中越地震斜面崩壊

1．はじめに
2004年10月23日午後5時56分に発生した新潟県中越地震は，震源の深さ13km，マグニチュード6.8，最大震度は川口町で震度7を記録し，その後も活発な余震活動が継続した．比較的浅い位置で発生した直下型地震によって強い揺れが生じたため，震源付近では，甚大な斜面災害が発生した．国土交通省による空中写真調査では，3791箇所の斜面崩壊が確認され，崩壊土砂量の合計は，約1億ｍ3と推定されている．斜面崩壊の集中した丘陵地は，新第三紀の堆積岩（泥岩・砂岩）が，第四紀に急速に隆起して形成されたものである．こうした不安定な地形と軟弱な地質が，この地域に崩壊が発生しやすい条件を与え，さらに地震前に襲来した台風等の先行降雨や，切盛土などの人為的な地形改変が誘因となって，斜面崩壊を多発させたと考えられる．ここでは，中越地震による斜面崩壊に関する予察的な調査の結果を，速報として報告する．

2．斜面崩壊の分布
斜面崩壊は，震源域を中心に東山丘陵南部に集中して分布する．特に，中越地震新潟大学調査団が激震ゾーンとして報告した建物被害が最も大きかった地区の延長線上に集中する．大規模な崩壊もこの部分に多い．国土交通省の調査では，崩壊幅50ｍ以上の崩壊地362箇所のうち約7割が，震度6強以上を観測した5市町村に集中している．このことから大きな揺れが，大規模な崩壊を発生させたものと考えられる．一方で，小規模な崩壊は，かなり広い範囲に分布し，震源から約50km離れた上越市でも被害が報告されている．
震源付近では，大規模な地滑り，古い地すべりの再移動，岩盤の崩壊，斜面表層土の崩壊，段丘崖表層堆積物の崩落，人工の切盛土の崩壊など，大小様々なタイプの崩壊が認められた．こういった崩壊のタイプや，崩壊の分布パターンと，地域の地質や地質構造との対応関係については，今後検討を要する．

3．小栗山地区の大規模崩壊
東山丘陵の西部に位置する小千谷市小栗山地区では，比較的規模の大きい斜面崩壊が発生した．この地域の地質は，鮮新世の泥岩層（牛ヶ首層）を主体とし，一部に火山砕屑岩が分布する．また，この地域は，東山複背斜の西に位置し，地質構造は西落ちの傾斜を持つ．崩壊が発生した法師が沢川の谷地形は，南北に伸び，東西の谷壁斜面の傾斜は，地質構造を反映して流れ盤の東斜面は緩傾斜に，受け盤の西斜面は急傾斜と非対称になっている．崩壊のタイプもこのような地質構造を反映して，東側斜面では，泥岩の滑り面に沿った地滑りが生じ，西側斜面では，表層の斜面堆積物が崩壊して岩屑流となって流下した．養鯉池や棚田を取り込んだ岩屑流は，1kmほど流下して砂防堰堤で停止いている．

4．棚田，養鯉池との関係
丘陵地には，多くの棚田や養鯉池，溜池が築かれ，地域の重要な生産基盤となっている．今回の地震では，これらの施設が深刻な被害を受けた．多くの棚田や養鯉池に亀裂が発生し，提体や畦畔が崩壊している．これらの棚田や養鯉池は，斜面に堆積した崩壊堆積物を切盛土して造成されている場合が多いようである．地震時の震動でこうした物質が液状化して崩壊したものと思われる．また，養鯉池にためられた水が地下水位を上昇させ，崩壊の誘因となった可能性も考えられる．地震が発生したのは，多くの養鯉池から，越冬用の施設に鯉あげが行われ，水が抜かれたあとであったため，崩壊による土石流の発生が押さえられたのかもしれない．また一方で，棚田や養鯉池によって崩壊土砂が河川に流入するのを押しとどめられている事例も多く見受けられた．

5．融雪期における土砂流出
現地調査において，丘陵の尾根部などに多数の亀裂が確認された．地震時には崩壊に至らなかったが，今後融雪期などに融雪水や雨水が亀裂に浸透して崩壊を引き起こす可能性が考えられる．その際，崩壊した土砂が融雪水を取り込んで土石流が発生する危険性も考慮される．また地震時に発生した崩壊によって，河床付近や斜面上には大量の崩壊土砂が供給されている．こうした土砂が，融雪期に土石流となって流出してくる可能性も考えられる．降雪前の段階で，こうした土砂の一部は，すでに流出をはじめ，丘陵から流出する河川は褐色に濁り，河床には泥質の物質が堆積している．融雪期以降さらに土砂の流出が進めば，河床の上昇などが起こるかもしれない．今後も継続して観察を行っていく必要がある．

新潟県中越地震によって発生した斜面 崩壊の特徴

新潟県中越地震によって発生した斜面崩壊の特徴