\documentclass[a4paper,twocolumn,11pt]{jarticle} \setlength{\columnseprule}{0pt} \setlength{\columnsep}{3zw} \pagestyle{empty} %\setlength{\oddsidemargin}{40pt} %\setlength{\columnsep}{60pt} %\setlength{\baselineskip}{50mm} %\setlength{\textwidth}{21zw} %\setlength{\textheight}{36zw \topmargin=5mm \oddsidemargin=-3mm %\evensidemargin=1cm \textwidth=16.4cm \textheight=23cm %\footskip=mm %\setlength\textheight{36\baselineskip} %%% Document Start %%% \begin{document} \twocolumn[% \begin{center}{\LARGE 複素射影空間内の円について}\vspace{7mm} \begin{flushright} 教科・領域教育専攻\\ 自然系コース(数学)\\ 奈良岡 英男\\ \vspace{8mm} \end{flushright} \end{center}] \setlength{\baselineskip}{6.4mm} 微分幾何学はその名の示すように、微積分の方法を幾何学的問題に応用する学問で、その歴史は微積分と同様に古いといえる。 現代的な微分幾何学はGaussの曲面の研究に始まる。彼は曲面における曲率の概念を定義した。そして、RiemannがGaussの曲面論を $n$次元の抽象的な多様体に拡大し、Gaussのアイデアの一般化に成功した。これが微分幾何学の発展のきっかけとなり、 今日Riemann幾何学と呼ばれているものの始まりである。 円の研究は微分幾何学における興味深い対象のひとつである。Euclid平面$E^2$の円と直線はEuclid幾何学の誕生と同時に考えられ、 基本的な図形である。$1974$年にK.NomizuとK.Yanoは$n$次元Riemann多様体上の曲線が「円である」ことの定義を与えた。 一般にRiemann多様体上の円は閉じていない。もっとも、Euclid球面$S^2$上の円はすべてコンパクトであり、閉じている。 しかし、Euclid平面$E^2$上の円にはコンパクトで閉じた円(すなわち、“ふつうの円”)と非コンパクトで閉じていない 円(すなわち、“ふつうの直線”)の2種類がある。また、Poincare平面$H^2$上の円にも同様の2種類の円がある。 ここで、2次元空間形(Euclid平面$E^2$、Euclid球面$S^2$、Poincare平面$H^2$)上の“ふつうの円”であるとは、 一定点より一定距離だけ離れた点の図形である。 コンパクトなRiemann多様体上には、非コンパクトで閉じていない円があるか否かの問題が考えられる。 本修士論文では、複素射影空間$CP^n$上の円について考察し、その基本的な性質を調べ、円の分類を行った。 2次元空間形上の円については、だだ一つの不変量、曲率$(curvature)$があり、円はこの曲率によって 特徴づけられる。しかし、複素射影空間$CP^n$上の円については、二つの不変量、曲率と 複素れい率$(complex\;torsion)$があり、この二つの不変量によって特徴づけられる。ここでは、 複素射影空間$CP^n$を幾何学的見地から考える。すなわち、$2n+1$次元球面$S^{2n+1}$から $n$次元複素射影空間$CP^n$上への$Hopf\;fibration$が、Riemann沈め込み$(Riemannian\;submersion)$と なるように、$CP^n$に計量構造と複素構造を導入する。このように、$CP^n$にKahler構造(すなわち、 複素構造とそれと両立する計量構造を合わせて考えたもの)を導入して、$CP^n$内の円について考察する。 また、この修士論文は、\fussy{T.Adachi,$\;\;$S.Maeda,$\;\;$S.U\-dagawa}らによる{$1994$}年 の研究結果の紹介である。 本論文は6章で構成されており、その内容は次の通りである。第1章では、$n$次元Euclid空間$R^n$よりも やや一般的な空間に微分法の概念を拡張するために、可微分多様体を定義する。これにもとづき、 可微分多様体上に接ベクトルの考えを拡張し、接空間を定義する。また、はめ込みと埋め込みを定義し、 これを用いて部分多様体を定義する。さらに、向き付けと可微分多様体のいろいろな例、 ベクトル場とブラケット積について述べる。 第2章では、可微分多様体上の任意の点における接空間に内積を与えることによってRiemann計量を定義する。 このRiemann計量を用いてRiemann多様体を定義し、Riemann多様体のいくつかの例を示す。 また、Riemann計量により、曲線の長さが定義される。次に、共変微分の概念を定義する。 歴史的に共変微分は「ベクトル場が平行であるならば、曲線に沿うベクトル場の共変微分は 恒等的にゼロである。」という平行性の概念から出発して定義される。また、多様体上のaffine接続で Riemann計量を両立するLevi-Civita接続(Riemann接続)を定義する。 第3章では、Riemann多様体の2つの基本的な概念である測地線と曲率について述べる。 Riemann幾何学における測地線とは、Euclid幾何学における直線に対応するものである。 この論文では、加速度がゼロとなる曲線として測地線の概念を導入する。そして、 「任意の曲線がその曲線上のすべての2点間の弧の長さを最小にするならば、 その曲線は測地線である。」ことを示す。次に、曲率について述べる。 曲率とは直観的にRiemann多様体がEuclid空間から離れている量を測定するものと 考えることができる。また、RiemannによるGauss曲率のアイデアの一般化である 断面曲率について述べる。さらに、Ricci曲率とscalar曲率を定義する。 第4章では、Riemann多様体における円の研究の前提となる等長的はめ込みを定義する。 ここで、Gaussの公式を定義し、等長的はめ込みの第二基本形式を考える。また、 Gaussの公式を用いて、第3章で定義された断面曲率の幾何学的解釈を探る。さらに、 等長的はめ込みが全測地的であるための条件を述べ、平均曲率ベクトルを定義し、 極小部分多様体について述べる。次に、等長的はめ込みの法接続を導入し、 Weingartenの公式を導く。そして、それを用いてRiemann部分多様体の基本方程式について述べる。 第5章では、Riemann多様体における円と外在的球面の定義を行い、円に関する重要な不変量で ある曲率を定義する。また、円とその基本周期に関する四つの例を提示し、閉じていない円の 存在を示す。そして、円に関する命題を提示し、Riemann多様体における円を考える。 次に、外在的球面に関して、「Riemann多様体$\widetilde{M}^m$の部分多様体${M^n}$は、 $M^n$内の任意の円が、$\widetilde{M}^m$内の円であるときに限り、外在的球面である。」 という定理の証明を与える。 第6章では、複素射影空間の定義と、もう一つの円に関する重要な不変量である複素れい率を定義する。 続いて、(1)複素射影空間において同じ曲率$1/\sqrt{2}$をもつ円は存在するが、基本周期が異なること。 (2)曲率$1/\sqrt{2}$の円が閉じているか否かは、複素れい率に依存することを示す。最後に、 「$\gamma$を$CP^n (4)$内の曲率が$k$、複素れい率が$\tau\neq0\pm1$の円とする。 そのとき、$\lambda^3-(k^2+1)\lambda+k\tau=0$のゼロでない実数解を$a,b,d$とする とき、 $a/b,b/d,d/a$のひとつが有理数ならば、$\gamma$は単純閉曲線であり、 $\gamma$の基本周期は$2\pi/(b-a),2\pi/(d-a)$の最小公倍数である。また、 $a/b,b/d,d/a$のそれぞれが無理数ならば$\gamma$は単純曲線である。」 という定理の証明を与える。この定理によって、複素射影空間における任意の円は単純曲線で あることを示す。\\ 参考文献\\ $[1]$小林昭七,曲線と曲面の微分幾何学,裳華房,(1977).\\ \fussy{ $[1]$M.P.do Carmo,{\it Riemannian Geometry},Birkh\"auser Boston,(1991).\\ $[2]$K.Nomizu and K.Yano,{\it On Circles and Spheres in Riemannian Geometry}, Math.Ann.210,163-170,(1974).\\ $[3]$T.Adachi, S.Maeda and S.Udagawa,{\it Circles in a Complex Projective Space}, Osaka J.Math.32,709-719,(1995).}\\ \begin{center} 指 導 森 博\\ \end{center} \end{document} Euclid平面$E^2$における“ふつうの円”や、球面$S^2$上の“ふつうの円”は閉じている。 しかし、Euclid平面$E^2$における“ふつうの直線”や、Poincare平面$H^2$上の任意の円に ついては多くの閉じていない円が存在し、円が閉じているか否かは$H^2$上の円の半径に依存する。 また、コンパクトなRiemann多様体である複素射影空間内にも、多くの閉じていない円が存在する。 この定義によると、 上記の$E^2$上の“ふつうの円”と“ふつうの直線”はK.NomizuとK.Yanoの定義では円となり、 同様な取り扱いができる。Euclid球面$S^2$上の“ふつうの円”および、Poincare平面$H^2$上の “ふつうの円”も、K.NomizuとK.Yanoの定義で円となる。また、K.NomizuとK.Yanoは円が閉じる ことについても定義を与えている。それによると、一般にRiemann多様体上の円は閉じていない。 もっとも、$S^2$上の円はすべてコンパクトであり、閉じている。しかし、平面$E^2$上の円には コンパクトで閉じた円(すなわち、“ふつうの円”)と非コンパクトで閉じていない円(すなわち、 “ふつうの直線”)の2種類がある。また、Poincare平面$H^2$上の円にも同様の2種類の円がある。 $K_\sigma$は$\sigma$方向への多様体の曲がり具合を示す量である。