ツインシティーの町並みまちづくり
−ミネアポリスとセントポール−
 
(新潟県立高田南城高等学校) 五十嵐 雅樹

1. はじめに
 スペリオル湖の西部に位置しカナダに接するミネソタ州は、面積は日本の本州とほぼ同じ22.5万km2、人口は465.8万(1996年)、したがって人口密度は21人/km2に過ぎない。入植は1805年、州成立は1858年と遅い。ミシシッピ川が州北部のイタスカ湖から州を貫流するため、歴史的にこの河川を挟んでフランス領(ルイジアナ)であったり、イギリス領であったりと複雑である。
 全米の中では、農業州に位置付けられ、大豆(全米第3位)、大麦(同4位)、えん麦(同4位)、とうもろこし(同4位)、農産品全体としても合計額で全米6位となっている。また畜産品についても飼育頭数では豚(同3位)、畜産額で全米7位であり、農畜産州としてバランスのとれた生産をあげている。一方鉱工業面においては、世界の中での地位は低下したとはいえ全米最大のメサビ鉄山が州北東部にあり現在も4000万トンの生産をあげている。製造品出荷額においては全米18位であるが、加工食品、一般機械、化学製品、紙などの生産が多い。
 さて、このようなミネソタ州の中心が州都セントポール(St. Paul,人口26.2万人)とミネアポリス(Minneapolis,同35.5万人)であり、これがミシシッピ川を挟んで向かい合っているため、ツインシティー(Twin Cities,双子都市)といわれている。そしてここに、穀物商社カーギル、シリアル食品メーカーで多国籍企業のゼネラルミルズ、日本では住友と提携しフロッピーディスク等を生産している3M、ノースウエスト航空など世界的な大企業の本社が集中している。

2.モールオブアメリカの建設
写真1 モールオブアメリカ
 さて、このツインシティーに全米最大のショッピングセンター「モールオブアメリカ」(Mall of America)が1992年に誕生した。正式の行政エリアでは、州3番目の人口を有するブルーミントン市で、ここはかつてMLBミネソタツインズとNFLミネソタバイキングの本拠地であったメトロポリタンスタジアムがあったところである。施設の老朽化に伴い、これを町の中心部に移転新築することとなったため、この跡地が利用されたのである。
 ここは、メイシーズ、ブルーミングデールズ、ノードストローム、シアーズの4つのデパートとナッツキャプテンスヌーピーなどのテーマパーク、水族館、映画館等娯楽施設も併せ持つ複合型屋内ショッピングセンターである。ツインシティーおよびその周辺の約200の市を合わせたメトロエリアの人口が260万人、日帰り客を想定しての半径150マイル(240km)の人口は460万人であり、都市圏の規模としては全米で17番目にすぎない。しかし、初年度1年間の訪問客数は3500万人、現在においても4000万人で推移している。これは、商圏が旅行客を対象にした半径400マイル(640km)の2700万人、およびそれ以上の遠距離(海外も含む)を想定し開発コンセプトが図られたからであろう。

第1表   モールオブアメリカの概要
総敷地面積31.5万m2
総フロアー面積39万m2
アンカーデパート数4(Macy's,Bloomingdales,Nordstrom,Sears)
商店街数4(East Broadway,North Garden,West Market,South Avenue)
専門店数500以上
レストラン数49(レストラン22、ファーストフード27)
パーキング収容台数12750台(周辺部を合わせると2万台以上)
テーマパークなどナッツキャプテンスヌーピー(2.8万m2
映画館(総スクリーン数14)、水族館
(曽我部1999などの資料により作成)

3.中心商店街活性化の取り組み
 さて、現在日本では全国的に中心商店街の空洞化が指摘され、実際、「シャッター通り」と称される中心商店街を抱えた都市が多く存在する。このような中、1998年7月には「中心市街地活性化法」も施行された。しかし、このような都市の空洞化は今に始まった事でなく、また先進国共通の現象である。全米1の巨大ショッピングモールが誕生したツインシティーでも、町の中心街の空洞化はすでに1960年代には始まっており、それについての各種対策・ユニークな試みもとられてきた。このことについて3つの点から触れていきたい。
(1) スカイウェイの建設
第1図 中心街のスカイウェイ網(筆者作成)
写真2 スカイウェイの内部
 ツインシティーは、北緯45度。日本では 稚内にあたる緯度である。したがって冬の気温は1月の平均気温で-11.1℃と非常に寒い。年間降水量656mmが示すように降雪はそれほどないが、この寒さを避けるために、ビルとビルの2階を回廊で結んだものが、「スカイウェイ」(Skyways)である。これによって冬でもシャツ1枚で町のいたるところに行くことができるのである。
 このスカイウェイは、町の中心街が沈滞化する中、1962年ミネアポリスではじめて試みられ、その後セントポールでも導入されていったのである。ただ、セントポールではすべてのスカイウェイが同じようなカラーで統一されているのに対し、ミネアポリスでは一つ一つのスカイウェイがまったく別な顔をしている。これはセントポールのそれが、市で管理し運営しているのに対し、ミネアポリスではビルとビルが同意することによってはじめて建設される。したがってセントポールでは全体の町並み景観を尊重する中でデザインが決められまた、開放されている時間も決まっているのに対し、ミネアポリスでは両者が同意したデザイン、開放される時間もそれぞれによってまったく異なるというものである。
 ミネアポリスでは、第1図のように中心部がの多くがスカイウェイによって結ばれている。
(2) ニコレットモールの整備
写真3 ニコレットモールとスカイウェイ
 Mallというと歩行者専用の商店街、あるいはモールオブアメリカのように壁や窓によって囲まれ、したがって冷暖房完備のショッピングセンターを意味しがちであるが、本来の意味はロンドンのセントジェームズ公園の木陰の多い散歩道からきている。したがってそもそもは「木陰のある遊歩道」をさす。
 さて、このニコレットモール(Nicollet Mall)は、まさに本来のMallが指す意味での道路で、写真3のように歩道の部分が非常に広く、街路樹も青々した緑を蓄えている。その一方で町を南北に貫くメインストリートにして車にとっては、一車線しかなくしかも蛇行していて非常に走りにくい。まさに歩行者に配慮した歩行者のための道路といえよう。中心街からこの道を歩いて、後述する町のランドマークセントアンソニーフォール(St. Anthony falls)に行くことができる。
(3) その他の取り組み
写真4 セントアンソニーフォール
 このニコレットモールとスカイウェイは、町の中心街の沈滞化防止の切り札として、早くから登場したものであるが、この他にも様々な取り組みも行われている。モールオブアメリカの立地に言うまでもなく、モータリーゼーションの進展はアメリカ社会ではひときわ早く現れた。ツインシティーのようにヒンターランド(後背地)が大きい都市において、車での訪問を無視することはできない。ニコレットモールにしてもスカイウェイにしてもこの方向からはむしろ逆行した流れが成功をもたらしたとも言えるが、まったく車社会を無視していたわけでない。たとえば、町への通勤者の駐車場は周辺部で、中心部のそれは買い物客等のために空けてあるという。また、景観の保護として100年以上たった建築物はどんなものでも許可なしに取り壊すことができないのである。あるいはミシシッピ川を通じて穀物の集散地として、製粉の町(Mill City)として発展してきたミネアポリスを支えたセントアンソニーフォールを町のランドマークとして整備するとともに、ナイトスポット・レストラン街として、リバーサイドの開発を進め、多くの観光客を誘致している。

4.終わりに
 現在、日本ではほんの近年になり中心商店街の活性化を図るための努力が模索されている。国の施策としては昨年よりといっても過言ではない。交通体系の変化の中で、中心地が移動することは必然だとみるべきか否かは別にして、これまで触れてきたように、車社会がいち早く登場したアメリカにおいては、同時に中心部の沈滞化現象が生じ、それに抗するの町づくりを少なくとも施してきたのである。
 日本ではパワーセンターや大手スーパーが高速交通体系の進展の中、各地方都市のインターチェンジすぐ近くに地元商店とテナントに入れた大ショッピングセンターを相次いで建設している。このことがより一層町の中心部の沈滞化に拍車をかけることとなっている。
 地理学では、こうした中で全国のユニークな町づくりの動きを学問的追究の対象として取り組んできた。また、マスコミ関係でもヨーロッパの町づくりについて特集を組んだりしている。ここでの紹介は、町づくりに関してアメリカ社会でのほんの一例に過ぎないが、モータリーゼーションがいち早く進展し、また中心部の沈滞化の現象がいち早く生じたアメリカでも、多大な努力を払って対策が講じられていることだけは肝に銘じなければならないであろう。

<参考文献・資料・ホームページ>
曽我部 和敏(1999):モールオブアメリカのインパクトと小売業の今後.
MINNE INTERNATIONAL , INC
Greg Breining (1997):MINNESOTA.Fodor's,348p.
西村 幸夫(1997):『町並みまちづくり物語』.古今書院,248p.
新潟日報(1999.8.15〜19):『町並みルネサンスー欧州の取り組みー』.
ミネアポリス市のホームページ: http://www.minneapolis.org


1 雑誌地理での特集「町並みまちづくり最前線」が1995年より始まる。
2 新潟日報1999.8.15からの特集でサットン、ロッテルダム、ブリュッセル、オルレアンなどの取り組みが紹介されている。


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