ナミブ砂漠における土壌生成過程

アフリカの半乾燥地域における環境変動と人間活動に関する研究
（その2）－ナミブ砂漠クイセブ川中流域における土壌生成過程－
Environmental change and human activity in semiarid area of Africa
Part 1: Soil forming process in the middle course of Kuiseb
river in Namib Desert　

山縣耕太郎（上越教育大）・水野一晴（京都大）
Kotaro YAMAGATA ( Joetsu Univ. of Education)・Kazuharu MIZUNO (Kyoto Univ.)

　　キーワード：ナミブ砂漠　クイセブ川　一時河川　土壌生成過程　環境変動　
　　Keywords: Namib desert, Kuiseb river, ephemeral river, soil forming process, environmental change

　アフリカ大陸南西部大西洋岸に位置するナミブ砂漠は，東をグレートエスカープメントと呼ばれる急崖地形で内陸の高地と限られた南北約2000km，幅40～120kmの広がりを持つ砂漠地帯である．クイセブ川は，ナミブ砂漠を横切る主要な河川の一つであり，内陸の半乾燥地域に源流をもち，十分に降水があった年にのみ流水が生じる一時河川である．この河川によって南方から移動してくる砂丘砂が下流へ運搬されるため，クイセブ川の南側は砂砂漠，北側は岩石砂漠となっている．また，極めて乾燥した気候条件にありながら，河道沿いには比較的浅所に伏流水が存在するため，緑地帯が形成されている．
　このように，クイセブ川中流域では，砂漠において特徴的な強い風化作用と風の作用ばかりではなく，河川作用や植生の影響を受けて，狭い範囲に多様な環境条件が存在している．また，第四紀において，ナミブ砂漠に乾湿の変化をもたらした環境変動が生じたことがわかっているが，その時代や詳細については十分に明らかにされていない（Heine・Walker, 1996）．本研究では，クイセブ川中流のゴバベブにおいて，土壌生成に関わる環境条件と土縦断面の特徴との関係を検討し，さらに過去の環境変化を考慮して，この地域の土壌生成過程を明らかにすることを目的とする．
　クイセブ川の流路に直行し，かつ異なる地形面を横断するように測線を設定し，地形断面の計測と植生の記載をおこなった．さらに各地形単位毎にピットを作成して土壌断面の観察をおこなった．その結果，地形断面の形態と堆積物および表層の土壌の特徴から，この地域の地形は，現河床およびその氾濫原，低位段丘，中位段丘，高位段丘，および砂丘の5つの地形単位に区分された．これらの地形単位とそれを覆う植生には対応が見られる．
　図1に示したように，各地形面において異なる特徴をもった土壌断面が観察された．現成の氾濫原では，表層にほとんどリター層が形成されていないが，低位段丘では，厚いリター層が形成されている．また，中位段丘には石灰質の物質で膠結された皮殻（カルクリート）が認められる．低位段丘や，現成の氾濫原にはカルクリートの形成が認められないことから，中位段丘は，現在とは異なる環境下で形成されたものと考えられる．高位段丘は，クイセブ川以北に広く発達する平坦面に連続するものと考えられるが，段丘面上に円礫が存在することから現在よりも湿潤な環境下で形成されたものと考えられる．高位段丘面上には，円礫のほかに基盤の花崗岩の風化によって生成された結晶粒子とその風化物が堆積し，最表層には粗粒物質が集積している．したがって高位段丘においては，段丘形成後の風化作用と風による浸食作用が土壌の形成に強く影響しているものと考えられる．砂丘においても，植生や地形条件の違いによってリター層の厚さや土壌水分に違いが認められる．
　このように，本地域における土壌の特徴には，狭い範囲の中で顕著な違いが認められる．このような変化を生じた要因としては，地形の形態，地形の形成時代，母材，風化作用，植生の影響があげられるが，特に風の作用による砂粒子の移動，堆積，浸食の作用が重要な役割をはたしているものと考えられる．
　報告では，中位段丘および低位段丘で採取された試料について放射性炭素年代測定を行った結果をもとに，古環境変化と，この地域の地形発達史および土壌の形成過程の関係についても検討を行う．また，このような土壌の観察結果は，今後，他の地域で土壌断面から過去の環境変動を検討する上での基礎的な資料となるものと考えられる．