が行われるようになり、地元で得られる原料(けい砂・石灰石)を元にしたガラス工業のほか、周辺山地からの木炭を利用しての製鉄業が立地した。燃料として19世紀半ばまで使われつづけた木炭は、鉄道の敷設の拡大に伴い使い尽くされ、替わって後背地に産する石炭が用いられるようになり、以降鉄の生産量を急速に伸ばした。
写真4 モノガンヒラ川を行く石炭運搬船(拡大写真あり)
 鉄道の普及がインフラ整備に拍車をかけ、鉄の需要も急速に拡大した。新しい仕事・生活を求めてきた多くの移民が鉄鋼業を支える重要な労働力となった。1892年からはメサビ鉄山の鉄鉱石が、スペリオル・ヒューロン・エリー湖を経由しての舟運と、エリー湖畔エリーからの鉄道によってピッツバーグまで移入されるようになり、近隣地域に産出する石炭も鉄道・水路を利用しての安いコストで運び込まれ、ピッツバーグの製鉄の発展を支えた。
 後の鉄鋼王カーネギーやフリックと大変にゆかりが深い地であったこと、石灰岩も豊富に地元で得られること、「スリー・リバーズ」のもたらす粘土がレンガ製造に適していたこと等も、要因であることを現地聞き取り調査によって知ることができた。
写真5 ピッツバーグ大学カテラドルオブラーニング(Cathedral of Learning)、壁の黒い汚れは製鉄時代の煤煙によるもの(拡大写真あり)
 立地条件の良さを生かして、最盛期1900年ごろには全米の60%にあたる粗鋼生産を誇るまでに至ったピッツバーグであったが、急速にその地位を低下させる。原料供給地の変化に伴う新しい鉄鋼産地の発展や、日本や韓国の低価格高品質鉄鋼の台頭、エネルギー革命、公害、労働力コスト、新しいテクノロジーに対して施設の老朽化・近代化の遅れなどの諸状況を経ながら、当地の製鉄業は衰退した。生産量の減少だけでなく、合衆国全体の中でのペンシルベニア州の鉄鋼生産の落ち込みは他の生産地に比して大きく、最盛期に50%近くまであったものが、1992年では10%以下となってしまった。また、『煙の町』”Smoky City”と呼ばれる原因となった工場からの煤煙も影響を与えている。
 1950年代からダウンタウンの再開発に着手し、1980年代からはUSX社やアルコア社、ハインツ社など世界的な大企業の中枢が集中する経済都市、またハイテク産業の町へと変容してきている。
 この変貌は、気候条件や新しい安い労働力の流入といった条件は異にしていても、言うまでもなくサンベルトで新しい工業が発展してきている、合衆国全体の工業の変化と重なるものがある。そこでピッツバーグの工業の立地と変貌を題材にすることによって、地域的特殊性を捉えながらも、広く合衆国の工業の現状(一般的共通性)を捉えて行くことが可能な学習を展開できるよう位置付けた。
 教師の現地調査によって得られた資料や写真は、その地域の様子が、生徒たちの意識により近づいて具体で学んでいける有効な教材となろう。
(3)ねらい
 撮されたもの自体の情報が限定されていて、読み取るには多少の負荷がかかる写真を学習資料として用いることと、対象物そのものでわかりやすい写真や地図やグラフ、ビデオなどの視覚資料を使うことによって、生徒のアメリカへのイメージを豊かにさせながら、地域の特色を理解していく学習を展開する。
 1) 強大な経済力を持つアメリカ合衆国の特徴を、農業面・工業面から意欲的に追究しようとする。
 2) 大規模な農業経営や工業の立地、社会問題の原因について、自然条件や社会条件、歴史的背景から多角的・多面的に考察することができる。
 3) テーマ性を持った数枚の写真から,その地域の特色をさまざまな角度から考え読み取ることができる。
 4) 巨大な経済力を持つアメリカ合衆国の現状と課題を、農業の工夫や工業の特徴を中心に、また、その変容を追いながら、理解する。

2 授業構想
(1) 主な学習活動(単元の概要)


学  習  活  動 支  援 目 標


アメリカ合衆国の姿を捉えよう

2時間

地図、歴史年表、統計、写真等の資料から、広大な国土と歴史的背景を 持ち、合衆国は政治的・経済的に大きな影響力をもつこと、特に巨大な生産力が世界に大きな影響を与えていることを理解する。

 

・合衆国を概観するオリエンテーションとして、各種資料の提示。読み取りを 通して、広大な国土と豊かな資源を持つ様子をつかませる。

・鉱・工業、農業においてどのような生産が行われているのか関心が持てるよ うにする

◎広大な国土を持ち豊かな資源に恵またことを背景に、巨大な生産力を持つア メリカの姿を概観し、関心を持つことができる。

◎鉱工業、農業の実際の様子に対して関心を持ち、次段階への意欲を持つこ とができる。



なぜ世界一の生産力を持っているのだろうか
農業生産力の現状を調べよう

2時間

 写真や統計資料によって、合衆国の農業生産の特色について、その規模と多様性から理解し、合衆国の農業が世界に大きな影響力をもつ理由を捉える。

・合衆国の農業生産力の大きさを、自然条件を生かしながら大規模に工夫して経営している農家の姿を通して理解させる。 ◎合衆国の農業の巨大な生産力を、適地適作と企業的な大規模経営の面から捉えることができる。


工業生産力の現状を調べよう《本時》

2時間

 ピッツバーグの鉄鋼業の成立と変遷を題材に、景観写真や統計資料によって、立地条件とその変貌を追究していくことを通して、合衆国の工業の分布と成り立ちについて理解し、工業の変化の様子についてとらえる。

ピッツバーグにおける工業について、環境条件を生かした原料立地型の製鉄の町であったが、製品需給の変化、施設・技術の老朽化、海外原料の低いコスト、大気汚染、エネルギー革命や、付加価値等の諸条件から衰退し、新たに化学・薬品の町へ変容を遂げている都市であることを資料から追究していく。また、これがアメリカ合衆国の工業の変容の姿に重なることを理解する。

 

・景観写真の読み取りからピッツバーグに関心を持たせ、そこで製鉄業が立地発展した理由を各資料から多面的に捉えさせる。

・好条件が整っていたのに衰退した事実から、生徒の思考に転換を与え(揺さぶりをかけ)て、立地条件が社会状況の変化に伴って、利点でなくなったことを追究していくことを通して理解させる。

◎製鉄の町ピッツバーグに関心を持ち、製鉄業が立地、発展、衰退していった 変化を、継続して追及していくことができる。

◎景観写真からより多くの情報を探しだし、資料として有効に活用していくことができる。



アメリカ合衆国が抱える問題は何だろう

2時間

・銃社会の事件、日本との貿易摩擦を事例に取り上げ、具体から合衆国の問題点に関心が持てるようにする。 ◎合衆国の抱える問題点について感心を持ち、現在の様子を捉えることができる。

(2)本時案
1)本時の主眼
 経済力の大きい合衆国の特徴を工業面から追究しようと考えている生徒たちが、地図と景観写真の読み取りからピッツバーグの産業を推測していくことを契機に、ピッツバーグに製鉄業が立地発展してきた理由を資料から調べ、多面的に考えることができる。
2)本時の位置 《全8時間扱いの中第5時》
 <前時>アメリカ合衆国の農業生産力が世界的に影響力を持つことを学習した。
 <次時>学習問題「どうしてピッツバーグの製鉄業は衰退してしまったのだろうか」を追究し、ピッツバーグが変容してきた理由と現在の姿を理解し、合衆国全体の工業変化の様子に転移させて理解する。
3)指導上の留意点
導入での景観写真の読み取りには時間を確保して、グループ内で自由に意見交換ができるようにする。河川交通の利用と建築物の汚れに気がつけない場合、補助資料として別の写真を提示する。
個人追究の場面では、自分の根拠とした資料を明記し、発言でも触れていくよう指導する。
4)学習活動略案

学 習 活 動 支   援 評 価 時間

 
 
 

1 地図、写真をよく観察する。
(4人グループ毎)
2 教師の発問「ピッツバーグではどのような産業が発達しているのだろう」に対して、グループで意見を出し合いながら考える。

 

 

 

 

 

 

ねがい:どうしてピッツバーグで製鉄が発展したのだろうか知りたい。

○各グループへ

資料A:イラストマップ、資料B:建物の壁、資料C:石炭運搬船を配布し、よく見るように指示。質問を受ける。

・机間巡視。質問が出たら適宜解説する。
・掛図を用いてピッツバーグの位置を知らせ、地図帳で確認させる。
・資料Bの壁の汚れに着目させる。

「ピッツバーグではどのような産業が発達しているのだろう」を掲示。グループで話し合わせた後、発表させて、考えさせる。

・3枚の資料を関連付けて考えるように指示。資料Bの壁に着目させながら、写真資料D「煙の町」、E「転炉」(OHP)を提示し、製鉄業に気づかせていく。
・ピッツバーグが製鉄の街であることを板書、確認。

○鉄の原料および鉄ができる過程を、資料G「鉄ができるまで」(OHP)によって簡潔に解説する。

◎発問「ピッツバーグの製鉄業について疑問に思うことありますか」で疑問に思うことを発表させる。

○各資料を関心を持って読み取ろうとしていたか。グループでの話合いの様子、発言から評価する。

 

 

 

 

 

○景観写真の限られた情報から、背景にある産業の様相を考えようとすることができたか、話し合いの様子・発言から評価する。

10

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15


 
 
 

3 ピッツバーグで製鉄業が発展した理由について資料を使って調べ、学習カードにまとめる。

◎どうしてピッツバーグで製鉄業が発達したのだろうを掲示。追究資料を配布し個人追究をさせる。
・学習カード、追究資料を配布。
・机間指導で、多面的に捉えている意見を発言するよう促す。

○調べた結果の発表をさせる。

○理由について「原料」・「交通」・ 「用地」・「労働力」の観点から調べ、まとめさせる。板書も4観点からまとめていく。

○製鉄業が立地発展した理由について、原料、交通、労働力、用地に着目して追究しているか、学習カードの記述や発言から評価する。 20

 
 
 

4 グラフ「合衆国とペンシルベニアの粗鋼生産の推移」からわかること・疑問に思うことを発表する。

 

ねがい:どうしてピッツバーグの製鉄業の地位は下がってしまったのだろうか知りたい

資料H合衆国とペンシルベニアの鉄鋼生産の推移を提示し、グラフからわかること・疑問に思うことを発表させる。・生徒の反応が鈍いときには、補助資料B製 鉄工場の写真を提示し、すでにその工場はないこと、跡地が更地やショッピングセンターに 変わっていることを紹介する。

どうしてピッツバーグの製鉄業は衰退してしまったのだろうを掲示、学習カードに自分の予想を書かせる。数人を指名発表させる。

○学習カードへ本時の感想を記入させる。

○衰退してきた事実に驚き、意欲的に理由を考えようとする意欲が持てたか、学習カードの予想の記述や感想から評価する。 15

3 主な授業の概要 (場面と考察)
1)イラストマップと景観写真を見ている導入部
写真6 かつての労働者たちの集合住宅
生徒:「山がある。平地もある。」、「川がある。」、「高いビルがたくさんある。」「(地図帳を見ながら)ここはどこですか。」
教師:「場所を教えよう。ピッツバーグです。」(掛図で位置を示す)
教師:「今日はこの地図と写真から『ピッツバーグではどのような産業が発達しているのだろうか』考えてもらいたい。」
生徒:(これ普通の船かな。)、(車を載せる船かな。)(決定。輸送船だ。大きな川を輸送船が通っているんだ。)(これは近代的な家だ。マンションかな。)
教師:「地図と写真を一緒に見て考えてください。」、「グループの中で出た意見を出してもらおう。」
生徒:「工業。自動車工業」
教師:「どうしてかな」
生徒:「道路が多いから」
生徒:「周りが山に囲まれているから、農業が発達しているかもしれない。」
生徒:「大きな川があるから、機械工業があって、船で送っている。」
《考察》
景観写真の読み取りの授業にまだ慣れていない生徒たちにとっては、イラストマップと写真をじっくりと読み取る時間を確保し、学習カードへその記録を残させることが必要であった。
漠然と写真を見るのではなく、地図の中に2枚の写真を意味付けようとしたり、自分なりに関連付けて捉えようとしたりする姿勢が見られた。

2)補助資料が提示され、製鉄業に気づかせていく場面
写真7 授業風景
教師:(OHPを提示)。「飛行機から撮られた写真です。これと、写真の建物がすごく関係があるんだけれど」
生徒:(すごい煙だ)、(煙だらけだ)
生徒:「煙が入ってこないように、低いところに窓がある」
生徒:「上のほうが黒っぽくて、低いところに窓がある。」
生徒:「窓から出た煙で、上のほうが黒っぽくなってきている。」
《考察》
後から提示した製鉄時代の写真によって、煙に何かあることを感じ取り結び付けて考えようとしている。
製鉄業についての知識がなく、また石炭を知らないため、製鉄と石炭と煙が思考の中で結びついていない。

3)追究資料から調べた結果を発表しあう場面
生徒:「用地についてですが、資料3からピッツバーグの南側に工場が広がっている。工場が全部川に沿っている。」
教師:「面白いね。」
生徒:「用地について、工場は川の曲がったところにある。」
生徒:「川の近くに工場が多い。さっき見た地図で周りは山地だったけれど、川の近くに平らなところが多いからだと思う。」
生徒:「工場が川に沿って作ってあるから、川を使って送っている。交通に便利だから。」
生徒:「運河や河川などが、広がっているので、輸送に役立つ。」
教師:「何を運ぶの」
生徒:「製鉄業の原料。・・・ 鉄鉱石や石炭。」
生徒:「川だけではなくて、主要ハイウェイなども伸びている。鉄道もあるし、トラックでも輸送できる。」
教師:「原料についてはどうでしょうか。」
生徒:「資料にメサビ鉄山、アメリカ最大のっていう、があるし、周りにも炭田がある。」
生徒:「アパラチア炭田が広がっているので、原料に恵まれている。」
生徒:「五大湖の近くにあるから、水にも困らない。」
《考察》
導入部での地図と資料を結びつけて、立地した理由を捉えている。
製鉄業が大変盛んであったことをグラフから理解できていたので、資料から意欲的にその理由を追究することができた。

4 授業の評価
 景観写真から見えるものから見えないことまでを読み取っていく活動は、まだ生徒たちが慣れていない事もあって、最初はかなり抵抗があった。が、「勉強していくうちにこういうことが関係しているんだ、こうやって発展してきたんだと言うことがわかっていい勉強になった」との感想のように、地域の特徴を捉えていく一方法として位置付けていくことができる。今後も一枚の写真に説明をつけたり、数枚の写真を関連付けてストーリーをつけたり、グループ毎別の写真を材料にして考え合ったりする活動などを位置付けることによって、写真を有効な学習材として活用していきたい。

5 参考文献
志村 喬 1999「ピッツバーグの産業構造変化と都市再開発」上越教育大学米国理解プロジェクト『米国理解のための教材開発研究 米国理解を深める社会科教材の開発 第1集』
釜田 聡 1999「中学校社会科公民的分野における『写真』の教材化について」前掲書
E. Willard Miller 1992 A Geography of Pennsylvania The Pennsylvania University Press
Jan Beatty 1997 Pittsburgh revealed Photographs since 1850 Carnegie Museum of Art
金田重喜編著 1993 『苦悩するアメリカの産業―その栄光と没落・リストラの模索―』創風社
桜井明久 1999 『地理教育学入門』古今書院
榎本康司 1996 「工業の見方・考え方」井上征造・相澤善雄・戸井田克己編『新しい地理授業のすすめ方 見方考え方を育てる』古今書院
戸井田克己 1999 『地理的見方・考え方の基礎的考察』 前掲書


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