小学校6年生社会科
日本と関係の深い国アメリカ
〜アメリカから見える日本〜
上越市立春日小学校 長谷川 明寿

1 はじめに
(1)新学習指導要領との関係
○関連する目標
 日常生活における政治の働きと我が国の政治の考え方及び我が国と関係の深い国の生活や国際社会における我が国の役割を理解できるようにし、平和を願う日本人として世界の国々の人々と共に生きていくことが大切であることを自覚できるようにする。
○関連する内容
 世界の中の日本の役割について、次のことを調査したり地図や資料などを活用したりして調べ、外国の人と共に生きていくためには異なる文化や習慣を理解し合うことが大切であること、世界の平和の大切さと我が国が世界において重要な役割を果たしていることを考えるようにする。 ア 我が国と経済や文化などの面でつながりが深い国の人々の様子
イ 我が国の国際交流や国際協力の様子及び平和な国際社会の実現に努力している国際連合の働き

【下線部分は新学習指導要領で付加された箇所】
 日本とアメリカは政治、経済、文化などあらゆる分野において密接な関係にあり、学習指導要領の内容から考えてもアメリカを取り上げることは意義深いといえる。また、アメリカと日本は文化の違いだけでなく、互いの文化や産業を取り入れながら変化融合させ、生活に浸透させている。その点で子供にとっても身近な生活に照らし合わせて考えることができる。アメリカについて教材化することの魅力は大きいといえる。
(2)教材化の意義・視点
 アメリカは日本にとって最も関係の深い国の一つである。たとえば、アメリカと日本との貿易が両国にとって非常に密接な関係にあることは各種の統計資料等から容易に理解できる。しかし、アメリカの経済・文化がどのように自分の生活に浸透しているか。逆に日本の経済・文化がどのようにアメリカの中で息づいているかを問題意識をもって具体的に探る経験は小学校6年生にとってはほとんどないと考えられる。そこで、普段は気がつかないが生活の身近なところに実はアメリカに根付く物が多くあること。また、逆にアメリカの中に日本の文化や経済が再発見できること。それらのことから、単に貿易面での結びつきでなく日常レベルで互いの文化が密接に結びついているがわかる。その点を児童にとらえさせることが教材化の重要な視点である。また、アメリカの中の日本について追求していくことは、アメリカという国が他国の文化をどのように取り入れているかを探る視点にもなりアメリカ理解の上でも必要な点であると考える。
 人・物・情報がグローバルに動く現代社会において、外国の人と生きていくためには特別な異なる文化や習慣を理解するだけでなく、文化と文化が融合し相互交流している実際をつかませること。つまり、文化の違いだけでなく文化の交流や融合を見つめることがこれからの国際社会にとってひとつの重要な見方になると考える。 具体的な方策として、今回の訪米の中で以下を教材化の視点として調査を行った。
アメリカの中に見られる日本文化や日本製品を調査
(アメリカの中で見られる日本文化や日本製品、例えば衣食住に関するものなど)
アメリカ人が日本及び日本人についてどんな考えをもっているか聞き取り調査
(現地のアメリカ人への簡単な質問調査。ホームステイでの聞き取り)
 児童のアメリカに対する予備知識はかなりステレオタイプ化されており、アメリカ人は白人である。毎日肉を食べている。大きな家に住んでいる。銃をもっているので怖い。犯罪が多い。自由な国である。と考えている子が多い。反面、アメリカに行ってみたいという子も多く、アメリカに対する期待感も大きいといえる。このような一面的理解とそこからくるアメリカイメージを崩し、アメリカが日本の文化や経済と密接に結びついている様子を提示しアメリカに対する見方を深めさせたい。
(3)ねらい
 日本の中でのアメリカに関することを調べたり、アメリカの中の日本文化・日本製品を調べることで、アメリカと日本が日常の生活レベルにおいても非常に密接な関係にあることを理解させたい。従来はアメリカとの貿易関係の強い結びつきを強調するあまり、経済関係の強さや問題のみが焦点づけられ生活レベルにおいてのアメリカと日本の交流の姿が見えてこない場合が多かった。ここでは、アメリカでの日本製の自動車、電気製品だけでなく、日本のアニメ商品や寿司バーなど多方面で日本文化、製品がアメリカで人気を博している事実を提示するなどしてアメリカでも日本の生活や文化が息づいていることをつかませたい。また、日本文化に興味関心のあるアメリカ人の意見を提示し異文化に敬意を払い尊重しようとする態度から国際交流の実際をつかませたい。

2 学習活動の構想(単元構想)
 授業のねらい ・アメリカと日本の貿易での強い結びつきをとらえ、日本の暮らしの中でアメリカ文化や製品がどのように取り入れられているか調べたり、アメリカの中で取り上げられている日本文化や製品について調べたりしながら、アメリカと日本の結びつきの深さに気がつき、両国の発展を願い互いの文化を尊重する態度を育てる。
 日本と関係の深い国アメリカ 〜アメリカから見た日本〜 (全3時間)
指導計画
第1時課題日本とアメリカはどんな結びつきや問題があるのだろうか。
アメリカは日本の貿易の最大の相手国であることを資料から調べる。
アメリカの大規模農業と日本に輸入されている穀物の関係を調べる。
アメリカの製鉄業と日本の貿易との関係を調べる。
アメリカの農業と工業における貿易摩擦は現在どうなっているか調べる。
アメリカ国内の日系企業の種類や形態はどんなものか調べる。
第2時課題日本の中にどんなアメリカ文化やアメリカ製品があるだろうか。
衣食住や娯楽の中でアメリカに関係するものを調べる。
第3時課題
(本時)
アメリカの中に日本文化や日本製品はあるのだろうか。
アメリカの生活の中で日本文化が取り入れられているものを現地資料から調べる。(日本食・日本製品など)
現地アンケート調査の結果から分かったことを調べる。
アメリカ人の日本や日本人に対する考え方を話し合う。
これからのアメリカと日本のよりよい関係について自分の考えを書く。
本時の展開

主な学習活動 主な学習活動 写真・資料
アメリカの中の日本を探そう。アメリカの中には日本文化や日本製品にはどんなものが見られるだろうか。予想してみよう。

・アメリカの中の日本文化・日本製品を予想する。

 

 

・写真資料からアメリカの中の日本について話し合う。

・アメリカとの貿易関係から推測させる。

・日本の中のアメリカ文化から対比して衣食住などの視点に気づかせる。

・なぜ、日本に関係するものがアメリカでも見られるのか理由も考えさせる。

・写真についてアメリカと日本のかかわりについて説明する。

・アメリカの中の日本製品・日本文化の写真を黒板に伏せて貼っておく。

写真1  寿司バー
写真2  ポケモン
写真3  日本製自動車
写真4  日本製家電
写真5  国連平和の鐘
アメリカの中にある日本製品や文化と日本文化に興味をもつアメリカ人について知りアメリカについて考えたことを書こう。
・アメリカの中の日本文化や日本文化に関心を持つアメリカの人の様子を知ってアメリカと日本のこれからのよりよい関係について自分の考えを書く。 ・アメリカの人がなぜ日本文化に興味を持つのか考えてみる。自分は他の国の文化に興味をもっているか考えさせる。
写真6  日本文化に興味のあるアメリカ人家族

3主な授業の概要
 前時で、日本の中のアメリカ探しを行った。児童は衣食や娯楽、輸入品などの観点でカードに意欲的にまとめていった。食については、ハンバーガーをはじめステーキについて指摘する子が多く見られた。娯楽はハリウッド映画やディズニーランド、スポーツ面はバスケットやアメフト、野球を即座に上げていた。また、日本で見られるアメリカ製品としては牛肉やオレンジなどの食料輸入品の他に、コンピュターについてなど上げる子も見られた。この活動を通して「アメリカのものがたくさん日本に来ていて驚いた。」「普段気がつかないところでアメリカのものがたくさんあった。」「何だかアメリカにたよっているみたい。」などの感想が多く出た。日本の中にたくさんのアメリカが見られることを実感できた。そこで、逆にアメリカの中に日本に関係するものがあるかを投げかけ、次の時間はそのことについて調べていくことを伝えた。
 本時
教師「前の時間は日本の中でアメリカを探したけれど、今日はアメリカの中での日本を探してみよう。私がアメリカに行った中で日本に関係するものを探してきました。どんなものがあるか当ててください。」(拡大写真を裏返しにして黒板に掲示しておく)
A男「日本のアニメやゲーム、ドラゴンボール、プレステ、ポケモン!」
教師「その通り。ポケモンなど日本のアニメはアメリカでもすごく人気がありました。一枚目の写真をめくる。」
児童「あっーポケモンだ。」
写真1:アメリカで人気のポケモン
教師「アメリカのアニメも日本に入っているけれど日本のアニメもアメリカにたくさん入っているんですね。ドラゴンボールのアニメもテレビで英語に吹き替えられて放映されていました。」
B男「日本のゲームプレステやNintendo64もはやっていると聞いたことがある。」
教師「確かに日本のゲームソフトやゲーム機械がたくさんありましたよ。他にはどんなものがあると思いますか。」
C子「日本車だと思います。」
教師「どうしてそう考えたの?」
C子「日本からアメリカへの輸出品で日本車が多いから・・・・・。」
教師「大正解!そうですね。アメリカでは至る所に日本車が見られましたよ。なぜアメリカの人が日本車に乗っているかというと、日本車は性能がよくて故障が少ないから人気があるそうです。しかし、問題も起きました。アメリカの人が日本車ばかり乗っていると困る人はいませんか。」
写真2:アメリカを走る日本車
児童(しばらく考慮)
D男「アメリカの車が売れないで困る。」
教師「そうですね。実は10年くらい前に日本車をはじめとする日本製品がアメリカで売れすぎて、アメリカ国内の産業が衰えていくという問題が起きました。貿易摩擦の問題です。現在ではこのような貿易摩擦を解消するためにアメリカ国内で日本車の工場を作ってアメリカの人を雇ったり、逆にアメリカの車をどんどん日本に輸入することでこの問題を解消しようとしています。」
D男「そういえば、日本でもアメリカの車も見たことがあります。」
教師「最近ではアメリカで作った日本車を日本に輸入する自動車会社まであります。アメリカでは日本の工業製品は日本車だけでなく、ゲームやカメラの精密機械がたくさんありましたよ。この写真を見てください。店いっぱいに日本のメーカーの製品が並んでいすね。」
C子「本当だ。日本のカメラやビデオがたくある。」
B男「よく見ると日本のゲーム機もあるし時もあるよ。電気製品が多い。」
写真3:店頭に並ぶたくさんの日本製品
写真4:寿司バーで食事を楽しむアメリカの人
教師「たくさんの日本の製品で人気があるのウオークマンをよく見ましたよ。ウオークマンは実は英語ではありません。世界中で大人気になったので日本の製品の名前がそのままアメリカを含めた全世界で使われるようになったものです。」
教師「他にはどうかな。日本の中にはアメリカのハンバーガーやステーキなどの食べ物がたくさん入ってきていますが、アメリカの中に日本の食べ物があると思いますか。」
児童(何だろう。口々に梅干し、納豆、ラーメン、のり・・・・)
E子「お寿司かな。」
教師「正解!アメリカではかなり前から日本のお寿司が人気なんですよ。アメリカの人が好きなお寿司のネタは何だと思いますか。」
児童(とろ、いか、たこ・・)
教師「特にうなぎが人気があるそうです。それと、カリフォルニアロールといって太巻きの中にアボガドやサラダを入れた寿司も大人気でした。先生も食べましたけれど、これが結構おいしかったですよ。アメリカの人もお箸の使い方が写真のように上手でした。」
児童(食べてみたい。)
教師「他にも鉄板焼きや天ぷらがアメリカでも人気がありましたよ。逆に日本で食べられるアメリカの食べ物はどんなものがありましたか。」
写真5:国連本部にある『平和の鐘』
F子「ハンバーガーやステーキ。そういえばアメリカの牛肉をスーパーでたくさん見ました。」
教師「食物についてもアメリカと日本はお互いに交流が進んでいますね。牛肉だけでなく小麦や大豆もアメリカからの輸入が多いのです。」
教師「そのほかにアメリカで見られる日本に関係するものはあるかな。」
児童(何だろう。)
教師「それではこの写真を見てください。何の写真かわかりますか。何が見えるでしょう。このマークを見たことがあるかな。」
G子「日本の鐘」
教師「そうですねこれはアメリカのニューヨークにある国連本部です。その中に日本から送られた『平和の鐘』です。戦争の惨禍が再び起きないことを願って寄贈されたものです。この他に広島原爆の時の被爆したガラス片や着物も展示してありました。日本は唯一の被爆国として原爆のことを国連でもアピールしています。国連本部はアメリカにはありますがアメリカの国というわけではありません。たくさんの国代表が集まって戦争が起きないように話合いをするところです。国連ではアメリカや日本は世界中の様々な問題のために重要な役割を担っているのです。」
教師「最後の一枚の写真です。これはアメリカで先生が泊めていただいたデビッド(David)さん家族です。何か不思議に思うことはありませんか。」
E子「後ろに、日本の凧やこけしがあります。」
A男 「なぜ、アメリカの家族が日本のものを持っているのだろう。アメリカには日本の伝統文化がたくさんあるのかな。」
写真6:日本文化に興味のある家族
教師「この写真デビッドさん家族は日本文化に興味があるそうです。特に奥さんのキャロルさんは日本にも来たことがあって日本の絵や写真をたくさん持っていました。なぜ、日本の文化に興味があるかと聞いたところ、日本には古い歴史があり、東洋的なものがとてもミステリアスで興味がひかれるといっていました。デビッドさんはアメリカの原住民にもとても関心があってインディアンの文化についてもよく知っていました。」
H男「アメリカは日本に比べれば新しい国だから古い歴史にあこがれているのかな。」
教師「そうだね。そういうこともあると思います。それにアメリカは移民の国といわれていて世界中から様々な人種の人たちが集まって成り立っている国です。そこではいろいろな国の人と仕事をしたり文化の交流の場が多いので、自分たちと違う国の文化に関心を持ちやすいといえますね。」


授業後の児童の感想
私はアメリカの人たちがこんなに日本文化にあこがれをいだいていたりしてとてもびっくりしました。私たちにとってアメリカの人や文化について知りたいと思うようにアメリカの人たちも私たち日本のことを知りたいと思うのは、もしかしたら人間の本能ではないかな。私は自分でアメリカに行ってみたい、自分でアメリカのことを知りたい気持ちが大きくなってきました。
アメリカで日本の寿司や日本文化のこけしなどがあってびっくりしました。アメリカの人がうなぎが好きなんて驚きです。アメリカの人はお寿司やさしみなど生ものは嫌いだと思っていたけれど、私の予想とぜんぜん違いました。こんなに日本の物があるなんて・・・意外だったのは、日本の古い伝統にひかれている人がいたことです。お互いに違うものに興味を示しているので、とても仲がいい国だと思いました。国連で原爆のことを取り入れもう起こさないようにしていたことがよかったと思いました。
日本のゲームや車がアメリカにあることは予想がついたけれど、日本の伝統文化を好きな人が見られるなんて思ってもみなくすごく意外でした。その他でも寿司でアボガドの太巻きみたいな物はおいしいのかな?食べてみたいです。自分たちの国のものがアメリカであってうれしいような気がしました。
アメリカ人から見て日本は小さくて田舎にしか見えないと思っていたのに、日本に興味をもっていてくれる人がいるだけでとてもうれしいです。それと同時に日本に日本の文化が少なくなってきているのがちょっとはずかしいような気がします。
思ったより日本の文化があってびっくりしました。私たちも時々アメリカの食べ物を食べるけれどアメリカの人もお寿司が好きだと聞いて驚きました。テレビで「ポケットモンスター・カードゲーム」がアメリカでも人気と聞きました。私もアメリカに行ってみたくなりました。これから、アメリカとの交流をもっと深めてみたいです。
日本の中にアメリカに関係のあることがたくさんあったけれど、アメリカにも日本に関係のあるものがたくさんあってびっくりした。アメリカの歴史に比べて日本の歴史は長いので、アメリカの人にとっては確かに日本文化はミステリアスだと思います。僕もアメリカのことがもっと知りたくなりました。

4 授業の評価
写真7:アメリカの写真に興味を示す児童
 日本に関係することが貿易や経済の統計だけでなく日本製品や食や生活文化などの子供たちの生活にとっても身近な部分で浸透している様子を具体的に写真資料からとらえさせることができた。今回の授業から、アメリカが日本の文化や製品を取り入れていることからアメリカに対する印象が子供の中で変化していった。ステーキ・ハンバーガーだけでなく生の寿司が大好きなアメリカ人という他文化を上手に取り入れる国であることをとらえていった。さらに、「日本の文化が少なくなってきているのがはずかしい。」という記述を出した子もいたように、アメリカの中の日本を見つめる活動が普段の生活においての日本の文化について再考させる機会にもなりえた。トータルとしてアメリカが単一文化により構成された国でなく日本など多くの国の文化を受容、変化させている実態から「自由な国アメリカ」に対して子どもたちのアメリカへの関心が広がっていった。


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