教職大学院でも大切にしたいこと |
(4)「認識論的分析」と「メタ知識」Wittmann氏は,概念的及び実践的変更のための創造的なデザインが,「フロイデンタール研究所で行われた算数の組織的,認識論的分析,及び授業設計者の直観に基づいたもの」であったと述べていますが,私はこの言葉に強い共感を覚えます。というのも,私にとって,三角形の合同条件の授業改善のために行った三角形の合同条件に関する認識論的分析が授業改善のための新しいアイディアを創出する上で極めて重要であったからです。 ここで,三角形の合同条件に関する認識論的分析とは何かということですが,それは三角形の合同条件とは一体何であるか。どのような必要性,問題から生まれたアイディアなのか。三角形の合同条件はなぜ3つなのか。本当に3つだけなのか。それが成立する基準は何か,等々を探究することでした。 さて,このような探究を通して得られる知識とは何か。それは三角形の合同条件の知識と不可分に結びついていることは確かですが,それ以上に,三角形の合同条件についての知識,三角形の合同条件とわれわれ人間との関わりや関係を含んだ知識です。 それは三角形の合同条件がどのようにして生まれ,どのようにして成立し,発展するかについての知識,あるいは,三角形の合同条件を創りだすための知識(単なる記憶の再生とは異なる)であり,その知識が生まれる問題状況や基準でもあります。私たちは,この知識によって,三角形の合同条件を創りだしたり,改良することさえできるでしょう。 このような知識は,「知識についての知識」:メタ知識と呼ばれています。私は「知識についての知識」として特徴づけられた,この認識論上重要な認識の起源が,アメリカの教育学者B.O.Smithの著書「実世界のための教師」*7)の中にあり,学習動機が十分でない生徒を指導する上で必要不可欠な「教師の知識」として初めて意識されたという事実は極めて重要です。 というのも,メタ知識は,普段はあまり意識されませんが,知識を教えようとしたときに,しかも,その知識にあまり興味を持っていない人に教えようとしたときに初めて意識されるものであることを示唆しているからです。したがって,メタ知識はプロの教師に固有な知識であり,特に,子どもたちを教材によって惹きつけ,感動させることができる優れた教師は,このような知識を豊富にもっていると考えられます。 多くの優れた教師のこの暗黙的な知識---メタ知識を顕在化し,共有し,さらなる研究によって発展させていくことは,授業開発研究の中核とならなければなりません。これが私の研究方法論の中心にメタ知識が位置づけられている最も大きな理由でもあります。 ご承知のように,数学を教えてほしいという生徒に数学を教えることはそれほど難しくありません。難しいのは,そのような動機づけが十分でない生徒を教材によって惹きつけることです。このことに気づくことがまず重要です。しかし,メタ知識の考え方で,もっと重要なことは,そして最も重要なことは,動機づけが十分でない生徒を惹きつけるまさにその教材が,実は全ての生徒に本質的に必要であるということに気づくことなのです。 |
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