小学校4年生 総合的学習
河 の 童
〜日米の川の特色〜
上越教育大学学校教育学部附属小学校 大竹 裕範

1 はじめに
(1)新学習指導要領との関係
 総合的な学習に時間の目標は2つある。一つは、「自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てること、2つは、「学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決探求活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようにすること」である。
 そしてこの学習の対象を限定せず、子供や学校の実態、教師の思いによって子供と共に活動をつくりだしていく形態を重視している。また従来の教育活動の内容を重視した学習ではなく、経験や思考を重視した子供の活動性を重視した教育活動を進めていくことをねらいとしている。
 従って本単元に関わる総合的な学習の時間では、目的を子供が自分で持ち、自分の方法をつくりながら問題解決していく姿をねらっている。教師側の姿勢としては「外国の様子を理解させたい」と願って、学習を構成するのではなく、子供達が今までやってきた問題解決の過程でその思考や解決の方法を広げるための一つの学習の場面として外国の事例を呈示し、そこから子供が感じ取った視点を子供自身が今までの経験をもとに広げ、活動をつくっていくものであると考えている。
(2)教材化の意義や教師の教材観など
 4年1組では、川を学習の対象とし川へ出かけ、川に身体全体で関わることから川のもつ姿を子供がそれぞれにとらえ、自分の経験と掛け合わせながら新しい活動を一人またはグループで作り続けていく活動を構成している。
 今までは、身近な青田川や関川に出かけ、川に入り水や河原でおこる出来事に積極的に関わってきた。このような活動を通して子供達は、川の姿をそれぞれにとらえ、自分の思いを作文や詩や、絵や、造形で表現しながら自分の思いを他人に伝え、また他人の思いを感じ取りながらそれぞれの川に対する考えを深めてきた。
 2学期は、源流調査から活動をスタートする。関川の始まりの様子を身体全体でとらえ、これから踏査する関川への思いを高めてゆく。そして関川との関わりを深めながら、一方で流域の川の調査を進めている小学校との交流を進めていく。こうすることで自分の思いを伝える活動が展開でき、他の学校の川への関わり方を感じ考えることができると考える。また外国の川の様子を知る活動を取り入れる。日本だけでなく外国の川の様子を知ることで、今までとらえてきた関川の姿をもとにその違いを明らかにしていく子供の姿が予想される。
 今回はアメリカのミシシッピ川をはじめとした流域の写真や利用のされ方を写した写真を使ってアメリカの川の様子を考える活動をしようと考えている。子供はその姿や利用のされ方の同じところや違うところをそれぞれに感じていく。そしてアメリカの川の様子を自分の感じ方で綴っていく。それを交換しあいながら、別の国の川の様子をそれぞれの視点でまとめていく。アメリカは国土も地形も日本とずいぶん異なっている。歴史も違う。そこに流れる川も身近な川にはない姿をたくさんもっていると考えられる。子供の視点を広げるには、より効果的な対象であると考えている。
 今まで見てきた身近な川と外国の川の様子を知ることが子供の中で自然に比べられていく。写真に写っている外国の川の様子がこれからの活動の思考の一つの考えになっていく。このように今までの自分たちの活動を比較できる学習対象をトピック的に子供に紹介することは、子供に新しい思考のきっかけを促すことになると考えている。いろいろな感じたことを出し合いながら、自分にとって「これはおもしろい」と言う事実をそれぞれにたくさん持つことが、学習のねらいである。
(3)ねらい
 アメリカの川の事実や願いを写真を通してたくさんみつけ、それを交換しあう。

2 授業構想
(1)主な学習内容
 総合の学習では、教えるべき学習内容を規定していない。そこにあるのは子供がその学習材にどのように反応したか、その反応から次にどのような行動をつくっていったか、またその学習材からどのような問題を見いだし、自分のものとしていったか、どのように問題を解決していったかという経験や過程を子供の姿で見つめていくものである。
 だから、ここまで知ってほしいとか、これを見付けてほしいことを子供に強いることなく子供が感じた事実をたくさん見つけられるようなたくさんの写真を用意していく。幸いに本時には、ピッツバーグから一人アメリカ人の子供を迎えて授業することが可能になった。彼の現地での川に対する意見を聞きながら自分の疑問や考えを彼の立場で聞き取ることができる。この活動で自分の思いをはっきりさせて今まで自分が思っていた川に対する思いを再確認していくのである、。そしていろいろな写真を見てコメントを書き加えていくことを通して、自分の考えを整理したり、他人の考えを知り自分の考えに生かすようにしていく。
 これらの学習場面で得た考えを子供が蓄積することが、後に川に出かけたときの自分の行動を支える大切な思考活動の糧になると考える。その子供にとっての新しい発見が多ければ多いほど、子供の活動は深まっていくと考えるのである。
(2)指導案 2時間

学習活動 主な支援
写真を1枚1枚見ながら、感じたことを写真の台紙に書いたり、付箋紙に書いていく。同時に、David君の写真に対するコメントを聞いて自分の疑問や意見をはっきりさせていく。
  (1時間)
付せん紙を整理しながら、感じたこと、考えたことをシートに書く。
  (1時間)
アメリカで撮影してきた川の様子の写真を台紙に張る。20枚用意する。
実物投影機で写真をスクリーンに1枚1枚説明を加えながら映していく。
壁面に大のばしにした写真を用意し、付せん紙も用意しておく。
シートの記述に関しては、付せん紙を写すのではなく、整理を通して感じたことを自由に記述するように話す。

 活動は主に写真のコメントとその写真のまわりで話し合う友達との関わり合いである。アメリカ人の子供にも同様の活動をしてもらうことで彼の意見もコメントとして写真に張られていく。子供はそれを見ながら、あるいはそのことについて話をしながら、自分と彼との川への想いの違いを確認していく。そして自分の今まで思い描いて生きた川への考えを振り返っていくのである。
 写真の情報は、主に川の外観、川から見た町の様子、川の利用のされ方、人と川との関わり方である。同じ川でもその環境の違いによって川の姿が異なる。今まで見てきた川の様子との違いに気付き、アメリカの川を考えていく。そしてアメリカの川の姿を自分なりにとらえ、それを言葉で記述していくのである。
 最後にシートに感じたことを自由記述していく。その記述から子供に写ったアメリカの様子を意味づけていく。そしてその思考の背景にある関川の姿をそれぞれに探っていく。子供が今までにとらえてきた関川への視点をとらえ、今後の活動の「子供にとってのテーマ性」を探っていきたい。その意味で、子供の目線をいったん外に(外国に)離して活動を構成する意味があるととらえている。

3 主な授業の概要
 最初に、次の順で写真を実物投影機で拡大しプロジェクターを使って大画面で見せた。そのとき、それぞれの写真の説明を一言ずつ話した。またピッツバーグに関わる写真についてはアメリカ人の子供にコメントをもらった。彼は日本語が話せないが幸いクラスに英語が話せる子供がいたので、その子供に通訳を頼んで、授業は進められていった。
 その後、教室の四方に置いたパネルに順番に写真を貼り、子供はそこに行って付せん紙でコメントを書いていった。以下は、それぞれの写真に付けられた主な子供のコメントである。
写真を見て付箋紙を貼る子供。感じたことをシートに書く子供。

1)ピッツバーグ昼の全景
たくさん木があってきれい。くねくね川。ビルがたくさん日本よりすごい。水が光っている。川の水が太陽に当たっていてかっこいい。弁当持ちで行ってみたい。アメリカはきれいだ。2つに分かれているから足みたい。山がとてもきれい。眺めがいい。

2)ピッツバーグ夜の全景
まぶしい。よく寝れるなあ。きれい。なんか火事があったみたいでぴかぴかしている。とっても日本よりも明るい。夜のまぶしさは強い。my friend lives there. まぶしいだけ。本物を見てみたい。光がすごい。日本のまわりと全然違ってきれい。

3)観光船
一度乗ってみたい。すごい船。日本の船と形とかが違う。船から落ちたら怖い。人がたくさんいて、船が大きい。混んでいて暑そう。乗って景色を見たい。乗って川を見てみたい。きれいな船。船で食事がしたい。いろんな人がいる。

4)観光船から見たスタジアム
すごい、ホームラン打てー。きれいだ、楽しそう。マグワイヤがいたなんてすごい。ドームがでかい。ドームに行きたい。大きな電光掲示板がある。おじさんは何を見てるんだろう。球場の近くに船がある。ホームランは川に落ちないのかな。

5)観光船から見た町並み
食事してみたい。なんか大勢乗っている。涼しそうだし、眺めも良さそう。船に乗りたい。船に乗ってみたい。ここでゆっくり遊びたい。旗がたくさん、とてもきれい。ビルがいっぱいある。橋を車で渡りたい。ここでティーでも飲みたい。とてもきれい。みんな川を見てる。

 ピッツバーグは、丘陵地帯にあり2本の川の合流地点を中心に町が発達している。昼と夜の街の姿を見ながら、子供は自分に住んでいる上越との違いを細かに見ていった。また川に観光船があることを知り、人々と川との生活を思い描いていく。

6)観光船から見た合流付近の公園
何を見てるんだろう。プールに入りたい。公園に行きたい。冷たそー。人がたくさんいる。行ってみたい。泳ぎたい。小舟が浮いている。みんなゆったり休んでいる。

7)観光船から見た川の全景
きれい。5種類ほどの色だ。まるで池のようだ。水の色が違う。ハワイの海みたい。ここの川は、沖縄みたいにきれいじゃない。空が不気味。どす黒いですよ。川幅がひろーい。ぎりぎりまで大きな道路がある。深そう。

8)観光船から見た運搬船
船に飛び乗ってみたい。船が大きい。2台の船でなんかつかれているみたいでヘン。なんかいっぱい運べそう。きれいな船。日本の橋よりでかい感じがする。荷物の船がいる。荷物を運ぶ船だが、乗ってみたい。あれは貨物船?。その船の中を見てみたい。

9)観光船から見た橋の全景
船に乗りたい。すごい広い川。船が来る。橋は結構長いね。橋の形が変でした。関川よりすごい広ーい。夜になったらもっときれいかな。夕日がきれい。橋がでかい。橋の上が半丸です。ドラエモンのぽっけみたいな橋ですね。とても深そう。空がきれいな水みたい。さみしい。

10)整備された滝の様子
めちゃきれい。おもしろい滝だ。流れが速そう。300という看板があやしい。比べものにならないくらいの橋だね。色が4色だ。見てみたい。流れ方が日本と違う。落ちたらこわそー。人工の滝でもきれい。なんか深そう。浮き輪に乗ってすべりたい。魚釣りをやってみたい。

 観光船から見える町並みはとても大きい。川幅が広く、川のぎりぎりにまで高架橋の道路が走り人々が合流地点の公園を憩いの場とし、球場などの娯楽施設が集まっている。また、運搬船の存在を知り、川が大切な交通機関になっていることに気づいていく。

11)段差を利用した船の連絡設備
最後の方しずみそう。変な感じ、どんどん沈んでいっているみたい。おもしろい形。水がたまっていくところを見てみたい。とっても深そうだ。すごいところ。ビルが高い。船が来て水が大きくなるところが不思議。滝が早い。中をのぞいてみたい。ほんとに船が通るのかな。

12)水道施設飲料水のため池1
水がきれい。dirty water.冷たそう。上の方がひびがある。透き通っている。深そう。水がみたい。いろいろな色にみえる。日本の水よりおいしいか。水きれいにしましょ。水がきれいでも、陸がきたない。飲み水というのがおもしろい。トカゲのひふみたい。色が違う。

13)水道施設飲料水のため池2
文字はなんて書いてあるのか。水が飲みたい。They clean the water.おいしそうな水。入りたくない水。うわっ、きれい。このまま飲めるの?深そう。たちションしたら、たいへんだ。カモが泳いでいるのに大丈夫?。まわりの景色が見たい。

14)運搬船の船着き場
長ーい船。中は何なのかな。泳いでみたい。どのくらいの冷たさなのかな。川に入ってみたい。船が長い。船が多くてでかい。ひまわりみたいのがきれい。かまぼこみたいな船がある。なんだかきれいじゃない。中に入りたい。船と思えない。これ船?。船じゃないみたい。

15)運搬船遠景
船がめちゃくちゃ長い。川が深そう。かっこいい。きれいだ。でかいふね。でかい町だ。でかい建物とかあってきたなくない?川のまわりがにぎやかそう。とにかく長い。かまぼこみたいな船。船に見えない。何を運んでいるの?大きな工場がある。高速道路がそばにある。

 段差を利用した船の通行施設の存在に気づいていく。するとなぜこんなに交通手段としての海運が盛んなのかを考えていくようになる。そして関川と比較して関川にもこんな利用のされかたがあったのではないかという疑問を持ち、関川の歴史に目を向けていくようになる。
 また、街の水道施設がすぐそばの川から取り入れてつくっていることに気づいていく。上越は山のきれいなところの水を使って水道水にしているのに、なぜここでは、そばの川から水道水をつくっているのだろうという疑問をもっていく。そして川の生い立ちの違いからその違いの理由を考えていく。

16)川の関の様子
滝に入りたい。冷たそうで広い!泳いでみたい。外国は木が多い。ここで休んだりしたい。自然がいっぱいって感じ。川の名前を知りたいな。道が多い。関が曲がっているのはなぜ?岸辺の公園がきれい。魚がいっぱいいそう。入ってみたい。

17)川の合流付近の工場
いつかは流れていきそう。真ん中にあるので、よく作れたなーって思う。すごい。ちょっとさみしい。悪のようさいみたい。でかい段ボールに見える。おもしろい、はさまれている。ここを回りたい。どんな場所?秘密基地みたいだ。下がおもちゃみたい。作った入り江がある。

18)川の沿岸の町並み
町がきれい。広い森。町の方が川より多い。日本より川が広そうだな。川がくねくねしている。川が広くてうらやましい。にぎやかそうでいいね。空がいい。工場が見える。森がある。実際見てみたい。家がだんごむしのようだ。向こう岸に家がない?

19)川の蛇行の様子
空がきれい。川がとても広そう。広い大陸。I live somewhere around there.道がまっすぐ交差している。川が広くなったりせまくなったりしている。中州がある。とにかく広い。畑のようなところがある。家が少ない。山がない?町が丸くかたまってみえる。

20)川を縦断する高速道路
what is that? 川がとても広い。自然が多い。日本の川のまわりより、写真のところの方が建物が多い(にぎやかそう)川がUがた。橋が多い。車がたくさん通っている。川が細く見える。おもしろい橋の形。緑がたくさんで不気味。すごい緑。日本より木が多い。

 航空写真から川の全景を見ていく。すると川は関川と比べものならないほど長く、広い川であることに気づいていく。また、治水施設などがない手つかずの状態で流れている場所があることから、アメリカの広大さを考えていくようになる。
 また川沿いに発達する都市の写真から、川と人との関わり合いの深さを考えていくようになる。そそいて中州の場所に工場がたくさんあることを知り、工場で使われる原料や製品を水運を使って運ばれていくことに気づいていく。関川は、単にその水をいろいろな形で利用しているのに対し、アメリカの川は未だに交通の大切な手段として使われていることを知り、どうしてトラックじゃなくて船なのか?と言う疑問から、大量の輸送手段である水運の特性について気づいていく。
 この活動の後に見た感想をシートに書いた。以下にA子とデビッドの文章を示す。
 アメリカの川は、私にとって広いし、深いし、きれいだし。って感じです。それに飲み水の池があるなんて。その池はコップを持ち出して水をすくってすぐ飲める水なんですか。デビッド君の住んでいるピッツバーグはいいですね。川はきれいで森があって。こっちは川はにごっていて森はあんまりないし。
 アメリカでは、川で遊んでは危ないんですか。だってすごく深いでしょ。浅いところもあるんですか。
 私はアメリカの船に乗ってみたいです。ほそーい船にも乗ってみたいです。あの飲める水の池の水も飲んでみたいです。
The Monongahela river was home to a lot of Indians a long time ago.
It is one of the smaller rivers , It is cleanner to.
 子供は、アメリカの川を肯定的にとらえている。身近な川の様子と違って川も広いし深いし、森もある。そんなところに行ってみたい。飲める水を池のようにためている。飲んでみたい。というようにある現実に対して自分の生活や経験から自分の思考を思い描いている。
 デビッドは、自分の街や自分の国の川に関わる写真を見てインディアンの居住区であったことや他の川よりも小さいけれどきれいだ、など現実味のあるコメントをしている。

4 授業の評価
 子供の興味は、アメリカの川の広さであり、深さであり、水の様子であり、河岸の風景であり、観光船や運搬船の存在である。すなわち目に見える事実と自分の経験とを照らして自分の目に映った興味を言葉や文章にしていく。デビッド君の存在は、現地で住む子供であると同時に同世代の子供としての姿である。生活や学校教育であまり川に関わっていない彼にとって川の様子を聞かれても、生活レベルのことは答えられても、内容に関わる深いことまで説明することは困難だった。
 しかし何よりも彼がクラスにいること自体に子供がアメリカを身近に感じるよい機会となった。川の写真は子供の経験と比較しながら考えることができるので子供は意欲的にコメントを書いていった。そしてその内容は「私は〜思う。」という自分がどう考えるかという思考を外国の川の現実に向けて広げていったといえる。その意味でより自分の視点が明らかになっていったと考えている。


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