テーマ別編 高等学校 8/8
「アメリカ合衆国の歴史」をどのように教材化するか
筑波大学附属高校 田尻信市
独立宣言の署名風景 3.教材化の視点
 今日、高校歴史の授業では、合衆国と同様日本でも、プリマス植民や独立戦争を「自由と民主主義の母国・アメリカの原点」とか「フランス革命と並ぶ輝かしい人類の一大成果」という形では取り扱われていない。合衆国史やアメリカ文明の学習では、インディアンはネイティブ・アメリカン、黒人はアフリカ系アメリカ人と呼ばれるようになり、多文化主義に基づく歴史理解が一般化している。独立戦争は18世紀から19世紀前半にかけて南北アメリカを席巻した「クレオール革命(植民地生まれの白人エリートが本国支配に対して起こした革命)」の最初にして最大の出来事として位置づけられている。そのため、私たちはプリマス植民や独立戦争を教材化する場合には、以下の3点に留意することが必要である。
 第1に、大西洋を囲む西ヨーロッパ、北アメリカ、西アフリカに成立した大西洋貿易の構造の中に、北アメリカ植民地を位置づける。
 第2に、独立戦争の意義を一国史的枠組みからでなく、西ヨーロッパ、ラテンアメリカの政治的動向とからめて一体的に捉える。
写真13 独立宣言の署名風景
 1775年2日にジェファソン、フランクリンらの起草委員がフィラデルフィアで署名し、7月4日に公布された(ボストンのスクール・ストリートにある「フランクリンの像」台座のレリーフから)。
 第3に、白人植民者の視点だけでなく、ネイティブ・アメリカンやアフリカ系アメリカ人の視点を取り入れ、歴史を多角的に捉える。
 このプロジェクトに参加し実り豊かな調査成果をあげることができ、私自身、大変満足している。今後は、この成果を実際の授業に生かすべく、教材化に努力していきたいと考える。
参考文献
・久米邦武編『米欧回覧実記(一)』(岩波文庫、1977年)
・文部省『高等学校学習指導要領解説 地理歴史編』(実教出版、1989年)
・有賀貞・木下尚一・志邨晃佑・平野孝編『アメリカ史1』(山川出版社、1994年)
・川北稔「環大西洋革命の時代」『講座岩波 世界歴史17』(岩波書店、1997年)
・JTB出版事業部編『街物語 アメリカ』(JTB、1997年)
・冨所隆治『アメリカの歴史教科書』(明治図書、1998年)