第一章　組織の運営状況に関する自己点検・評価｜上越教育大学年次報告書（第26集：平成22年度版）

（ｃ）　大学と一体となり，教育理論及び実践に関する研究を行う。さらに，中学校独自の立場から研究と実践を行い，地域の教育現場に寄与できる資料を提供する。

研究仮説　教育課程に「基礎教科」と「総合教科」を新たに設定し，教材と学習過程を工夫して指導することで，「自立して学ぶ生徒」を育てることができる。

今年度は，教科の中に「基礎教科」「総合教科」を設定し，実践した。「基礎教科」では，基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させる。「総合教科」では，「基礎教科」で学んだ知識及び技能を活用し，課題解決的な学習を重点的に行う。「基礎教科」「総合教科」では，「目指す生徒の姿」を設定して実践を積み重ね，教育課程全体として「自立して学ぶ生徒」を育てる。

「基礎教科」「総合教科」において，教材や学習過程を工夫することで，生徒は習得した知識及び技能を活用し，横断的・総合的な学習や探究的な学習をダイナミックかつスパイラルに進めることができ，「自立して学ぶ生徒」を育成できる。また，教材と学習過程の工夫が有効に働くよう，ＩＣＴ機器の利活用，ワークシートの工夫を行った。

県内外の教育関係者，大学生，大学院生，保護者の皆様等，計516名の皆様の参加を得て，教育研究協議会は成功のうちに終えることができた。教育研究協議会当日は，各教室で熱の入った授業が展開され，多くの参会者から，歓迎合唱をはじめ，生徒のあいさつ，授業に真剣に取り組む姿におほめの言葉をいただいた。公開授業では，総合教科の国語表現科，市民科，探求数学科など計15の授業を公開した。その後の協議会では，公開授業を基に，自立して学ぶ生徒を育てる授業の在り方や教科の再編について，参会者から数多くの意見や提言が寄せられた。

各教科等の実践の成果を含め，各種アンケート調査，教育研究協議会等での評価から，生徒への効果として，「教科の面白さや実生活，社会生活との関連を見いだそうという意欲の向上が感じられた」「習得すべき基礎的・基本的な知識及び技能を身に付けることができた」ことが挙げられる。また，保護者への効果として，「当校の研究仮説に対し，ほとんどの保護者が理解し，肯定的に受け止めている」「保護者は子どもの学習状況が向上したことを感じている」ことが挙げられる。

反面，来年度に向けた課題として，「『基礎教科』『総合教科』の再設定を含め，これまで以上に自律して学びを進め，知識及び技能を知恵及び技術に高めるための教育課程を構想する」「教育課程全体を貫く『意欲・自律・学びの質』の要素を明確に設定し，適切に評価することにより，自立して学ぶ生徒の具体的な姿に更に迫る」ことが挙げられる。

本研究で目指す「自立して学ぶ生徒」を育てるために，教科と総合的な学習の時間を再編し，思い切った教育課程を実施できるよう，今年度から文部科学省研究開発学校の指定を受けて研究を進めている。

例年と比べ１名増の５名からなる研究委員会を中心に，開発学校としての研究を進めている。研究内容を毎週月曜日に研究委員会で検討し，それを木曜日の全教員出席の研究会議に諮る体制を取っている。

日ごろから本学教員に指導を仰いでいるが，特に教育研究協議会開催に向け，指導を受ける場を設定している。本年度は，５月と２月に全体の打合会を行い，各教科ごとに随時指導を受けるようにした。

各教科の指導者として本学教員及び教育事務所指導主事等から，中間検討会，教育研究協議会，年次研究のまとめに関して指導を受けている。また，公立学校の教員からも協力を受ける機会を設けている。

（ａ）　附属中学校の伝統を踏まえ，教育活動のキャッチコピーを「確かな学力，響く歌声，あふれる探求心」と定め，以下に述べる取組を行った。

教育課程の再編と時間割の工夫によって授業時数を確保し，生徒にとって潤いのある学校生活を実現できるように様々な学校行事を実施している。伝統となっている年２回の校内合唱コンクールや体育祭，文化祭，スキー合宿等を実施し，生徒の活力を引き出し，達成感をもたせることができた。

生徒の知的好奇心や進路意識を高めることをねらい，大学教員の専門研究に触れる「特別授業」を実施している。平成14年度から取り組まれている事業であるが，今年度も大学を挙げた支援を受け，夏季休業中の８月第１週を中心に延べ８講座を開設した。延べ受講生徒数は248名で，保護者６名の参加もあった。受講生徒，保護者の多くは新鮮な感動をもち，目的を達成することができた。

基礎教科等で身に付けた知識及び技能などを生活の中で生きて働く知識及び技術，考え方にまで高めるため，総合教科や総合的な学習の時間では体験的な活動の充実を図ってきた。総合教科では竪穴住居の製作（１年），桜城探求学習（１年），メタンハイドレートの作成（３年），総合的な学習の時間では森小屋体験（２年），沖縄平和学習（地震のため平成23年４月に延期），ミュージカル（３年）などを実施した。生徒，保護者から有意義な活動であったと高い評価を得ると同時に，生徒の学びの質も高まった。

８月19日（木）～23日（月）の４泊５日の日程で，生徒22名，引率職員５名，計27名が韓国ソウル市へ訪韓し，水洛中学校生徒との交流を深めた。訪韓生徒が交流で学んだことを全校生徒に伝え，文化やものの見方・考え方などの共通点や相違点を全校で確認することができた。

家庭との連携として，親子面談や授業参観，「ＰＴＡ親子講演会」「親子学校整備活動」「きささげコーラスの合唱コンクール参加」など，親子で活動できる場面を多く設定し，行動連携の実績を上げている。

地域との連携として，総合的な学習の時間のスマイルゼミ（卒業研究）や沖縄平和学習（２年），総合教科市民科の「原始・古代史探訪」（１年）など，積極的に近くの市立図書館を始めとする施設設備の利用や市民団体への訪問取材を行っている。さらに，地域の人材を活用した講演会や授業も実施している。

数学と英語の基礎学力向上策として，６月～３月の木曜日に計13回の放課後自主学習を行った。上越教育大学の院生・学生から募った学習支援ボランティア２名が，自主学習を希望した生徒の相談役に当たった。生徒自身の基礎学力の定着に向けた取組に対する支援になればと期待している。

学部４年生及び当校卒業生の合わせて43名の実習生を迎え，５月17日（月）～６月４日（金）の３週間，教育実習を実施した。また，６月23日（水）には免Ｐ１年生107名が，９月７日（火），10日（金）の２日間は学部１年生175名が半々に分かれて，実習生の配属学級の授業，終学活等を参観した。

校長の意思決定に基づく学校運営が円滑に実施されるよう，定期的に年18回職員会議を開催し，共通理解を図ってきた。また，教育に関する識見を有する方から，国立教員養成系大学の附属校としての使命を果たす学校運営の在り方について意見を聞く学校評議員会を６月17日（木）と３月３日（木）に開催した。

大学の各研究室と附属中学校との間で，大学の教員養成・教員研修と附属中学校の教育実践研究の双方にメリットのある連携が図られている。具体的には，大学教員による中学校の授業担当や大学院生の研究授業等を受け入れると同時に，学部生や院生の卒論・修論にかかわるアンケート調査等の資料収集にも協力している。また，附属中学校教員による大学授業への参画も行っている。附属中学校教員が中心となって活動している地元研究サークルの指導者として，大学教員からも積極的に例会等に参加してもらっている。

今年度は，附属中学校として１件の学内研究プロジェクトが継続されたほか，教員６名の研究が学内若手研究プロジェクトに採用された。学校教育実践研究センターの各分野の研究プロジェクトに参加している教員も多くおり，今後更に多くの教科で共同研究が行われるように努める。

上越教育大学スタンダードの教育ルーブリックに基づき，教育実習の事前指導から授業後の指導，実習の総括指導まで，指標を明確にした一貫的な指導が行われている。他大学の附属学校園からも参考にされる優れた実習システムである。また，今年度新たな取組として，免Ｐ１年生の観察実習後に協議会を実施したり，学部２年生の模擬授業コンテストに附属中学校教員が参加して指導したりするなど，学校教育実践研究センターと連携を図りながら，実習前の指導の充実を図ってきた。

今年度から文部科学省研究開発学校の指定を受け，大学教員と連携しながら，新しい学習指導要領作成のための先行的試行となる教育課程再編について実践的研究を推進している。また，県教育委員会関係者や公立学校教員等を研究指導者や協力者に依頼し，地域の教育課題やニーズを視野に入れた研究となるように努めている。

社会の防犯意識が高まる中，緊急時の学校の対応として，緊急用メーリングリストと携帯ＷＥＢページ，場合によっては災害伝言ダイヤルという３つの手段で，生徒が学校にいる時間帯や災害時の学校の対応等を提供できるようにした。さらに，緊急用メーリングリストの全家庭参加を促していく。

一方，附属中学校への緊急時の避難路及び進入路の確保の面で，北側の道路幅は非常に狭く，南側については市の公園管理道路のため緊急時と学年規模以上の行事以外で通行できない状況にある。特に，降雪時の避難路及び進入路の確保について危惧している。

附属中学校への入学を希望する児童が少しでも早い時期から準備ができるように，学校説明会を７月３日（土）に開催した。そこでは，附属中学校教員による模擬授業を行ったり，事前に作成した学校紹介用パンフレットを配付したりして，当校のよさを強調することで，参加した児童の附属中学校への受験意志が固まるように努めた。また，市の校長会や上越管内の小学校へ直接訪問してのＰＲ，生徒募集用ポスターの作成と管内の小学校・公共機関・塾への掲示依頼の取組を行った。更に要請があれば出向いて学校説明を行うように計画したところ，５校（昨年７校）の小学校等から要請があり，これを受けて説明を行った。

さらに，地元新聞への宣伝掲載及び新聞への募集チラシの折り込みを実施した。その結果，159名（昨年　157名。159名のうち93名が公立小学校）に及ぶ出願があり，定員を充足することができた。

市内にある中等教育学校の人気が高まれば，当校の入学希望者数への影響も予想されることから，今後は更に魅力あふれる学校づくりに努めるとともに，そのよさを伝えるＰＲ活動にも一層の強化を図っていく。