テーマ別編 高等学校 6/6
ピッツバーグの産業構造変化と都市再開発
新潟県立新潟西高等学校 志村 喬
表4 ピッツバーグ市と大都市圏の人口推移
地域 1980年人口 1990年人口 1995年人口(推定値) 2000年人口(予想値)
ピッツバーグ市 423,938 369,879 資料なし 資料なし
ピッツバーグ大都市圏 2,571,223 2,394,811 2,394,720 2,394,400
注:ピッツバーグ大都市圏は、ピッツバーグ市を含む周辺6郡で構成
資料:ペンシルバニア南西地域アソシエーションのホームページ掲載データ(1998)

5.ピッツバーグの現状
 ピッツバーグ市は、1985年にランド・マクナリー社が発表した全米329都市のランキングにおいて、「最も住み良い都市」として一位にランキングされた。これは、カーネギ・メロン大学やデュケイン大学をはじめとした各種教育機関の整備、ピッツバーグ交響楽団(本拠はハインツ・ホールでありハインツは表2掲載の食品企業)をはじめとした文化環境の良さ、ピッツバーグ大学医学部に代表される医療機関の充実などが高く評価された結果であった。そして現在、ピッツバーグ市の主要産業は、かつての鉄鋼とガラスを中心とした工業から、バイオテクノロジー、医学、ソフトウエア産業などハイテク産業に変化している。
 しかし、ピッツバーグ市ならびにピッツバーグ大都市圏の人口推移を示している表4によれば、市人口も大都市圏人口も依然として減少を続けていることが分かる。さらにピッツバーグ市の年齢別人口構成は、65歳以上が17%を占め人口の高齢化が進んでいる(これら高齢者の多くは、かつての鉄鋼労働者であり、その居住地は川沿いの工場の周辺である)。また、ピッツバーグ市の一人当たり所得額も同大都市圏内では比較的低位である。これらは必ずしも市からの人口流失が止まってはおらず、生産年齢層の人々や、比較的所得の高い人々が市外に居住する傾向があることを示唆している。ピッツバーグ大都市圏全体で考えた場合、人口の郊外分散化が進んでいるのである。商業施設においても都心部が再開発されたものの、図1に示したとおり、郊外の主要ハイウェイ沿いにショッピングセンターが展開している。


6.ピッツバーグの教材化にあたって
  以上のような資料を組み合わせることにより、ピッツバーグに関するより効果的な授業が可能になると考えられる。ただし「ピッツバーグにおける都心再開発の成功」を授業実践する場合、次の事には留意する必要がある。かつてから都心であったゴールデン・トライアングル地区は確かに成功を収めてきた。しかし、かつての鉄鋼業地区・鉄鋼労働者居住地区では衰退したままの場所がいくつか存在し、全市的にみるならば人口の減少・高齢化や、商業をはじめとした各種施設の郊外立地が見られるという事実である。これは、ピッツバーグを点としてとらえるのではなく、広がりを持った地域としてとらえることでもあり、同時にその地域の中で生きてきた多様な人々の営み・歴史を重視しながら、ピッツバーグを理解することでもある。少なくとも、都心再開発でピッツバーグ市の都市問題が全て解決された、といった扱いは避けなければならないであろう。


主要参考文献等
小島晃・小山昌矩・高木正(1993):『地球を旅する地理の本 6:北アメリカ・オーストラリア』 大月書店
Curtis Miner(1989):Homestead:the story of a steel town. Historical Society of Western Pennsylvania.
Paul Robert ed.(1996):Point in Time:building a life in Western Pennsylvania. Historical Society of Western Pennsylvania.
ピッツバーグ市のホームページ http://www.city.pittsburgh.pa.us
ペンシルバニア南西地域アソシエーションのホームページ http://www.pennsouthwest.org
ピッツバーグ地域歴史センター(Pittsburgh Regional History Center)の展示資料