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上越教育大学大学院入学式 学長告辞(大学院)(平成31年4月)

冬の間の雪もいつの間にか消え、そこから新たな植物の芽生えが始まり、やわらかな日差しの中、雪国独特の春の香りを感じます。高田公園の桜もまもなく満開となり、まるで皆様のご入学を祝っているかのようです。

本日、上越教育大学大学院に入学された245名の皆様、ご入学おめでとうございます。本学教職員、在校生を代表して心よりお祝い申し上げます。併せて、ご多用のところご臨席賜りましたご来賓の皆様に、深く感謝申し上げます。

さて、上越教育大学は、現職教員の資質能力の向上と、初等教育教員養成という社会的要請に応えるために設立された、新構想の大学です。大学院は修士課程と専門職学位課程いわゆる教職大学院を有し、教師としての専門的知識と、優れた実践的指導力を身につけた人材を養成することを目的としており、また、さらに高度な研究を希望する方のために、連合大学院博士課程も設置されています。そのため大学院全体の2割以上は学校現場の現職の教員が占めており、ここにおられる皆さんの中にも現職の先生方がおられると思います。その皆さんも本日から大学院で学ぶ学生となります。この2年間、あるいは1年間で、学校現場における実践的課題を解決できる力量を身につけられることを強く願っています。

一方、大学院全体の7割以上はいわゆる学部卒業生の皆さんであり、本学で2年もしくは3年間、現職の先生方と一緒に学ぶこととなります。これから教員を目指す皆さんには、その環境は願ってもないものとなりましょう。現職の先生方と日頃から接することにより、大学の授業以外でも、生の学校現場の状況や課題をごく身近に、本音で聞くことができ、それが必ずや皆さんが目指すであろう教員への道に、大きな力となってつながることでしょう。

教師には、子供達の学ぼうとする力や気持ちを、引き出すことができる力が求められます。子供達の個性や性格を的確に把握し、子供達が自ら学ぼうとする意欲を高めることが、大きな教育成果につながります。そのためには、教師が人を思いやる心を強く持ち、子供達一人ひとりに誠実に向き合うことが必要です。学校現場では、こなさなければならない用務が多く、教師はきつい職業だという風潮が広がってきています。そのような中では、子供達一人ひとりに誠実に向き合うということが、実際には難しいと言うかもしれません。しかし、それが教師に求められる最大の使命であり、子供達一人ひとりを理解することが、教師としてのやりがいや喜びにつながります。そのためにも、皆さん自身が学ぶべき多くの事柄があります。これから始まる大学院生活の中で、しっかり学んで頂きたいと思います。

私の専門が理工系ということもありますが、皆さんは2002年にノーベル化学賞を受賞した会社員の田中耕一さんを知っていますか。受賞当時の田中さんは修士号も、博士号も持っていなかった(学士、世界初)こともあり、研究者でもない民間企業の技術者が、研究成果ではなく、偶然の発明で受賞してしまったこと、自分自身でノーベル賞に値することをやっていたとは思っておらず、長年の苦労が実を結んでというものではなかったという戸惑いから、当時も非常に控えめな態度でしたし、ずっと違和感を抱き続けており、その後、メディアにもほとんど登場しなくなりました。

社会情勢もその頃から少しずつ変わり始め、また景気の低迷などを受け、日本では科学技術研究のための予算、特に基礎研究に関する予算が減り続けています。平成になって日本でも多く(18名)の自然科学系の研究者がノーベル賞を受賞していますが、それは基礎研究の予算が潤沢だった昭和時代の研究の遺産であり、今後は日本の研究者そのものが、アメリカ、中国を始めとする海外に流出していく状況を考えると、将来は日本の科学技術を世界に向かって発信できることが少なくなるのではないかと心配されます。

そのような中で、田中さんは、積極的に若手の研究者の研究会にまで足を運び、新しい研究者の発掘などにも力を入れました。同時に、大型の研究費を獲得して、内外の研究者に積極的に意見を求めたり、広く異分野の研究者も含めて自分のプロジェクトへの参加を呼びかけたりして、研究した結果、昨年、アルツハイマー病を発症30年前という早期に見つけることができるたんぱく質を発見するという、世界的な快挙を成し遂げました。これは、田中さんが「血液1滴から病気の早期診断」を目標に地道に研究を続け、苦労と成果を重ねて来た結果で、本当の意味で努力が結実したものです。

田中さんは次のように言っています。「イノベーションは日本語では技術革新と訳されるが、新しい考え方、柔軟で自由なものの捉え方にこそ、新しいシーズ、未来の種が数多くあり、その独創性や構想力、チャレンジ精神が、イノベーションの元になる」と。学び続ける、研究し続ける田中さんからは、「失敗を恐れて取り組まないと結果として何もできない」「結果的に偶然発見したように見える成果も、実はいろいろ試行錯誤した努力の結果であり、偶然も強い意志がもたらす“必然”である」と言うことなどを、強く感じました。

この話は科学技術に関する研究と思われるかもしれませんが、教育分野でも同様です。皆さんはこれから大学院で学ばれるわけですが、大学院は学部と違い、皆さんがそれぞれ自発的に自ら課題を見つけ、それに対して検討し、答えを見つけるというプロセスが中心となります。それらについては、修士課程は修士論文という形で結実しますが、教職大学院といえども同様です。学校教育現場での課題に対して、より実践的な立場から検討して答えを見つけるという点では変わりありません。そのためには、いろいろ悩んだり試行錯誤したりすることがあるでしょう。それは先程の科学技術に関する研究と同じです。皆さんが本学大学院で力をつけて、将来、教育分野でイノベーションを起こすようになれば素晴らしいなと思います。

知識として知っていることと、それを教えることは違います。ましてや高度専門職業人として「教えのプロ」なる教師に求められるものは、極めて高いことを自覚してほしいと思います。

教師が教科の内容を子供達にどのように教え、またそれを受けて、子供達がどのように考え、どのように理解するか、その時にどのような反応になるか、そのような問題を子供達1人ひとりに応じて対処・指導できる力量をもった教師こそ、本当の高度専門職業人と言えます。それらを認識し、しっかり学んで、引き出しの多い教師になってほしいと思います。

今更申し上げることでもありませんが、学ぶということは何も大学の教員から学ぶだけではありません。むしろ、それ以外で学ぶことの方が大きいかもしれません。友人、先輩、地域の方など、皆さんがその気になればいくらでも学ぶことができます。上越教育大学の大学院に所属しているときが、人生で一番勉強したなと思えるくらい多くのことを学んで頂くことを期待します。また、大学としても、教員、カリキュラムなど環境を整えてしっかり対応します。

さて、いよいよ学究生活が始まります。本学の歴史は、昨年、創立40周年を迎えるなど、それほど長くはありませんが、教育界に大きな足跡を残していることは自他共に認めるところです。

もう数週間すると、元号も令和と変わり、新しい時代が始まります。その新しい時代を支える皆さんが、海と山に近く、自然環境が素晴らしい、四季の移ろいが鮮やかな上越市の学びの館、上越教育大学で、健康に十分留意しながら、充実した2年、あるいは3年間、一部の現職の方は1年間かもしれませんが、それぞれの大学院生活で、皆さんが心に期している目的を達成して、修了されますことを心より祈念し、告辞といたします。


このページは上越教育大学/広報課が管理しています。(最終更新:2019年05月09日)

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