テフラ層序に基づく洞爺火山の噴火史

山縣 耕太郎 (上越教育大)

Eruptive history of the Toya volcano, Hokkaido, Japan,
based on tephra stratigraphy

Kotaro Yamagata ( Joetsu University of Education )

洞爺火山の噴火史については,Us-b以降の歴史時代の噴火活動と,洞爺火砕流を噴出した最大の噴火については多くの研究が行われているが,洞爺火山の噴火史の全体像については,充分に明らかにされていない.そこで本研究では,洞爺火山周辺のテフラ層序を構築し,洞爺火山の噴火史を明らかにすることを試みた.
火山灰土を噴火休止期の指標とし,洞爺火山周辺に分布するテフラ群を一輪廻の噴火堆積物(テフラ層)に区分した.その結果 ,洞爺火山周辺に分布するテフラは,20のテフラ層と1スコリア層群に区分された.このうち8つのテフラ層は,それぞれ駒ヶ岳-d(Ko-d),白頭-苫小牧(B-Tm),濁川(Ng),支笏火砕流堆積物(Spfl),羊蹄-真狩(Yo-Ma),クッタラ-2(Kt-2),羊蹄-鵡川(Yo-Mk),阿蘇-4(Aso-4)に対比される外来のテフラである.従って以下の12のテフラ層:Usu-1977,Usu-氈`」a,Usu-b,有珠-上長和(Usu-Ka),中島-長流川(Nj-Os),中島-伊達(Nj-Dt),洞爺(Toya),洞爺-長流川(Toya-Osr)および有珠スコリア層群が洞爺火山起源のテフラである.
このうち洞爺テフラ層は,岩相の変化から6つの部層(下位からサージ堆積物,火砕流堆積物,降下軽石・火山灰互層,火砕流堆積物,lag breccia,火砕流堆積物)に区分される.同一の堆積物について李(1993)は,風化程度や化学組成の違いから,間に挟まる降下堆積物を境に異なる噴火輪廻の噴出物と考えた.しかし,これらの堆積物の間に火山灰土層は全く認められず,池田・勝井(1986)が考えたように一連の噴火の堆積物と判断される.
後期更新世の洞爺火山の噴火活動は,約130kaのToya-Osrの噴火にはじまる.このテフラ層と前期更新世の火砕流堆積物(滝の上,壮瞥火砕流堆積物)との間には,洞爺火山起源のテフラ層は認めらず,この噴火の前に長い噴火休止期があったと考えられる.Toya-Osrの噴火の後,休止期を挟んで90-120kaには洞爺テフラを噴出した大規模な軽石噴火が起こった.この噴火の噴出物の体積は100km3をこえ,この時現在のカルデラが形成されたと考えられる.ただし,この噴火が水蒸気-マグマ噴火で始まっていることや,現在のカルデラ内に洞爺火砕流堆積物が認められることから,この噴火以前にもカルデラが存在していた可能性がある.カルデラ形成後,数万年間の長い休止期をおいて後カルデラ火山の中島火山の活動がはじまり,Nj-DtとNj-Osが噴出した.このうちNj-Osの体積は,2.5km3におよぶ.Nj-Osの噴火の後,2〜3万年間の休止期をおいて有珠火山の活動が始まった.活動の初期には水蒸気-マグマ噴火が起こり,引き続いてスコリアや火山砂を頻繁に噴出する時期が,12kaのNgの堆積直前までの1〜2万年間続いた.この時期に有珠成層火山体が形成されたと考えられる.NgとUsu-bの間に有珠火山起源のテフラは認められず,約1万年間の噴火休止期を挟んで,歴史時代の爆発的な噴火活動が起こったと考えられるが,この休止期の間に善光寺岩屑なだれが発生している.



















     図1. 後期更新世以降の洞爺火山の噴火史