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上越教育大学入学式 学長告辞(学部) (令和3年4月)

 今年の冬は上越の地もたくさんの雪が積もりましたが、そのあとの春の訪れは意外と早く、例年ならばまだつぼみ状態の高田公園の桜の花も、すでに満開となっています。この春爛漫の時期に、令和3年度の入学式を挙行できますことを、皆さんとともに喜びたいと思います。とくにこの1年間は、新型コロナウイルスが学校教育に大きな影響を与えました。そうした中で、縮小した形ではあれ、人生の節目である入学式を挙行できることは本当にうれしいことです。

 本日、上越教育大学学校教育学部に入学された164名の皆さん、ご入学おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。

 さて、皆さんは、上越教育大学に入学されたのですから、多くの方が教員になるという希望を持ってこの場にいるのだと思います。本学は教員就職率が高いですから、4年後には皆さんの夢がかなえられる可能性が高いと思います。では、そのために、この4年間でどのようなことをすればよいのでしょうか。

 大学教員のいうことを聞いて真面目に勉強するのがよいのでしょうか。それもよいかもしれません。あるいは、一生懸命に読書して、教養を身に付けるのがよいのでしょうか。それも必要かもしれません。あるいは、課外活動団体に入ってスポーツに打ち込むことがよいのでしょうか。それも大切なことでしょう。ボランティアで学校に入って子どもたちと接することも重要かもしれません。大事なことは、きっとまだまだたくさんあります。

 でも、私は最近、こんなことを思うのです。昔、私が小学生・中学生だったころとは、ずいぶんと学校教育の中身が変わってしまったな、と思うのです。私が小中学生のころは、教科書を暗記し、その知識をペーパーテストで再現する力が学力とよばれていました。たとえば、鎌倉幕府の成立は、1192年で「いい国つくろう鎌倉幕府」と語呂合わせで覚えていました。最近では、1192年の成立とは断定できないと言われているようです。考えてみれば、年号だけ覚えていても、鎌倉幕府の成立のプロセスはまったく理解できていないわけで、年号だけ語呂合わせで覚えてテストで満点を取ったとしても、その子どもの学力を測定したことにはならないだろうと思います。

 最近は、むしろ、自分の頭で考えて、問題をとらえ、それを解決する力、すなわち問題解決能力を育てようとしているように感じます。学校教育が知識伝達から能力開発へと向かい始めていると言えます。

 たしかに、大切なことは、必要なときに必要な情報を集め、自分で判断して行動していく能力でしょう。そういう能力を身に付けなければなりません。そうでなければ、これだけ変化の激しい時代を生き抜いていくことできないように思います。

 ショーペンハウエルというドイツの哲学者は、『読書について』という本の中で、

「読書とは他人にものを考えてもらうことである。一日を多読に費やす勤勉な人間はしだいに自分でものを考える力を失ってゆく」

と述べています。自分でものを考えるということが大事だと述べているのです。このショーペンハウエルという人物は、じつは現代の人物ではありません。1788年の生まれです。

 この私の話を聞いて、「確かにそうだな」と思った方は、注意が必要です。私の話を無批判的に受け入れているからです。

 古代ギリシアの哲学者ソクラテスは、読書について、ショーペンハウエルとは逆に、次のように言っています。

「本をよく読むことで自分を成長させていきなさい。本は著者がとても苦労して身に付けたことを、たやすく手に入れさせてくれるのだ」

と述べています。

 さて、ショーペンハウエルとソクラテスとどちらが正しいのでしょうか。皆さんはどちらにしたがいますか。正解はありません。こういうことを考え抜いていく力がいま求められていると言ってよいでしょう。

 こうした能力は座学の中だけで身に付けられるものではありません。豊かな体験が必要とされます。そうした意味では、社会に出て、多くの人々と交わることもまた大切なことだと言えます。新型コロナウイルス感染症は、まだ収まったわけではりませんから、皆さんにも自粛が求められ、普段の生活ができない状況にあります。しかし、健康に十分に注意し、密を避けながら、上越の豊かな自然と、地域の方々との交わりを通して、大学生としての学びをスタートさせていただきたい。新型コロナ感染症が落ち着いたら、さらに充実した大学生活を送り、社会性と人間性に磨きをかけ、教員としての能力を涵養していくことを願っています。

 最後になりましたが、式典の縮小によってご参加いただくことが叶わなかったご来賓の方々や、本日列席を望みながらご参加いただけなかった保護者の方々にはお詫び申し上げ、大学として、新入生の皆さんの大学生活をさまざまな形で支援することをお誓い申し上げて、告辞といたします。

令和3年4月5日
国立大学法人 上越教育大学長
林 泰成


このページは上越教育大学/広報課が管理しています。(最終更新:2021年04月08日)

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