1)最初に、「国際連合と国際連盟の共通点と相違点を多面的・多角的に考察する」場を設定する。
ここでは、各グループごとに組織面や参加国、歴史的役割等について話し合い、発表する場になる。
国際連盟については、第一次世界大戦の戦後処理及び「日本と国際連盟の関係」について想起し、「なぜ、第二次世界大戦を防げなかったのか」について考える。国際連合については、その名称(UN)の由来と国連憲章から、国際連合設立の目的について思いを巡らす。両者の比較については、生徒はグループごとに、紛争時の対応や加盟の手続き、当時の歴史的背景から、その共通点と相違点について話し合い、発表する。
2)次に、「朝鮮戦争、湾岸戦争、コソボ紛争時の国際連合の対応から、国際連合の役割と課題を把握する」場を設定する。
ここでは、国連軍が朝鮮戦争時にだけ編制された歴史的背景を追究する。生徒は、朝鮮戦争勃発当時、中国の国連加盟問題とソ連の安全保障理事会のボイコットから国連軍が編制された事実を認識する。冷戦中の米ソの拒否権の連発、冷戦の終焉、ソ連崩壊による国際関係の変化等と国際紛争に対する国際連合としての対応を追究することで、国際連合の歴史的役割の変遷及び現状と課題が浮き彫りになる。
3)続いて、「国家と民族、人権、平和などについて、各自がテーマを設定し追究する」場を設定する。
ここでは、生徒一人一人がこれまでの学習を想起しながら、現在の国際社会と平和の在り方についてテーマを設定する。主に、「地雷処理について」「難民対策」「21世紀における日本の役割」など、これまでの生活経験や学習経験から生じてきたテーマが設定されるであろう。
4)最後に、「追究してきたことを各グループごとで発表する」場を設定する。
ここでは、生徒一人一人が発表資料を作成し、各グループ内で報告する。このような学習を経て、21世紀における日本の進むべき方向を考えたり、自らの生き方に問いかけたりするきっかけになると考える。
3 主な授業の概要
1)の授業を中心に
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写真3:国連本部周辺(UN/DPI) |
教師: | 「最初に、この写真(写真3)を見てください。ここはどこだと思いますか?ヒントは幾つかありますよ。」 |
A男: | 「高いビルが並んでいる・・・。川がある・・・。この高いビルはどこかで見たことがある・・・。」 |
教師: | 「そうです。アメリカのニューヨークです。先日、アンケート調査を行いましたがニューヨークといえば、自由の女神やマフィア、犯罪という回答が多かったようです。実は、この写真(写真3)には、さすがのニューヨーク市警も入れない箇所があります。どこだと思いますか。そこは何とアメリカではないのですよ。」 |
B男: | 「先生、もしかしたら正面の建物は国連本部ですか?」 |
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写真4:変貌するニューヨーク |
B男: | 「国連本部であれば、アメリカではない、ニューヨーク市警も入れない、という理由が分かります。」 |
教師: | 「そうだね。ところで、国際連盟に加盟していなかったアメリカに国際連合の本部を誘致することになったのは、どうしてかな。」 |
生徒: | 「アメリカは議会の反対があり、国際連盟に加盟しなかったのに・・・。」 |
教師: | 「実は、1945年の米国議会で国際連合の常設本部をアメリカに誘致することを満場一致で決議しました。そして、国際連合の総会で各国からの申し出や提案を審議した上で決定したそうです。ロックフェラー2世から850万ドルの寄付があり、敷地の一部等をニューヨーク市から提供されたそうです。また、ニューヨーク市は、国際連合本部周辺の開発計画(総工費3,000万ドル)を引き受けたそうです。国際連盟の参加には消極的だったアメリカが、国際連合にこれだけ積極的になったのも大きな時代の変化です。
さて、今日から、国際連合について勉強しながら、現在と21世紀の国際社会について勉強することにします。最初に、国際連盟について、振り返ります。国際連合と国際連盟には、似ているところと異なるところがあるかと思いますが、一つ一つ探っていきます。(以下国際連盟設立の目的等の確認。略) |
教師: | 「次に、国際連盟がその機能(役割)を果たせなくなったのはいつからだと思いますか。各グループで話合い、そのできごとを一つ挙げてください。その後、国際連合にも同じようなできごとがなかったかを探っていきます。」 |
教師: | 「そろそろまとまったかな。それでは、1班から発表してください。」 |
1班: | 「ぼくたちは、国際連盟は最初から機能していなかったと思います。弱点だらけだったと思います。」 |
S子: | 「それは違うと思います。1920年代は、ヨーロッパの紛争をかなりおさえたと思います。日本も、ヨーロッパの紛争には、積極的に取り組んだようです。」 |
教師: | 「日本の立場が微妙だったようですね。ヨーロッパには客観的な立場で紛争解決に取り組みながら・・・、アジアではどうだったのだろうか。次は、2班。」 |
2班: | 「ぼくたちは、1931年の満州事変だと思いました。せっかく国際連盟のリットン調査団が調査をして勧告を出したのに、日本がその勧告を受け入れずに、脱退することになったのだからです。」 |
3班: | 「わたしたちは、1936年のイタリアのエジプト併合をあげました。このとき、国際連盟はイタリアに対して経済制裁をしたにもかかわらず、途中で解除したからです。もっと強い措置をとるべきだったと思います。」 〜途中略〜 |
教師: | 「ありがとうございました。各グループとも、それぞれの意見とその理由を明確に述べてくれました。各グループの発表を参考にしながら、国際連合について考えてみましょう。それでは、これから配付する写真(写真5、6他)を見てください。」 |
※ここで、国際連合本部に展示されているモニュメントや美術作品を提示する。
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写真5:ルクセンブルク政府寄贈の「発射不能の銃」 | 写真6:Jose Vela Zanetti(スペイン)の作品 |
教師: | 「1枚、1枚の作品に込められている思いや願いを読みとることで、国際連合に何が期待されているか、分かるかと思います。それぞれの写真にタイトル(キャプション)を付けてください。」 |
各グループごとに5分程度話し合った後、次のようなキャプションとそれぞれの理由が発表された。
写真5:「平和の銃」「戦争反対の銃」・・・。
写真6:「21世紀の人々」「平和の誓い」・・・。 |
続いて、国際連合の目的や役割を国連憲章をもとに確認し、次の歴代事務総長の写真とその在職時代の象徴的なできごとをあらわした写真を各グループに配付し、以下のように授業を進めた。
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写真7 |
写真8 |
写真9 |
写真10 |
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写真11 |
写真12 |
写真13 |
UN/DPI |
生徒: | 各グループで相談しながら・・。「どこかで見たことある。きっと国連関係だ・・。」 |
教師: | 「実は、今、配付したのは歴代の国連事務総長です。それぞれ、氏名や出身国、就任時期等については、別の資料に書かれています。出身国を見て、気づいたことはありますか。」 |
生徒: | 「あれ、小さな国の出身者が多い。アメリカやイギリス、ソ連などの大国出身者がいない。」 |
教師: | 「そうですね。国連の事務総長は、もともとはそんなに強い権限はなかったのですが、最近、マスコミ等でも注目されています。以前とは、事務総長の役割は変わってきたようです。さて、次の課題を説明します。これから、それぞれの事務総長が在職した時代の代表的な写真を1〜2枚配付します。各グループで、それぞれの歴代事務総長とそれぞれのできごとを表す写真とを組み合わせてください。」 |
配付した写真
1「朝鮮戦争」 2「アジア・アフリカ会議」 3「ベトナム戦争」
4「石油危機」 5「ベルリンの壁全廃」「湾岸戦争」
6「ソマリア紛争」「日本のPKO」 7 「ユーゴ空爆」 |
その後、各グループで話し合った結果の発表を促し、それぞれの歴史的できごと等について補足説明を行った。
続いて、生徒に次のように問いかけた。
教師: | 「さて、ここで、少し国際連盟での学習を思い出してください。国際連盟がその使命を果たせなかった理由として幾つかあがりましたが、実は、国際連合も幾つかの課題を抱えています。次の資料を見てください。」 |
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配付した資料
資料1 | 記録投票により採択された国連総会決議に対する賛成率。 |
資料2 | 記録投票により採択された国連総会決議に対する反対率。 |
資料3 | 西側諸国の国連総会決議賛成率。 |
資料4 | 1972年国連総会における各国の投票行動。 |
資料5 | 1989年国連総会における各国の投票行動。 |
資料6 | 1993年国連人権条約批准数。 |
資料1〜6:河辺一郎(1994)『国際連合と日本』岩波書店より
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資料7
2000年国連分担金割合 |
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UN Resolutions adopted by the General Assembly during the first Part of its fifty-second Session from 16 September to 22 December, 1997
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生徒は、資料1〜7までの読みとりとこれまでの学習をかかわらせながら、国際連合の現状と課題について、各グループでの話合いを深めていった(約30分)。その後、各グループでの話合いの結果を発表させながら、意見交換の時間を設定した。そこでは、主に次の内容についての問題意識が表出される場になった。
○ | 国連予算に占める日米の負担が予想以上に大きかったこと。 |
○ | アメリカの拒否権発動と南北問題の関係。 |
○ | 日本の人権問題に対する対応について。 |
そして、授業の最後には、「国連と朝鮮戦争」「国連と湾岸戦争」「国連とコソボ紛争」について、さらに話合いを深めることで、国際連合と国際社会の動向がつかめそうだということを確認した。
4 授業の評価
(1) 写真教材について
生徒に、国際連合設立のねらいに迫るため、モニュメントや美術作品を写真教材として提示した。生徒の多くは、具体的なモニュメントや美術作品から、その意図することを読みとることができた。そして、国際連合とそうしたモニュメントや美術作品との関係に思いを重ねた生徒もいた。
(2) 追究活動
生徒一人一人は、国際連合と現実の国際社会とのかかわり、あるいは21世紀の国際社会と日本との関係について、興味や関心、問題意識をもちながら追究している姿が随所に見られた。
また、現在の東ティモールと国際連合の関係、さらにコソボ問題と東ティモールへのアメリカとオーストラリアの対応に温度差があることに着目した生徒もいた。
5 参考文献等
United Nations United Nations Pictorial Book THE UNITED NATIONS AS A PUBLISHER
財団法人矢野恒太郎記念館(1999)『日本国勢図会1999/2000』国勢社
共同通信社編(1999)『20世紀未来への記憶』洋泉社
下斗米伸夫、北岡伸一(1999)「国際組織の発展」『新世紀の世界と日本(世界の歴史30)』
中央公論新社
日本国際連合協会著(1998):『日本語版最新国際連合ガイド』講談社
United Nations Understanding the United Nations Department of Public Information,United Nations,1997
UN(1998): | Resolutions adopted by the General Assembly during the first Part of its fifty-second Session from 16 September to 22 December,1997 UNIC TOKYO |
国際連合広報局著(1997):『国際連合の基礎知識』世界の動き社
最上敏樹(1997):「国際機構と平和波動」『25戦争と平和』岩波書店
水島朝穂(1997):『武力なき平和』岩波書店
United Nations(1995): Secondary School Kit on the United Nations UNITED NATIONS PUBLICATION
外岡秀俊(1994):『国際連合新時代−オリーブと牙』筑摩書房
河辺一郎(1994):『国際連合と日本』岩波書店
国際連合ホームページ(国際連合広報センター):http://www.unic.or.jp/index.htm
国際連合PKOホームページ:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/chikyu/pko/index.html
国際連合とコソボ問題:http://www.unic.or.jp/recent/kosovo.htm
日本ユニセフ協会ホームページ:http://www.unicef.or.jp/
日本ユネスコ協会連盟ホームページ:http://www.unesco.or.jp/index1.htm
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