小学校5年生 社会科
「資源を生かし、環境を守る」
〜アメリカにおける環境保全と資源の有効活用について〜
上越教育大学・院 社会系M1
(上越市立南本町小学校) 冨永 浩文

1 はじめに
(1)新学習指導要領との関係
 本実践は、小学校5年生社会科、国土と環境についての学習を、環境保全の視点からアメリカ合衆国との比較のもと発展的に行おうとするものである。 国土と環境についての学習には、その目標の一つとして、「環境の保全の重要性について関心を深めるようにするとともに、国土に対する愛情を育てるようにする」とある。また、内容として「国土の環境が人々の生活や産業と密接な関連を持っていることを考えるようにする」と記されている。すなわち「人々が国土の自然環境に適応しながら生活や産業を営んでいることや、国土の環境を守り健康な生活を維持・発展させていくために公害を防止すること」、さらに、「(資源の保全・育成につとめていることを手がかりにして、)国土の環境と人々の生活や産業との関わりを具体的に考えることができるようにすることである。」「 」は学習指導要領から( )は筆者による。
 国土と環境に関わる学習についての目標、内容は、現行の指導要領のそれと大きな変化はないが、今日の地球規模での様々な環境問題を深刻に受け止めていることがわかる。また、そうした問題に対し小学校レベルからの意識付けをはかり、国民一人一人の協力の大切さを自分自身や自分の生活との関わりでとらえさせようとしていることもうかがえる。
 一方、国際化、国際理解の視点から、5年生では農産物や水産物の輸入、工業原料の輸入と製品の輸出といった、貿易を通した外国との結びつきについて学習することになっている。しかし、それだけにとどまらず、国土と環境についての学習においても、他国との比較を通して多面的に追究することが大切であろう。歴史や文化、自然環境の異なる国で生じている環境問題、環境保全のために行われている様々な取り組みについて、共通点、相違点を理解し、そこからもう一度環境保全について我が国社会、そして、自分自身の生活のあり方を問い直すことが大切であると考える。
(2)教材化の意義や教師の教材観
 環境保全のための様々な取り組みについて、農業、工業といった産業面及び、人々の生活面から教材化をはかる。特に、地理的条件において日本とは異質なアメリカ合衆国における様々な事例を教材化することによって、国を越えて普遍的に存在する環境問題とそれに対応した特徴的な保全策が明らかになるものと思われる。
 産業面では、日本とアメリカ合衆国の生産形態の違いを明らかにし、生産の結果生じる排出物の適正処理、有効活用の様子、また、地域の環境保全のための取り組みについて教材化したい。
 例えば農業では、養鶏業を取り扱う。二百万羽余りを飼育し鶏卵を生産する大規模な養鶏、そして、破卵しタンクで出荷するという形態の違い。こうしたことは、児童に鮮烈な印象を与える教材になろう。また、生産過程で生じた廃物(壊れてしまった卵の中身や殻など)を余すことなく家畜やペットの飼料、畑作用の肥料として活用していることも環境に配慮した産業の一つとして重要な教材になると考える。
 工業では、製鉄の町として栄えたピッツバーグを取り扱う。スモーキータウン(シティー)として呼ばれ、昼でも灯火を灯さねばならないような空気、魚一匹住むことができないような河川といった劣悪な環境にあった街が、現在のような美しい川と緑豊かな街に変化したこと、そして、その間に市や企業で行われた様々な取り組みは、日本の公害学習との関連で扱える、環境を変えた工業の街として有効な教材になると考える。
 一方、生活面では、日本とアメリカの市民の立場での居住、消費、排出に関する価値観の違いを明らかにし、景観保護、ゴミの適正処理の仕組みやリサイクルに対する取り組みの様子等を教材化したい。特に、100年以上もの年輪を持つ住居が並ぶ街並み、建て替え新築ではなく、リフォームして住み替える価値観、徹底した分別収集、リサイクルの取り組みなど、日本の生活と比較し、児童自らのくらしを考える上で、有効な教材となると考える。

2.授業構想
(1)授業の意図
 児童は、本単元まで、主に農業・水産業といった食料生産に関わる学習と主に近代重工業、伝統工業といった工業生産に関わる学習を行ってきている。そして、それぞれの学習において環境との関わりや環境への配慮が重要であることを学習してきている。
 本単元は、そうした学習を基盤として、国土と自然の様子について、環境保全の立場から学習することにする。その際、日本のみならず、アメリカ合衆国の事例を比較対象として取り扱うことにより、地球規模での環境問題の深刻さや異なる文化、伝統、自然の中での特色ある環境保全策について理解させたい。そして、アメリカ合衆国といった他国の様々な立場の人々の取り組みの例を学習することから、改めて自分の国の自然環境、及びその保全のあり方について考えるとともに、自らの生活のあり方についても考えることができるようにしたい。
 ただし、日本と取り上げた国、すなわちアメリカ合衆国との差異に固執するあまり、アメリカ合衆国の特徴的な地域、事象を一般的なものとしてしまわないように留意したい。教材化する地域、対象ともアメリカ合衆国の一部、或いは一例であり、それをもってアメリカ合衆国の象徴とすることはかえってアメリカ合衆国に対する偏ったイメージを持たせることにもなりかねないと考える。指導の際には、アメリカ合衆国のある地域で行われている環境保全の取り組みの一例として取り扱うのみにとどめるようにしたい。
(2)指導計画
 一次 こわされる世界の自然
  1時 失われゆく世界の資源 2時 様々な環境はかい
 二次 資源を生かし、環境を守るための努力
  1時 日本で行われている取り組み 2時 アメリカで行われている取り組み(本時 60分)
 三次 自分たちにできること
  1時 自分たちにできること 21世紀の理想
(3)本時のねらい
 ○アメリカ合衆国の農工業や市民生活について調べ、日本のそれとの比較のもと特徴に気づくとともに、環境保全のための人々の工夫や努力について理解することができる。
(4)本時の指導(60分)

学習活動(分) ○教師の支援 ☆資料 評 価
・アメリカの国の位置・国土の様子をつかむ。

◎課題をつかむ。(5)
☆世界地図、アメリカ全図

○日本と比較できるようにする。
・アメリカの位置と広さ等についてつかむことができたか。
 
アメリカの人々の環境を守るための取り組みについて調べよう。
 
・養鶏農場の環境に配慮 した生産の様子ついて調 べる。(15)

・製鉄で栄えた都市の公害問題と環境再生への取 り組みを 調べる。(15)
☆養鶏農場における生産の様子及び排出物の再利用について写真及び資料

☆ピッツバーグ市の昔と今の写真

☆市や製鉄業者の環境保全のための取り組みの資料
・生産方法の違いや排出物を少なくする工夫を理解できたか。

・公害で汚れた町の様子が現在の美しい町に変わる上での努力や苦労がつかめたか
・人々の生活とごみの処理、リサイクルの様子について調 べる。(15) ☆古くからの住居が建ち並ぶ美しい街並みの写真及び資料

☆ゴミ箱の様子やゴミの排出、分別や回収の様子の写真及び資料
・自分たちの町の家や街並みごみ処理の様子と比較しながら生活する上での価値観の違いやごみ処理の工夫をつかめたか。
・アメリカの産業、市民生活における環境保全の取り組みをまとめ、感じたことを書く。(10) ○メモや資料をもとに、学習の感想とこれからの社会や生活のあり方についてポイントを絞って書くよう支援する。 ・アメリカの環境保全の取り組みから日本との比較で感想をまとめたり、これからの自らの生活を考えたりすることができたか。

4.授業の実際(実施場所 糸魚川市立糸魚川東小学校 5年1組 実施日 平成11年9月17日)
(1)導入
 まず、導入ではアメリカ合衆国についての地理的な理解を図るために、世界全図とアメリカの地図をもとにアメリカの位置、広さ、人口等を日本との比較のもとクイズ形式で学習を進めた。また、本時で取り扱う地域の位置も確認した。

(2)課題の設定
教師:広い国土のわりに人口はそれほど多くないアメリカ合衆国には、環境問題はあるんだろうか。
児童:日本ほどの問題はないと思う。/工業は発達しているからきっと公害問題はある。/ニューヨークのような大きな都市ではゴミの問題とか空気の汚れとかがある。(農業に関する答えはなかったが、こうした児童の反応を受け)
教師:アメリカ合衆国の人々の環境を守るための取り組みについて調べよう。(課題設定)

(3)展開(追究)
 追究の過程では、主にOHPによる写真資料を提示し、児童にそれをじっくりと見、読みとりをさせた。そして、驚き、気付き、疑問に思ったことを自由に発言させた。教師は、児童の発言を受け、その都度説明を加えたり、農業、工業、生活それぞれで自作資料により補足していくことにした。
1)ゴールデン・オーバル・エッグズの生産と環境に配慮した取り組み
写真1 破卵し黄身と白身を分別する行程
写真2 保冷庫で貯蔵後タンク。ローリーにより出荷
写真3 殻を粉砕しトラックに積載、農家へ
 ここでは、最初に養鶏場の全景及び看板の写真を提示し、何を生産しているところかを予想させた。キノコや温室野菜、乳牛や肉牛、豚、ニワトリといった児童の予想を受け、教師は、そこが40戸の農家が共同で経営する養鶏場であることを説明し、児童に共通理解を図った。(以下、その後の概要)
児童:何羽くらいいるんですか。(全体に返すと児童は思い思いに数を予想し答えた。)
教師:実は二万羽もいるんです。2万羽のニワトリから一万五千個もの卵が毎日生産されているんですよ。生産は、コンピューターで管理されているそうです。(皆一様に驚きの声を上げていた。教師は続けて破卵行程の写真1を提示。)ここでは何をしているのでしょうか。
児童:卵を洗っているんですか。(洗った後の行程と説明。)/男の人が卵を検査しているんじゃないですか。(何の検査?)汚れていないかとか、割れていないかとか。
教師:実は卵を割っているんです。(不思議がる児童)アメリカでももちろんみんなが普通買うような卵の形でも売っているんですが、この養鶏場では卵の中身だけを黄身、白身に分けて出荷しているんです。(児童驚きの声)
教師:次に出荷の仕方を考えましょう。(写真2を提示、写真を見た児童から、「トラックだ。」とすぐに答えが返った。)
教師:一日にこのタンクローリーで何台分くらい出荷されると思いますか。3台分だそうです。タンクの中身は、加工工場で缶詰にされたり、乾燥されて粉にされるそうです。
 生産から出荷に至る過程を児童にとらえさせた後で、教師は課題に立ち返らせた。
教師:これだけならば課題とは関係ないね。この養鶏場では、環境のためにどのような取り組みをしているのだろうか。
児童:においを防ぐ工夫をしている。/鳴き声を外に出さない小屋にしている。/糞を捨てずに肥料にしている。(殻に着目する意見は残念ながらなかなか出てこなかった。)
教師:他にこの養鶏場でいらないものはないだろうか。
児童:殻だ!卵を洗った水もいらない。
教師:(黙って写真3を提示)
児童:何か白いものが出てきている。/やっぱり殻だ。
教師:一日に一万五千個生むということは、それと同じだけ殻が出るということですね。この養鶏場のゴミですね。このゴミ、どうするんでしょう。
児童:カルシウムがあると聞いたことがあるのでえさにするんじゃないですか。/土に埋めても大丈夫なんじゃないですか。/殻も売るんだと思う。
教師:ここでは、殻をくだいて出荷し、それが無料で農家に配られ肥料として畑作に使われるそうです。製品として出荷できない卵も出荷され、粉にされて家畜やペットのえさになるそうです。卵を洗う水は、4回リサイクルされて使われ、使い終わるときちんと処理されるそうです。(さらに、資料を配付し、ポイントを振り返らせた。)
2)製鉄の町ピッツバーグの環境保全の取り組み
写真4 ピッツバーグ初の公共プール
写真5 写真を見ながら意見を発表
教師:(写真4を提示)これは何の写真でしょう。
児童:海ですか。/遠くに工場の煙突が見えます。何か英語で書いてあります。/なんて書いてあるんですか。/写真が古いせいかもしれないけど汚い感じがする。
 ここで、ピッツバーグの町の位置を確認し、製鉄業の特徴や盛んになった経緯について説明した。そして、再び写真に戻り児童の疑問や感想に答えた。
教師:これは海ではなく川です。海のないピッツバーグで初めてつくられたプールです。煙突が見えますが、製鉄の町ですのでたくさんの製鉄所があって、黒い煙や炎があがっていました。その炎の明かりは遠く80q先からも見えたそうですよ。スモーキー・シティー・ビーチはどういう意味だろう。(全体に返した。児童は、「ビーチはよく使うから海岸だ。」と容易に答えた。)スモーキー・シティーとは煙の町という意味です。
児童:(すぐに)公害の町というかな。
教師:この町は工場から立ち上る煙で昼でも電灯をつけなくてはならなかったそうです。洗濯物も外に干せなかったでしょうね。また、川も工場で使った水や家から出る水で汚れて、魚も住めなかったそうです。
 次に、現在のピッツバーグ中心部(ゴールデン・トライアングル)の写真を提示した。児童は昼間の写真のビル群、アレゲニー、モノガンヒラ、それらが合流するオハイオの三つの川、そして、豊かな緑に驚きを見せていた。また、同位置からの夜景の写真に対しても「きれい。」と賞賛していた。(なお、ここでは前年度志村氏の記録写真もホームページから使用した。)さらに、教師からは、「ピッツバーグは、今ではアメリカの国の中でも、指折りの住みやすい町として知られているんですよ。」と付け加えた。なお、ここでは、現在の製鉄所の外観、及び、高炉の写真をも併せて提示し、なおピッツバーグでは製鉄が行われていることを印象づけた。
 こうして、過去と現在を対比して扱った後、ピッツバーグが美しい町になった経緯を予想させた。
教師:ピッツバーグの町が現在のような美しい町になるためにどんなことをしてきたんだろう。
児童:人々が工場を訴えたんじゃないか。/たくさんの人が病気にかかったので市役所の人がきまりを作ったんじゃないか。/工場がつぶされたかよそへ移っていってしまったのかもしれない。
 それぞれの予想を一応評価しながら、聞き取り及び、会社パンフレット等により知り得た範囲で資料化したプリント(図1)を配布し予想を確かめさせた。

図1 学習資料より抜粋
図2 学習資料より抜粋(表は前年度川村氏の記録より引用)

3)人々の生活と環境を守るための取り組み
教師:最後に人々のくらしの中の環境を守る取り組みを考えてみよう。
(ピッツバーグの住宅地の写真を提示し、日本の住宅、街並みとの比較を行い、住環境に対する価値観の違いをとらえさせ、古いものを大切にしようとする気質を理解させた。詳細略)
教師:アメリカの人々はくらしの中のゴミをどのように処理しているか、資料を見て考えてみよう。
教師:みなさんの町と比べてちがうところはどこでしょう。
児童:生ゴミなどはもやすのに、埋め立てられると書いてある。/家の前に出せるみたいですね。/プラスチックのボトルは(ペットのことだと思うけど)、リサイクルされているんだ。/種類ごとに袋がちがうようだ。/ゴミの収集日が週1回となっているけど、ゴミが少ないのかな。/ゴミを回収してもらうために、お金をはらっています。
教師:同じ所や似ている所はありますか。
児童:(糸魚川市と同じように)分別されている。/リサイクルなども盛んになってきているようだ。
教師:それでは、写真を見て確認しよう。(家庭でのゴミ分別の様子、家の前に出されたゴミの様子、街路やオフィスのゴミ箱、ゴミ収集車、資源物回収の様子、前年度川村氏の記録からも使用)

 児童は、家の前に出せる利便性、リサイクルとすぐわかるゴミ箱の機能性、そして、街の環境に融合し、管理の行き届いた様々なゴミ箱の美観に感嘆していた。また、二つのホッパーを備えた、デュアル式収集車の工夫などにも驚きの声を漏らしていた。
写真6 家の前に出されたゴミ(カーブサイド・コレクションと言う)
写真7 家庭におけるゴミ分別用システム・キッチン

(4)終末(児童の感想から)
写真8 オフィス内のコピー紙専用ゴミ箱
 農業、工業、そして市民生活における環境に配慮した取り組みについて学習した後、児童に日本や自分たちの生活との比較のもと感想を書かせた。

K児童
 アメリカでは、とても環境を守る努力をしているんだなあと思いました。卵のからや食べられなくなった卵をひ料にしたり、ペットフードにしたりしていて、日本ではやっていないリサイクル方法だと思いました。また、日本では新しい家や家具などがたくさんありますが、古いものを大切にしているところが偉いと思いました。日本もアメリカの人たちのよいところを学んで、リサイクル活動なども一歩一歩進められたらいいなと思いました。

W児童
 アメリカは国が広いので、環境、自然を大切にしなくてもいいと少し思っていました。でも、たくさんの人たちが協力しあって町を守っていることがわかりました。一番おどろいたのは、昼でも電気をつけなければいけないほどの公害の町が、すごくきれいな町になっていることでした。日本とはやり方がちがっていても、みんな自然、環境を大じにしていてすごいなあと思いました。

5.教材化、実践を終えて
 本教材化、及び実践は、5年生の産業学習を基盤とし、環境保全の立場からまとめる、発展させるとともに、児童にもう一度実生活に立ち返って自らの生活のあり方を考えさせようとするものであった。その際、日本の事例に止まらず、日本とつながりが深いアメリカ合衆国の事例を取り上げ、比較しながら学習することにより、産業及び生活と環境保全との関係について多面的に追究することができたと考える。児童も、自然、歴史、文化の異なる国の取り組みから、改めて日本、そして自らの生活について見つめ直すことができたと考える。一方で、アメリカ合衆国の取り組みを取り扱った本時の活動構成、時間設定等に無理があった観もある。主に、資料の量、時間的制約からこうした形を取ったのだが、グループごとに複線的な追究を行わせたり、農業、工業、生活とゴミといった各単元それぞれに学習を位置づけたりした方がよかったのではとの指摘も受けた。今後の課題としたい。

<参考文献・資料>
*昨年度の記録はhttp://www.juen.ac.jp/shakai/beinichi/にある。本実践をする上で示唆を与えてくれた。
文部省(1999) 『小学校学習指導要領解説 社会編』 日本文教出版  174p.
上越教育大学米国理解プロジェクト(1999) 『米国理解のための教材開発研究 第1集』  105p.
佐島群巳 須田坦男(1986) 『「環境を見つめる」学習と方法』教育出版  163p.
CITY OF PITTSBURGH BUREAU OF ENVIRONMENTAL SERVICES: RECYCLING PROGRAM INFORMATION


トップへ 目次へ 次へ