小学校3年生社会科
米国「ニコレットモール」と「本町商店街」
〜商店街の活性化のための工夫をより鮮明に〜
上越教育大学学校教育学部附属小学校 福保 雄成

1.はじめに
(1)新学習指導要領との関係
 新学習指導要領「第2章各教科第2節社会」では、次のように述べられている。以下抜粋する。

第2各学年の目標及び内容
〔第3学年及び第4学年〕
1 目標
(1) 地域の産業や消費生活の様子、人々の健康な生活や安全を守るための諸活動について理解できるようにし、地域社会の一員としての自覚を持つようにする。
2 内容
(2) 地域の人々の生産や販売について、次のことを見学したり調査したりして調べ、それらの仕事に関わっている人々の工夫を考えるようにする。
ア 地域には生産や販売に関する仕事があり、それらは自分たちの生活を支えていること。
イ 地域の人々の生産や販売に見られる仕事の特色及び国内の他地域などとのかかわり。
3 内容の取り扱い
(1) (1) 内容の(2)については、次の通り取り扱うものとする。
ア イについては、農家、工場、商店などの中から選択して取り上げること。その際、地域の生産活動を取り上げる場合には、自然環境との関係について、販売を取り上げる場合には消費者としての工夫について、それぞれ触れるようにすること。
イ イについては、国内の他地域だけでなく、外国とも関わりがあることに気付くように配慮すること。その際、児童に無理のない取扱いをすること。
下線部は福保による

(2)教材化の意義や教師の教材観
 当校は、特定の学区を持たず、広いエリアから児童が通学してきている。そのため、社会科で扱う対象は学校周辺のものが中心となる。本単元では、「本町商店街」を取り上げ学習を進める中で商店街の活性化のための工夫に気付かせていきたい。
 米国「ニコレットモール」は、全米でも注目される活性化の成功した中心街である。その特徴は、人が中心にあるという考え方。徹底的に人を中心に考え、道路は狭くスピードが出せないように緩やかなS字状にし、道路の2倍以上の幅の広い歩道を作っている。また、市の中心部へ入る車を減らすために周辺部に駐車場を設置するなどの対策もとられている。また、冬は上越以上に寒さが厳しいため、「スカイウェイ」と呼ばれる通路で2階部分が結ばれ、屋外の寒さとは関係がなくショッピングができるように工夫されている。これらの「ニコレットモール」の活性化については、1枚の写真からもはっきりと読み取ることができるものである。教材としてこの「ニコレットモール」の写真を提示することにより、児童がより鮮明に「本町商店街」の活性化のための工夫を見つけるための視点を持つことができると考える。
 「本町商店街」は、以前に比べてシャッターを降ろしたままの店が増え、人通りも少なくなっている。そのため、駐車場を整備して無料チケット(1,000円以上の買い物をした場合)を発行したり、共通のイベント開催や「ゆめカード」(共通サービスカード)の発行などの工夫をしてきている。市としても駅前の再開発を中心とする様々な政策によりてこ入れを図っているところである。
 高速交通網が発達して郊外型大型店が数多く出店し成功している現状は米国も日本も同じである。例えば上越においては、「上越大通り沿い」「ウイングマーケット」「山麓線沿い」「ジャスコを中心とした地区」がある。これらは、いずれも交通の便の良いところに広い駐車場を設置し、自動車を利用したショッピングに便利なように配慮されている。米国でも、郊外に商店がまとまって出店し、広大な駐車場を備えた一大ショッピングセンターを形成している。上越ウイングマーケットのモデルとなったのも「モール・オブ・アメリカ」と呼ばれる全米最大のモールである。モールと同様の考え方で作られているのは、「ウイングマーケット」「ジャスコの専門店街」「イトーヨーカドーの専門店街」「サティの専門店街」など、大型店を中心として形成された専門店街である。
 「本町商店街」を通して学ぶ際、「ニコレットモール」を取り上げることにより、活性化のための工夫がより鮮明にとらえられるとともに、今までと異なる視点で見ることができるようになると期待している。

2.授業構想
 子ども達が、自分の興味・関心のあるものを追求していけるよう活動する時間を確保するとともに、追求の視点を明確にしながら活動を展開していくよう構想した。「本町5丁目商店街」の見学を済ませた後に「ニコレットモール」を教材として提示することにより、見慣れた「本町商店街」と初めて見た「ニコレットモール」を比較し、人を中心とした町づくりという新たな視点をもつことができると考えた。
 この視点をもつことで子ども達は、「本町商店街」の工夫を表面的なものから利用者の立場に立ったものへと深化させて考えることができる。その上で、「本町4丁目商店街」を見学することにより、自分の興味・関心のあるものだけでなく、利用者の立場に立った工夫をも見つけていくことができるのである。 新たな視点をもたせるためにコンピュータを利用して表現した「ニコレットモール」を教材として利用している。教室にあるコンピュータ(Macintosh LC630)3台とコンピュータ室(iMAC)20台にデータを入れておき、自分の考えが正しかったかどうか確かめることができるようにする。写真から読み取ることを基本と考え作成した。

主な学習活動 主な教師の支援
@「本町5丁目商店街」の工夫を探す活動
(個人活動による本町商店街の調査)(3時間)
A「本町5丁目商店街」の工夫を発表する活動
(1時間)
B「ニコレットモール」の写真から工夫を読み取る活動
(コンピュータによる確認)(1時間)
C「本町4丁目商店街」の工夫を探す活動
(個人活動による本町商店街の調査)(3時間)
D「本町商店街」の工夫をまとめる活動
(2時間)
E「ジャスコ」「ウイングマーケット」等の工夫を探す活動
(グループによる調査)(3時間)
F自分の考えをインターネット上に表現する活動
(インターネットの利用)(3時間)
・「商店街の工夫を探す」という視点から活動するよう助言する。
・「商店街の工夫」と「商店の工夫」に分けて意図的にまとめていく。
・コンピュータにデータを入れて、個々に操作して確認できるように準備する。
・今までの活動から分かったことと比べながら活動するよう助言する。
・分かったことを学習シートにまとめていく。
・郊外型大型店を見学し、商店街との違いを明らかにする。
・注目した商店について、聞き取りを行い、商店の方に協力をいただきながらホームページ上にまとめていく。

3.主な授業の概要
(1)大まかな流れ
3)「ニコレットモール」の写真から工夫を読み取る子どもの活動を中心に

ア 「ニコレットモール」の写真を見る。(OHP提示、個人配布)
イ 場所を想像して発表する。(挙手発言、板書、世界地図)
ウ 活性化に成功し米国で注目されていることを知る。(教師の説明)
エ 「ニコレットモール」の工夫を読み取って記録する。(ノートに記録)
オ 読み取ったことが正しかったかどうか、コンピュータで確認する。(コンピュータの活用)

 ア 「ニコレットモール」の写真1を見る。
写真1:ニコレットモール(拡大写真あり)
(OHP提示、個人配布)
 「ニコレットモール」の工夫がよく分かる写真をOHPで提示するとともに、子ども達に1枚ずつ写真を配付する。この写真からは、次のことを読み取ることができる。
・道路が歩道よりも狭い・街灯がある
・人の休む場所がある・花壇がある
・スカイウェイがある・道路が曲がっている
 イ 場所を想像して発表する。(挙手発言、板書、世界地図)
 場所については、写っている人や雰囲気から日本でないことが分かる。ここでは興味をもたせる程度にし、あまり時間を取らないようにする。
 ウ 活性化に成功し米国で注目されていることを知る。(教師の説明)
 「ニコレットモール」が全米で注目される中心街の活性化に成功した地区であることを説明する。この際、中心街というのが米国で衰退し始めていることや「本町商店街」と同じように活性化に努力している地区であることを分かりやすく説明する。
 エ 「ニコレットモール」の工夫を読み取って記録する。(ノート記録)
 「ニコレットモール」の写真から分かる工夫をノートに書き出していく。
 オ 読み取ったことが正しかったかどうか、コンピュータで確認する。(コンピュータの活用)
写真2:最初の画面
写真3:道路の説明の画面
 「ニコレットモール」の工夫を確かめるために、Macintoshで動作する「GREEN」というマルチメディア対応オーサリングソフトで作ったソフトを活用する。このソフトは、最初の画面(写真1)から読みとれる工夫した部分をクリックすると、画面に説明が出て、音楽が流れるように作成してある。(写真2)
 子ども達は、自分のノートを見ながら工夫してあると思われる場所をクリックして確かめていくことができる。コンピュータを活用することの良さは、試行錯誤ができることとデータを自分のZIPに保存しておけることである。
(2)授業の概要
教師「この写真を見てください。(写真1をTPで提示)」
A男「あ、これは外国でしょ。」
K子「よく見えません。」
教師「それでは、1人1枚ずつ写真を配りますから、配られたらノートに貼り付けてください。」
G男「これは、アメリカでしょ。大きな建物が多いや。」
J男「早く教えてよ。」
教師「これは、アメリカにあるニコレットモールという商店街なんだよ。アメリカでも注目されているんです。何が注目されていると思いますか。」
児童「...」
教師「アメリカでもね、日本と同じように商店街がいろいろな工夫をしているんだけど、お客さんが少なくなってしまって、困っているんだ。ところが、このニコレットモールは、街を大きく変えてお客さんが集まるようにしたんだよ。それで、アメリカの人たちから注目されたんだ。」
(ここで、世界地図とアメリカの国内地図を掲示し、その広さを感じ取らせる。)
教師「アメリカは、広い国だね。」
T子「私は、夏休みにハワイへ行って来ました。とても暑かったよ。」
教師「そうだね。ハワイもアメリカだね。ここが、ハワイだよ。ハワイにも商店街があったかな。」
T子「お店がたくさん並んでいました。」
教師「本町5丁目の商店街で商店街の工夫を調べてきましたね。君たちが発表したのは、これだね。
(発表をまとめた画用紙を提示し、見つけた工夫を想起させる)」
R男「そうそう、ベンチや花壇があったよね。そういえば、水を飲むところもあったよ。」
写真4:記録する子ども
教師「良く覚えていたね。いろいろな工夫をしているんだ。じゃあ、今みんなの手元にある写真からね、ニコレットモールの工夫を読み取ってもらいたいんだ。工夫はありそうかな?」
E男「ある、ある。ほら、ここにベンチが...」
教師「工夫がありそうだね。しばらく時間を取りますから、ノートに見つけた工夫を箇条書きで書き出してください。」
(子どもの書く様子を見ながら必要に応じて助言する)
児童:写真を見ながらノートに見つけたことを書き出していく。
教師「それでは、いくつの工夫を書き出しましたか?0?,1?,2?,3?,4?,5?、まだありますか?」
児童:自分の見つけた数の時に挙手をする。1つも見つけられない子どもはいなかった。最低で3つ。最高で6つという子どももあった。
教師「たくさん見つけたようですね。それでは、これからコンピュータを使って確かめましょう。コンピュータ室へ移動します。」
児童:ノートをもって、コンピュータ室へ移動する。
教師「それでは、コンピュータを立ち上げてください。デスクトップ上にニコレットモールというアイコンがありますから、それをダブルクリックしましょう。自分の見つけた工夫の場所をクリックすると何かが変化します。交代でクリックしましょう。」
児童:コンピュータを立ち上げ、GREENで作ったニコレットモールを操作する。
写真5:GREENにより作られたニコレットモールの教材イメージ

 GREENは、画面をクリックすることで、いろいろなアクションを実行できるように設計できるオーサリングソフトである。例えば、歩道をクリックすると「歩道は道路よりも広くしてあります。こうして人が気持ちよくすごせる町づくりに取り組んでいます。」と説明が画面に表示され、音楽が流れるようにした。更にどこかをクリックすると最初の画面に戻るように設定してある。子ども達がクリックするだけで学習が進むように設定した。逆にクリック以外は、反応しないようにしてある。こうすることにより、余計な操作に気を取られて混乱するのを防ぐためである。
 子ども達は、交代しながら自分の記録したことを確かめていった。
写真6:コンピュータで確認する子ども
写真7:スカイウェイの説明画面
写真8:友達と確かめ合う子ども
W子「やったー!やっぱり、人の休むところだったんだ。」
教師「このガラスでできたものだね。私が行ったときには、話をしたり新聞を読んだりしていたよ。良く見つけたね。」
W子「よく分からなかったんだけど、クリックしてみたの。そうしたら、説明があったから分かったんだ。」
教師「そう、ノートに書いてある「梯子のようなもの」は確かめられたの?」
W子「今確かめてみるね。−クリック−あー、これは、通路だったの?スカイウェイって書いてあるよ。先生はここを通ったの?」
教師「そうだよ、この写真もスカイウェイから撮ったんだよ。」
W子「いいなぁ。私も行きたいなぁ。」
教師「自分のノートに書いてあった工夫について調べたら、画面のいろいろなところをクリックしてごらん。気付かなかった工夫が分かるかもしれないよ。」
児童:画面を端から順にクリックしたり、ねらいを定めてクリックしたりして、楽しみながら工夫を見つけ出し納得していた。
教師「ノートに分かった工夫をまとめていきましょう。自分が見つけたこととコンピュータを使って分かったことを分けておくようにしてください。」
U子「あの小さいものは、何かな?電話かな。」
教師「小さすぎて分からないね。私が見てきたときには、気が付かなかったよ。」
児童:自分の見つけた工夫に、コンピュータを操作して分かった工夫を加えて、ノートをまとめていた。箇条書きでまとめていく子どもがほとんどであった。友達と教え合ったり、自分の見つけた工夫の確かさがコンピュータで確認できたことを友達に教えたりして終了時刻となった。子ども達は、楽しかったとつぶやきながら学習用具をまとめ、教室へと戻っていった。

写真9:記録する子ども
4.授業の評価
(1)写真教材について
 今回、写真教材としてニコレットモールを取り上げることにより、子ども達に「人を中心とした町づくり」という視点をもたせることができると考えた。実際に写真を見せてみると、こちらが予想する以上に細かなところまで読み取って、工夫していると思われることをまとめていた。たくさん見つけようとするあまり、小さすぎて判別不可能な物でも工夫として記述する児童が見られた点は、反省材料でもある。

(2)コンピュータソフト「GREEN」で作った教材について
 写真教材だけであると、挙手発言で終わりになってしまいがちである。コンピュータを活用することで、一人ひとりがコンピュータを操作しながら友達と解答を見つけることができた。その場の雰囲気は楽しく、あたかもゲームをして楽しんでいるかのようでもあった。教材として考えた場合に、音楽を入れるのが良いか迷ったのだが、結果としては、良かったと思う。子ども達は、一つひとつのアクションにより音楽が違っていることに気付き、それが、ひとつの楽しさにもなっていたからである。しかし、工夫の分かる典型的な写真が素材として得られたことが、活動を支える基礎となっていたことは、言うまでもないことである。

写真10:インタビューする子ども
(3)新たな視点について
 子ども達は、本町商店街を見学する中で、工夫を見つけてきた。しかし、それは、目に見える物を列挙するだけにとどまることが多く、その工夫の目的を考えるまでには至らなかった。しかし、今回の授業が、「人を中心とした町づくり」という視点から、本町商店街を改めて見つめ直す機会となった。後日、見学に出かけた際には、「どうしてベンチを出しているんですか。」「誰のために花を飾っているのですか。」という質問をする子どもが出てきている。厳密には分からないが、子ども達の中に新たな視点ができたと感じる場面であった。


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