訪問地のミネソタ州レンビル郊外の農家は約3000エーカー(約1200ha)の土地を持つ農家で、合衆国の平均の6倍以上、ミネソタ州の平均の約9倍というかなり大規模な農家であった。ミネソタ州は農地面積において合衆国内で12番目の位置を占め、一人あたりの農地面積では10番目に位置している。訪問先の農家は合衆国全体で見ると5番目のモンタナ州の平均よりも広い土地を所有しており、その広さは合衆国の農民が持つ農場では上位1.7%に入るほどの広さである。
また、ミネソタ州はスペリオル湖の西、北緯43.5°から49°に位置し、農業地域区分で言えば、ミネソタ州は大部分が酪農地帯に区分されているが、南西部はアイオワ州から続くとうもろこし・大豆地帯である。今回訪問した農家はとうもろこし・大豆を中心につくっていた。この農家を取材することによって合衆国の大規模で企業的な農業を教材化するよい機会となるであろう。さらにこの農家ではとうもろこし・大豆という日本に輸出されている農作物をつくっているため、収穫された農作物のルートをたどることによって、日本とアメリカの密接な関わりが生徒に自覚されると思われる。
第1図 ミネソタ州の位置ととうもろこし・大豆栽培地域 |
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今回、アメリカの農業学習にあたってより理解を深めるために、日本の農業と比較しながら学習を進めることにした。幸い、勤務校の学区には準主業農家が一軒ある。それとの比較によってよりアメリカの農業の特色を際立たせることができると思われる。
(3)ねらい
1) | アメリカ合衆国の特色についての興味・関心を持って追究しようとする。 |
2) | アメリカ合衆国の現状やその変化の様子に問題意識を持って、その背景にある自然及び社会的条件を明らかにする。 |
3) | アメリカ合衆国について写真教材や統計資料よりその特色を読み取り、わかりやすく発表しようとする。 |
4) | アメリカ合衆国についてその概略をプリントに記入できる。 |
2 アメリカの農業学習の構想
(1)単元の指導計画
第1次 移民の国アメリカ | 1時間 |
第2次 自然と歴史 | 1時間 |
第3次 大規模な農業(1/3が本時) | 3時間 |
第4次 巨大な工業力 | 1時間 |
第5次 日本との関わり | 1時間 |
(2)アメリカの農業学習の構想
1/3時間目 アメリカ大規模農家の姿 本時
・アメリカ大規模農家の写真よりアメリカの農業の特色を読み取ろう。
大規模な農業経営 | … | 大型農業機械の写真、広大な農地の写真、穀物倉庫の写真、ガレージの写真(日本人にはあまり馴染みないキャンピングカーがあることから豊かさが読み取れるもの) |
企業的な農業 | … | コンピュータで情報を収集する。(コンピュータの画面の写真・コンピュータで情報を収集するための衛星放送のアンテナがある家の概観)穀物倉庫を借りる。
(穀物倉庫の写真、穀物エレベーターの写真) |
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・ | ボブさんの農業経営についての説明 |
| 人を雇って農業をおこなっている。 |
| 農地をもっと増やしたい。 |
| 本当に適地適作…3種類しか作っていない。 |
・ | アメリカの農業の姿をつかみ、特色をまとめる。 |
2/3時間目 日本と比べてみよう |
・ | 自分の家の農業経営について発表する。 |
・ | 私達の町の準主業農家の姿を紹介する。 |
・ | アメリカ大規模農家との違いは、共通点は、何か。 |
・ | 日本とアメリカの農家を学習した感想をまとめる。 |
3/3時間目 日本にやってくるアメリカの農産物 |
・ | 家にある食べ物でアメリカ産のものを探そう。 |
・ | 日本にやってくるとうもろこし・大豆はどのルートを通って日本にくるのか。 |
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(3)主な学習活動
この学習活動ではアメリカの農業の持つ特色を写真教材を使ってよりリアルに生徒に感じさせたい。そのためには生徒の持つ資料や教科書などを使わずに教師側が提示する写真教材のみを使って、生徒自らがアメリカの農業の特色を見つける、読み取る作業を重視することにする。
学習活動の内容は、日本の食生活と関わりの深いとうもろこし・大豆を原料とした食物を学習の導入に使い、何が原料であるかを考えさせる。輸入されているとうもろこしのほとんどが飼料としてつかわれていることから、生徒が直接口にする物として把握しにくい。また、大豆も味噌や醤油、豆腐などに加工されてしまい、これも輸入された大豆であるという観念がないといえる。この導入ではアメリカから輸入されたとうもろこし・大豆が私達の食生活と深く関わっているということを意識させたい。この導入を受けて、実際に日本に輸入されているだろうと思われる、とうもろこし・大豆農家の写真資料をつかっての学習にはいるのである。
読み取りに使う写真教材はカラーコピーしてA3用紙1枚に貼る。四人グループに一組ずつ配る。写真教材からアメリカの農業についてわかること、疑問に思ったことをプリントの空いているところに書く。書いたものを発表し合う。ほとんどの生徒の家庭で農業を営んでいるので意見は出やすいと思う。
写真からは読み取れないことは教師が補足することにする。疑問点は解決できればよいが、解決できないときは、今後の課題として残しておく。
本時にアメリカの農業の特色がはっきりと生徒に印象付けられれば、次時の学習につながりやすい。
(4)指導案
主な生徒の活動 | 時 間 | 主な教師の支援 |
○教師が示す食物の原料が何であるかを推測する。
触ってみる。舐めてみる。
コーンフレークは気づきやすい。
| 20分 | ○とうもろこしが原料のコーンスターチ・ビール・コーンミール・コーンフレークなどを生徒に示す。 |
○飼料は何であるか発表する。 | ○飼料としてのとうもろこしを示す。 |
○食物の原料と飼料の原料がとうもろこしであることを確認する。 | ○味噌・醤油を示す。 |
○味噌・醤油の原料が何であるか発表する。 | |
○とうもろこし・大豆はアメリカからの輸入に頼っていることを確認する。 | ○とうもろこし・大豆を日本はアメリカからの輸入に頼っていることを統計資料で示す。 |
○写真資料から気づいたこと、感想、疑問点を書き、発表する。 | 20分 | ○とうもろこし・大豆農家の写真資料を配る。 |
| ○訪問した農家アメリカ国内の農家の中で耕地面積では1.7%にはいり、収入では上位30%にはいる大規模農家であることを知らせる。 |
○写真資料の読み取りからアメリカの農業の特色をまとめる。 | 10分 | ○写真資料からは読み取りにくいことを補足する。 |
3 授業実践
(1)主な授業の概要
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写真3 授業風景(触ってみよう・舐めてみよう) |
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写真4 授業風景(飼料に興味津々) |
教師: | (コーンスターチを出して)これは何だと思いますか。 |
生徒: | (触ってみて)片栗粉!片栗粉だよ。この感じ。 |
教師: | 惜しいですね。この白い粉はビールの原料にもなっています。(コーンフレークを出して)ではこれは何ですか。 |
教師: | (鳩の飼料を示して)ここにも同じ原料が入っています。 |
教師: | (醤油と味噌を出して)ではこれとこれの共通の原料は何でしょう。 |
教師: | 日本はとうもろこしと大豆のほとんどをアメリカから輸入しています。このグラフを見てください。
とうもろこし、大豆は共にどのくらいの割合でアメリカから買っているでしょう。 |
生徒: | とうもろこしは94.7%、大豆は75.8%です。 |
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データブックオブザイヤー1999より作成 | データブックオブザイヤー1999より作成 |
教師: | その通りです。とうもろこしは輸入の約95%を、大豆は約75%をアメリカから買っているのです。輸入とうもろこしのほとんどが飼料という形で輸入されていますが、飼料は家畜の餌になり、その家畜を私達が食べるということは輸入とうもろこしは私達の食生活に深く関わっていることになります。また、大豆は味噌や醤油に加工されて、これもまた私達の食生活に関わっています。今日はこれらの農作物をつくっている農家の写真からアメリカの農業の学習に入りましょう。(とうもろこし・大豆を作っている農家の写真を各グループごとに1枚ずつ配布して)写真を見てください。これらの写真はすべてがとうもろこし・大豆農家のボブさん一家に関係のある写真ばかりです。これらの写真から気づいたこと、わかること、写っているものが何であるかなどを想像して書いてみなさい。 |
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写真5授業風景(グループで話し合い) |
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写真6 ボブさんの家の写真 |
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写真7 ボブさんの仕事場のコンピュータ |
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写真8 種まきの機械 |
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写真9 穀物エレベーター |
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写真10 とうもろこしの穀物エレベーターへの入荷 |
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写真11 大豆畑 |
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写真12 刈り取りの機械の前で全員写真 |
生徒B: | アンテナが長い。何でだろう。アメリカはアンテナが長いのかな。 |
教師: | 子供達が乗っているこの乗り物は何だと思いますか。 |
生徒C: | 農作業をする機械!子供の時から練習しているのではないかな。 |
生徒D: | コンピュータを使っている。(写真7)これは気象情報だね。
世界中からいろんな情報を仕入れるんじゃないかな。 |
生徒E: | この機械は種を植えるんじゃないかな。このタンクに種を入れるの。(写真8) |
生徒F: | これはわかる。穀物エレベーターだと思います。(写真9)小学校の時に習いました。 |
教師: | この写真の黄色いものは何だと思いますか。(写真10) |
生徒H: | とうもろこしだよ。とうもろこしを出荷しているところの写真です。(写真10) |
教師: | それでは各グループごとにそれぞれの写真について発表してください。 |
生徒: | (写真についてわかる範囲で発表する。内容は前述の通り) |
教師: | これは脱穀の機械の前でみんなで取った写真です。何人いるかというと20数人です。このクラスの人数よりやや多めですね。この写真はこんなに大勢の人が機械の前に立っても機械が隠れないくらい大きいということをわかってもらいたかったから入れたのです。皆さんは子供達の乗っている乗り物について農作業の機械だといっていましたが、これは移動の機械です。この機械に乗って畑に出ているお父さんやお母さんを呼びに行ったりするのです。この子供達の友達もこういう乗り物を持っていて移動に使うそうです。自転車も乗るけどこちらのほうが楽に早く移動ができると言っていました。そのくらい広いのです。大豆畑もとうもろこし畑も広かったですよ。広い農場でできる農作物は自分の家の倉庫にも蓄えておきますがそこでは足りずに日本の農協と似た組織で運営している穀物エレベーターにも預けます。運ぶのは自家用のトラックで写真のように粒状にして納めます。これらのとうもろこしは飼料ですから。
ボブさんの家では皆さんが気づいたようにコンピュータを使って情報を仕入れてそれを農業経営に役立てていました。アンテナは、いつ作物を出荷するか、刈り取りはいつにするかなどを決めるための情報をキャッチするためのものです。個人経営でも会社のようですね。それでは、今日の授業を終えてわかったことをノートに書きましょう。 |
4 授業の評価
アメリカの農家のさまざまな写真からアメリカの農業の特色を読み取ることをねらいとしたが、写真資料が多すぎて、特色の読み取りはできても、深く考える場面を設定することができなかった。もう少し写真を精選して、2〜3枚の写真からわかることを出し合ったり、そうすることにより、農業の特色を生徒が見つけていくという過程を設定することも必要であると思った。その後の農業学習で写真教材はその後にもフィードバックする形で使用した。今後は写真を組み合わせてストーリーを作るなどを試みてみたい。学習を終えての生徒のノートには機械の大きさ、移動用のバギーや、ガレージの中のキャンピングカーやヨット、コンピュータを使っていることなどに驚いたようすが書かれてあった。どこまでも広いアメリカの農地を写真ではなかなか伝えられないのが残念であった。
5 参考文献
データブックオブザワールドvol,11(1999年版) 二宮書店
アメリカの州別の農業関係のデータは以下を参照。
http://www.nass.usda.gov/census/census97/volume1/mn-23/toc97.htm
http://govinfo.kerr.orst.edu/ag-stateis.html
中学校社会科地図 帝国書院
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