中学校1年生地理的分野
アメリカ合衆国の農業
〜ミネソタ州南西部 とうもろこし・大豆農家を中心に〜
新潟県上越市立潮陵中学校 中澤 優子

1 はじめに
(1)新学習指導要領との関係
 新学習指導要領では、地理的分野の目標(3)に次のように記している。
 「大小様々な地域から成り立っている日本や世界の諸地域を比較し関連付けて考察し、それらの地域は相互に関連し合っていることや各地域の特色には地方的特殊性と一般的共通性があること、また、それらは諸条件の変化などに伴って変容していることを理解させる。」
 また、内容(2)ウでは世界の国々について次のように記している。
 「世界の国々の中から幾つかの国を取り上げ、地理的事象を見いだして追究し、地域的特色をとらえさせるとともに、国家規模の地域的特色をとらえる視点や方法を身に付けさせる。」
 さらに、内容の取り扱いについては次の事項に配慮することとする。※( )内中澤補足
ア 「ア〜ウ(ア 身近な地域 イ 都道府県 ウ 世界の国々)については各項目を比較し関連付けて取り扱い、地域の規模に応じて地域的特色をとらえる視点や方法が異なってくること、それに伴って地理的なまとめ方や発表の方法も工夫が必要であることなどに留意し、地域の規模に応じた調べ方、学び方を身に付けさせるようにすること。」
エ 「ウ(ウ 世界の国々)については、二つ又は三つの国を事例として選び、具体的に取り扱うようにすること。なお、事例として取り上げる国については、近隣の国を含めて選び、それぞれ特色ある視点や方法で追究するようにすること。」
 世界の国々については、その一つとしてアメリカ合衆国を取り上げる。上記の指導要領を受けて、特に農業学習において日本と比較、関連付けながら、さらに合衆国の農業の中でも、日本の食生活に関わりの深い大豆・とうもろこしに特色のあるミネソタ州の農業を取り上げて、授業を組み立てていくことにする。
写真1 ネーム入りのトラック。ボブさん宅(これで荷物を運びます)写真2 家の周りの航空写真
(2)教材化の意義と教材観
 アメリカ合衆国はわが国と政治的にも経済的にも関係の深い国である。日本にとってアメリカは重要な農産物輸入国である。その割合は小麦が51.2%、とうもろこしが94.7%、大豆が75.8%、肉類、綿花にいたっても他国を圧倒的にしのぐ割合で日本はアメリカから農産物を輸入している。

第1表 アメリカの主要農産物
1997生産量 輸出量 輸入量 日本の輸入
 割合・順位割 合・順位順位・順位順位・順位
小麦11.3% (3)31.7% (1) 5.9% (4)
とうもろこし40.6% (1)75.2% (1) 22.5% (1)
大豆50.5% (1)74.3% (1) 15.0% (1)
繰り綿20.9% (2)25.3% (1)  
1.4% (11)14.7% (2)  
砂糖5.7% (4) 8.4% (2)5.0% (3)
牛肉21.3% (1)   
牛乳15.1% (1)   
バター8.0% (2)   
チーズ24.0% (1)   
データブックオブザワールド1999より作成

第2表 日本との貿易
1996
アメリカの割合他国        
肉類40.40%オーストラリア14.2デンマーク9.9    
小麦51.20%カナダ28オーストラリア20.8    
とうもろこし94.70%アルゼンチン2.2南アフリカ    
綿花49.60%オーストラリア27.6インド5.5メキシコエジプト2.7
大豆75.80%ブラジル10.7パラグアイ5.7中国  
データブックオブザワールド1999より作成

第3表 全米におけるミネソタ州の農業的位置
1996及び1997年
       農地面積(エーカー) 畜産物(頭数)  農産物 百万ブッシェル  
 農産額億ドル畜産額億ドル農家戸数千戸全面積百万1人あたリエーカー万頭万頭小麦 とうもろこし大豆 
1カリフオルニア171.0テキサス77.6テキサス205テキサス129アリゾナ4720テキサス1410アイオア1210ノースダコタ395アイオア1718アイオア416
2アイオア74.0カリフォルニア62.1ミズーリ102モンタナ60ワイオミング3802ネブラスカ655ノースカロライナ950カンザス255イリノイ1469イリノイ399
3イリノイ69.9アイオア54.6アイオア98カンザス48ネバダ3520カンザス655ミネソタ500ワシントン183ネブラスカ1187ミネソタ224
4テキサス53.0ネブラスカ52.8ケンタッキー88ネブラスカ47ニューメキシコ3222オクラホマ540イリノイ440モンタナ177ミネソタ869インディアナ204
5フロリダ49.4カンザス45.7ミネソタ87サウスダコタ44モンタナ2591カリフォルニア455インディアナ360サウスダコタ139インディアナ670オハイオ157
6ミネソタ46.4ウィスコンシン42.9ウィスコンシン79ニューメキシコ44アラスカ1804ミズーリ455  アイダホ119サウスダコタ370ミズーリ150
7ネブラスカ41.8ミネソタ41.7イリノイ77ノースダコタ40サウスダコタ1354アイオア390  ミネソタ102  ネブラスカ135
8ワシントン40.2ノースカロライナ44.3オハイオ77アリゾナ35コロラド1327    オクラホマ93  アーカンソー112
9インディアナ36.6アーカンソー33.6  ワイオミング35ネブラスカ855          
10カンザス33.0ジョージア32.8  オクラホマ34ユタ821          
       (12)ミネソタ30ミネソタ343(11)ミネソタ275        
 全米1094 929 2058 968 470 10121 5590 2282 9293 2382
データブックオブザワールド1999より作成

 訪問地のミネソタ州レンビル郊外の農家は約3000エーカー(約1200ha)の土地を持つ農家で、合衆国の平均の6倍以上、ミネソタ州の平均の約9倍というかなり大規模な農家であった。ミネソタ州は農地面積において合衆国内で12番目の位置を占め、一人あたりの農地面積では10番目に位置している。訪問先の農家は合衆国全体で見ると5番目のモンタナ州の平均よりも広い土地を所有しており、その広さは合衆国の農民が持つ農場では上位1.7%に入るほどの広さである。
 また、ミネソタ州はスペリオル湖の西、北緯43.5°から49°に位置し、農業地域区分で言えば、ミネソタ州は大部分が酪農地帯に区分されているが、南西部はアイオワ州から続くとうもろこし・大豆地帯である。今回訪問した農家はとうもろこし・大豆を中心につくっていた。この農家を取材することによって合衆国の大規模で企業的な農業を教材化するよい機会となるであろう。さらにこの農家ではとうもろこし・大豆という日本に輸出されている農作物をつくっているため、収穫された農作物のルートをたどることによって、日本とアメリカの密接な関わりが生徒に自覚されると思われる。

第1図 ミネソタ州の位置ととうもろこし・大豆栽培地域
 今回、アメリカの農業学習にあたってより理解を深めるために、日本の農業と比較しながら学習を進めることにした。幸い、勤務校の学区には準主業農家が一軒ある。それとの比較によってよりアメリカの農業の特色を際立たせることができると思われる。
(3)ねらい
1)アメリカ合衆国の特色についての興味・関心を持って追究しようとする。
2)アメリカ合衆国の現状やその変化の様子に問題意識を持って、その背景にある自然及び社会的条件を明らかにする。
3)アメリカ合衆国について写真教材や統計資料よりその特色を読み取り、わかりやすく発表しようとする。
4)アメリカ合衆国についてその概略をプリントに記入できる。

2 アメリカの農業学習の構想
(1)単元の指導計画
第1次 移民の国アメリカ1時間
第2次 自然と歴史1時間
第3次 大規模な農業(1/3が本時)3時間
第4次 巨大な工業力1時間
第5次 日本との関わり1時間
(2)アメリカの農業学習の構想
1/3時間目 アメリカ大規模農家の姿 本時
・アメリカ大規模農家の写真よりアメリカの農業の特色を読み取ろう。
大規模な農業経営大型農業機械の写真、広大な農地の写真、穀物倉庫の写真、ガレージの写真(日本人にはあまり馴染みないキャンピングカーがあることから豊かさが読み取れるもの)
企業的な農業コンピュータで情報を収集する。(コンピュータの画面の写真・コンピュータで情報を収集するための衛星放送のアンテナがある家の概観)穀物倉庫を借りる。
(穀物倉庫の写真、穀物エレベーターの写真)
ボブさんの農業経営についての説明
人を雇って農業をおこなっている。
農地をもっと増やしたい。
本当に適地適作…3種類しか作っていない。
アメリカの農業の姿をつかみ、特色をまとめる。
2/3時間目 日本と比べてみよう
自分の家の農業経営について発表する。
私達の町の準主業農家の姿を紹介する。
アメリカ大規模農家との違いは、共通点は、何か。
日本とアメリカの農家を学習した感想をまとめる。
3/3時間目 日本にやってくるアメリカの農産物
家にある食べ物でアメリカ産のものを探そう。
日本にやってくるとうもろこし・大豆はどのルートを通って日本にくるのか。
(3)主な学習活動
 この学習活動ではアメリカの農業の持つ特色を写真教材を使ってよりリアルに生徒に感じさせたい。そのためには生徒の持つ資料や教科書などを使わずに教師側が提示する写真教材のみを使って、生徒自らがアメリカの農業の特色を見つける、読み取る作業を重視することにする。
 学習活動の内容は、日本の食生活と関わりの深いとうもろこし・大豆を原料とした食物を学習の導入に使い、何が原料であるかを考えさせる。輸入されているとうもろこしのほとんどが飼料としてつかわれていることから、生徒が直接口にする物として把握しにくい。また、大豆も味噌や醤油、豆腐などに加工されてしまい、これも輸入された大豆であるという観念がないといえる。この導入ではアメリカから輸入されたとうもろこし・大豆が私達の食生活と深く関わっているということを意識させたい。この導入を受けて、実際に日本に輸入されているだろうと思われる、とうもろこし・大豆農家の写真資料をつかっての学習にはいるのである。
 読み取りに使う写真教材はカラーコピーしてA3用紙1枚に貼る。四人グループに一組ずつ配る。写真教材からアメリカの農業についてわかること、疑問に思ったことをプリントの空いているところに書く。書いたものを発表し合う。ほとんどの生徒の家庭で農業を営んでいるので意見は出やすいと思う。
 写真からは読み取れないことは教師が補足することにする。疑問点は解決できればよいが、解決できないときは、今後の課題として残しておく。
 本時にアメリカの農業の特色がはっきりと生徒に印象付けられれば、次時の学習につながりやすい。
(4)指導案
主な生徒の活動時 間主な教師の支援
○教師が示す食物の原料が何であるかを推測する。
 触ってみる。舐めてみる。
 コーンフレークは気づきやすい。
20分○とうもろこしが原料のコーンスターチ・ビール・コーンミール・コーンフレークなどを生徒に示す。
○飼料は何であるか発表する。○飼料としてのとうもろこしを示す。
○食物の原料と飼料の原料がとうもろこしであることを確認する。○味噌・醤油を示す。
○味噌・醤油の原料が何であるか発表する。 
○とうもろこし・大豆はアメリカからの輸入に頼っていることを確認する。○とうもろこし・大豆を日本はアメリカからの輸入に頼っていることを統計資料で示す。
○写真資料から気づいたこと、感想、疑問点を書き、発表する。20分○とうもろこし・大豆農家の写真資料を配る。
 ○訪問した農家アメリカ国内の農家の中で耕地面積では1.7%にはいり、収入では上位30%にはいる大規模農家であることを知らせる。
○写真資料の読み取りからアメリカの農業の特色をまとめる。10分○写真資料からは読み取りにくいことを補足する。

3 授業実践
(1)主な授業の概要
写真3 授業風景(触ってみよう・舐めてみよう)
写真4 授業風景(飼料に興味津々)
教師:(コーンスターチを出して)これは何だと思いますか。
生徒:小麦粉かな。
教師:触ってごらん。
生徒:(触ってみて)片栗粉!片栗粉だよ。この感じ。
教師:惜しいですね。この白い粉はビールの原料にもなっています。(コーンフレークを出して)ではこれは何ですか。
生徒:コーンフレーク!
教師:原料はなんでしょう。
生徒:コーン!とうもろこしです。
教師:(鳩の飼料を示して)ここにも同じ原料が入っています。
生徒:とうもろこしだ。
教師:(醤油と味噌を出して)ではこれとこれの共通の原料は何でしょう。
生徒:大豆!
教師:日本はとうもろこしと大豆のほとんどをアメリカから輸入しています。このグラフを見てください。
とうもろこし、大豆は共にどのくらいの割合でアメリカから買っているでしょう。
生徒:とうもろこしは94.7%、大豆は75.8%です。
データブックオブザイヤー1999より作成データブックオブザイヤー1999より作成
教師:その通りです。とうもろこしは輸入の約95%を、大豆は約75%をアメリカから買っているのです。輸入とうもろこしのほとんどが飼料という形で輸入されていますが、飼料は家畜の餌になり、その家畜を私達が食べるということは輸入とうもろこしは私達の食生活に深く関わっていることになります。また、大豆は味噌や醤油に加工されて、これもまた私達の食生活に関わっています。今日はこれらの農作物をつくっている農家の写真からアメリカの農業の学習に入りましょう。(とうもろこし・大豆を作っている農家の写真を各グループごとに1枚ずつ配布して)写真を見てください。これらの写真はすべてがとうもろこし・大豆農家のボブさん一家に関係のある写真ばかりです。これらの写真から気づいたこと、わかること、写っているものが何であるかなどを想像して書いてみなさい。
生徒:(グループ活動)
教師:(机間巡視)
生徒A:これはボブさん一家の写真でしょう。
写真5授業風景(グループで話し合い)
写真6 ボブさんの家の写真
写真7 ボブさんの仕事場のコンピュータ
写真8 種まきの機械
写真9 穀物エレベーター
写真10 とうもろこしの穀物エレベーターへの入荷
写真11 大豆畑
写真12 刈り取りの機械の前で全員写真
生徒B:これはボブさんの家です。(写真6)
教師:この家の写真を見て気づくことはないですか。
生徒B:アンテナが長い。何でだろう。アメリカはアンテナが長いのかな。
教師:子供達が乗っているこの乗り物は何だと思いますか。
生徒C:農作業をする機械!子供の時から練習しているのではないかな。
生徒D:コンピュータを使っている。(写真7)これは気象情報だね。
世界中からいろんな情報を仕入れるんじゃないかな。
生徒E:この機械は種を植えるんじゃないかな。このタンクに種を入れるの。(写真8)
生徒F:これはわかる。穀物エレベーターだと思います。(写真9)小学校の時に習いました。
教師:日本にもありますね。
教師:この写真の黄色いものは何だと思いますか。(写真10)
生徒G:……何だろう。大豆かな。
生徒H:とうもろこしだよ。とうもろこしを出荷しているところの写真です。(写真10)
生徒I:これは枝豆だ。あ、大豆畑か。(写真11)
教師:それでは各グループごとにそれぞれの写真について発表してください。
生徒:(写真についてわかる範囲で発表する。内容は前述の通り)
生徒:先生、この写真は何ですか。(写真12)
教師:これは脱穀の機械の前でみんなで取った写真です。何人いるかというと20数人です。このクラスの人数よりやや多めですね。この写真はこんなに大勢の人が機械の前に立っても機械が隠れないくらい大きいということをわかってもらいたかったから入れたのです。皆さんは子供達の乗っている乗り物について農作業の機械だといっていましたが、これは移動の機械です。この機械に乗って畑に出ているお父さんやお母さんを呼びに行ったりするのです。この子供達の友達もこういう乗り物を持っていて移動に使うそうです。自転車も乗るけどこちらのほうが楽に早く移動ができると言っていました。そのくらい広いのです。大豆畑もとうもろこし畑も広かったですよ。広い農場でできる農作物は自分の家の倉庫にも蓄えておきますがそこでは足りずに日本の農協と似た組織で運営している穀物エレベーターにも預けます。運ぶのは自家用のトラックで写真のように粒状にして納めます。これらのとうもろこしは飼料ですから。
 ボブさんの家では皆さんが気づいたようにコンピュータを使って情報を仕入れてそれを農業経営に役立てていました。アンテナは、いつ作物を出荷するか、刈り取りはいつにするかなどを決めるための情報をキャッチするためのものです。個人経営でも会社のようですね。それでは、今日の授業を終えてわかったことをノートに書きましょう。
生徒:(ノートに記入する)

4 授業の評価
 アメリカの農家のさまざまな写真からアメリカの農業の特色を読み取ることをねらいとしたが、写真資料が多すぎて、特色の読み取りはできても、深く考える場面を設定することができなかった。もう少し写真を精選して、2〜3枚の写真からわかることを出し合ったり、そうすることにより、農業の特色を生徒が見つけていくという過程を設定することも必要であると思った。その後の農業学習で写真教材はその後にもフィードバックする形で使用した。今後は写真を組み合わせてストーリーを作るなどを試みてみたい。学習を終えての生徒のノートには機械の大きさ、移動用のバギーや、ガレージの中のキャンピングカーやヨット、コンピュータを使っていることなどに驚いたようすが書かれてあった。どこまでも広いアメリカの農地を写真ではなかなか伝えられないのが残念であった。

5 参考文献
 データブックオブザワールドvol,11(1999年版) 二宮書店
 アメリカの州別の農業関係のデータは以下を参照。
 http://www.nass.usda.gov/census/census97/volume1/mn-23/toc97.htm
 http://govinfo.kerr.orst.edu/ag-stateis.html
 中学校社会科地図 帝国書院


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